第7話
太一と双真




あれから一週間。
ビルのテレビのモニターには、毎日のように、「殺人事件」が報じられていた。
あまり大きくは動けない異種生命体捕縛部隊であったのだが・・・。
ついに、中央塔からの捕縛指令が、来た。
「やっとか!全く、中央塔は一体何を考えとるんや!もう10人は犠牲者出とるで!」
橘が、大きく息をついて、そう叫んだ。
「どの番組でも、犯人は『赤い髪の子供』か・・。」
太一が呟く。
「本当に、双真って子なのかな・・・?」
琴奈が、問い掛ける
「間違い、無いよ。最も、姿が4年前と全然変わってないのはおかしいんだけどね。」
松葉杖を突いた奈津がそう言った。双真を知っている奈津が言うのであれば、間違いは無いのだろう。
「どうにかして、彼と会えないんでしょうかね・・。このままじゃ犠牲者が増えるだけです。」
「それに、捕縛命令も来たんやし、放っておく訳にもいかんやろ。」
エリックと橘が口々に言う。
「それより、あんたら、本当にその、双真って奴を捕縛できるのか?」
椎名が、厳しく問い掛けた。
「分からない。あいつに憑いているマホロバをどうにかできないだろうか・・・。」
「マホロバが憑いている以上、捕縛するしか道が無いんだもの・・。」
太一と奈津が困った表情で言っている。
「それに琴奈ちゃんが言うには、双真の奴はシャレにならん力なんやろ?
 捕縛どころか、勝てる可能性はあるんかいな?」
橘が現実的なことを述べた。
殺すのと、捕まえるのでは、訳が違う。
銃や、多種多様の武器を使えば、殺す事は何とか可能かもしれない。
だが、捕まえるとなると、あまり強力な武器は使えない。
つまり、殺す場合以上に、技術と能力が必要とされるのだった。
「ちょっと卑怯なやり方かもしれないけど、全員で戦うとか・・・。」
琴奈がそう提案する。
「それでは、話し合いの余地すら無いな。」
太一がそれをあっさりと否定する。
「誰かがおとりになるしかないんじゃないか?それで、話し合いに応じないようなら全員で。」
椎名が、何の感傷もなく、そう言う。
「確かに、それしか無いようだが・・・。誰が?」
「私と、椎名君はどう?私達には、彼、あまり攻撃的じゃないみたいだし・・・」
琴奈は、自分が殴られていることを既に忘れていた。
「俺はともかく、お前は間違いなく『敵』として認識されてるぜ。」
椎名が、的を射た指摘をする。
「でも・・・。なら、どうすれば?」
「俺1人で行くって言ってるんだ。俺はあの夜、あいつに姿を見られてないからな。」
「君が、彼を説得できるほどの話術を持っているとは思えませんが・・・・。
とは言え、他の者が行っても、話すら聞かせる事も出来ないかもしれませんね。」
琴奈、椎名に続き、エリックが言う。
「そうだな・・・。じゃあ、椎名君に任せる事にするよ。決行は、明日の早朝にすると良い。」
太一がそう言い、更にエリックが続ける。
「彼が犯行に及ぶのは、人通りの少ない、深夜〜早朝の時間帯にかけてです。
 いざ、戦闘になった場合、視野の効く早朝を選ぶのが最適・・という訳ですね。」
「そういう事だ。」
「それじゃあ、明日に備えて、休む事にするよ。」
「ああ。明日の早朝、すぐに出発するからな。・・・それじゃあ、俺も寝るとするよ。」
太一が、妙に念を入れて言う。そして、扉に向かう太一の背中は、こころなしか、影が映る。



