第31話
輝く未来 優しい日常
〜中央塔の崩壊から1ヶ月後〜
「・・・・お前なぁ、何しにここに来とんねん・・。」
橘祐宇と、宵原夏幻、夏純はこの間訪れたバッティングセンターへと足を運んでいた。
「来てるんじゃなくて、連れて来られたんだろ?」
「お兄ちゃん。」
椅子に座り、ジュースを飲んでいる夏幻を夏純が制する。
「とにかく、今の若いモンがスポーツできずに何をする!さあ、入れ入れ!」
「お・・・おい!」
橘が、夏幻に無理矢理バットを持たせる。
「・・・ったく・・。」
「頑張れやー!」
「頑張れーvv」
橘と夏純がネット越しに応援する。
しばらくすると、1球目が飛んで来た。
夏幻がバットを振ると、勢い余って体が一回転した。
球は後ろのネットに当たると、地面に落ちた。
「・・・・・・!!」
夏幻がもう一度、立ち上がり、バットを握り締めると素振りを始める。
料金分の球が出終えると、夏幻が橘と夏純の元へと戻ってきた。
「だーー!おっさん!もう一回!!!100円よこせ!!」
「おぅおぅ、ノって来おったな!だが残念!バッティングは一回200円や!!」
「じゃあ200円!!出せーー!」
橘はサイフから200円取り出すと、夏幻に手渡した。
「ねぇねぇ。」
「おぅ?なんや。」
「あれ、食べたい・・・。」
夏純が、休憩所のメニューが書いてある蛍光板を指差してそう言った。
「お、良いで!買ってきぃや」
橘は夏純にも料金を渡した。
「・・・・・。ワイは保護者かい。」
橘が1人で苦笑する。
「おっさーーーーん!どうだ、当たったぞーーー!!」
「ね、美味しいよ、食べる?」
2人の声が、橘の耳に良く響く。
「ま、これもまた一興・・やな。」

「これ、部隊の皆さんに渡して置いていただけますか?」
「部隊はもうありませんよ。もちろん、この包みはしっかりと渡して置きますが。」
エリクスン・ブルフォードが在籍する大学に、英伊緒が包み紙を持って訪ねてきた。
「それにしても、どうしてこんな所まで?ただ渡し物をするだけならば、夏純ちゃんに持たせれば
良かったのではないでしょうか?わざわざこんな遠い所に・・・。」
「夏純ちゃんに持たせるのも不安だし・・・。橘さんに渡ってもその後の保証がありませんから。」
伊緒が笑いながらそう言う。
「まぁ、確かに。祐宇の事だ。全て自分の腹に収めるかもしれませんね。」
エリックと伊緒が、共に笑う。
「こうして笑っていられるのもあと少しなんですね。」
「ええ・・。帰るのでしょう、本家に。」
「はい・・・。」
伊緒は本家へ戻り、正式に家の跡取として修練を積む事が決まった。
その為に町を出て、本家へ戻らなければならなくなった。
「大丈夫ですよ。町は違っても、そんなに遠い距離じゃない。会うくらいならいつでも・・。」
エリックがそう言うと、伊緒の顔に笑顔が戻る。
「そうですね・・・。いつでも、会えますよね!」
その伊緒の言葉に、もう一度エリックは深く肯く。
「それじゃあ!皆さんによろしく伝えて置いて下さいね!」
「えぇ。・・・それでは、『また』。」
伊緒はこの街を去った。
エリックは、去りゆくその背中を見つめていた。

「あー、あれだね、あれ。美味いや、やっぱ。」
双真が、とある一室の中心に置いてあるテーブルに並べられた料理を口にして、そう言う。
「おーい、双真ぁ。先に食ってんじゃねーよ」
「ははーん!遅いから悪ぃーんだよ!・・・ぐはぁ!!」
太一に向かって罵声を浴びせる双真に、奈津が脳天からおたまを振り落とす。
「先食い禁止!まだ分かってないのー!?」
「あ”−−、ゴメンなさいゴメンなさい!!」
双真が、小動物のように部屋の隅に逃げる。
「まったく・・・。」
「奈っちゃん、卵とか無いぞ?」
「え、ほんとに?」
台所から太一に呼ばれ、冷蔵庫の中身を確認に向かう奈津。
「あ、ホントだぁ〜・・。買っといたと思うんだけど・・・。」
その買っておいた卵が既に双真の腹の中にある事は、本人も気付いていないが。
「買いに行って来る〜。」
奈津がおたまを台所に置き、財布を手に取り外に出ようとする。
「奈っちゃん、俺も行く。」
そう言って太一も奈津の後ろを着いていってしまった。
「あーらあら、分かりやすい奴。・・・と、まぁこの隙に・・・。」
部屋に1人残された双真は、食卓の料理に手を伸ばす。
「なんかこうして普通の生活できてるのが不思議なくらいだよ」
卵の他にも色々と買いだめたのか、大量の買い物袋を持ち、奈津と太一が町を歩いていた。
「俺に至っては、料理したのなんか数年ぶりだぞ?」
太一が苦笑しながらそう言う。
「銃なんか持たないで済むから、これからは料理の勉強でもしよっかな。」
「勉強するまでもないんじゃないか?充分美味いよ、うん。」
「お世辞言っても何も出ないよー。」
「お世辞じゃないさ。」
雑談しながら帰路についていた太一と奈津に、冬の冷たい風が吹き付ける。
「もう冬だもんねぇ・・。寒いや。」
「こういう時は、ぱっぱと帰る!でもって・・・。」
「でもって?」
「・・・奈津の美味い料理を食う!」
「オッケー!任せなさい!!」
2人は笑い合いながら帰路へ着く。