深夜3時。大橋の小さな路地で、また1人の人間が、屍と化した。
「あいつらも、指令が無ければ、俺のことは野放しか・・・!
 やっぱり、あいつらは任務で無ければ動かないんだな!!」
綾咲双真は、こもった声で小さく叫んでいる。
それから、路地を抜けて歩き出すと、大橋平和公園へとやって来ていた。
「さて、今夜の遊びはこのくらいでやめておこうか。」
そう言って、双真は木の上に作られている簡易な寝床を見あげる。
足を強く蹴りだそうとした双真だったが、後ろに居る人影に気がついた。
ゆっくり振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。
「来た・・・来たな!お前を待ってたんだよ!親友!」
双真の前に立っていたのは、紛れも無く大丸太一 本人だった。
「やっぱり、お前が無意味な殺人を繰り返すのは、俺を誘い出す為かい?」
太一が、普段通りの口調でそう言った。
「ああ、そうさ!この、マホロバをも制御した、綾咲双真が、あんたに復讐するためさ!」
「違うな。」
双真の言葉を、太一は堂々と否定する。
「なんだと・・・?はっ!現にこうやって、マホロバの力を身につけつつ・・・。
 なおかつ、人間としての恨み、意志、狂気も間違いなく僕の中にあるじゃないか!」
双真は口調を荒く、そう叫んだ
「違う。やっぱりお前は、マホロバ憑きの定義通り、マホロバに制御『されている』んだ。」
「何を言っているんだ!ならなんで、僕の意志はここにあるんだい!?
 あんたらに復讐するのは、間違いなく僕の意志だ!!」
「・・・。双真は、俺を恨んでなんかいないさ。」
「・・・太一・・・。何様だい?僕は、間違いなくあんたらを恨んでるよ。
 これは僕自身が一番よくわかってる!!」
「話す必要なんてない。今のお前は、双真であって、双真では、ない。」
「意味の解らない事を言うなよ・・・!・・・まぁ、いい。
 本来の目的だ。さぁ、任務だぜ。捕縛してみせろよ、親友!!」
「あぁ・・・。すぐ・・・楽にしてやるからな、双真。」
「僕を・・・馬鹿にするなァっ!!!!」
双真が、銀色のナイフを片手に、太一に向かって一直線に走り出す。
「・・・俺が・・・お前を捕縛する。」

ふたりの男の闘いは、今始まった。



太一は、寸前の所で、双真のナイフを避わす。
それと同時に双真の側面に回り込み、正拳突きを喰らわす。
みぞおちに入ったが、双真はさほど苦しそうな顔はしていない。
「く・・っ!僕は、マホロバ憑きだ・・!ナメてかかると怪我するぞ!!」
双真は、そう言うと太一の胸に、右掌低を叩き込む。
「う・・・ぐぅ・・・!!」
太一の巨体は、4〜5m背後に滑り、太一の顔は、苦痛によがむ。
双真は、太一が体勢を崩しているうちに、再びナイフを持って走り出した。
太一は愛用のボウガンを取り出し、双真に対して構える。
その時、双真はナイフを太一に向かって投げつけた。
「うわ!!」
太一はなんとか上段蹴りでそれをはじく。
が、その後正面を見るが、そこに双真の姿は無かった。と、その瞬間。
自分の上方から、頭に踵を落とされた。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
全体重を乗せた双真の踵落としは、太一に苦痛の叫びを与えた。
「どうしたんだよ、太一。そんなもんか・・?」
「ぐ・・まだだよ!!」
太一は、不意を突いてボウガンを構え、そして撃った。
矢は双真の頬をかすめ、奥にある木に突き刺さった。
双真の頬からは、薄く赤い筋が流れていた。
「この僕の顔に傷をつけるなんて・・・。」
双真の表情は、冷酷で、また怒りが燃える表情もしていた。
太一の瞳に、リヴォルヴァーを構える赤い髪の少年の姿が映った
そして、その少年は、銃口をこちらに向け、そのまま引き金を・・・・引いた。



「ね・・ねぇ!!大変!!起きて!!」
寝付けずに、居間へと松葉杖を突いて出てきた奈津が叫んだ。
「どうした!!」
「どないした!!」
「どうしました!!」
椎名と橘、エリックが真っ先に出てきた。
「え・・?何?どうしたの?」
かなり遅れて、琴奈が部屋から出てくる。
「太一君の部屋の扉が開いてたから、中を見てみたんだけど・・・太一君がどこにも居ないのよ!!」
「なんやてっ!?!?」
橘が、そう叫んで、太一の部屋へと駆け出す。
「まさか、あいつ1人で行ったんじゃないだろうな!」
「信じたくないけど・・・。そうとしか・・・。」
奈津が悲しげに、そう言う。
「でもさ、そういう証拠はどこにも無いし・・・。」
「ダメや!太一の装備も無くなっとるで!!間違いなく双真の所に行っとる!!」
橘の叫びは、琴奈の言葉、そして、全員の希望を一瞬にして断ち切った。
「困りましたね・・。浅原さん?彼に、奈津君が襲われた場所を、教えましたか?」
エリックが、おもむろに琴奈に尋ねる。
「え?えぇ・・。一応。でも、それがどういう・・・。」
「なるほど!太一が双真を探しに行ったんなら、奈っちゃんが襲われた所を真っ先に探すハズや!」
橘がそう言う。
「正解ですよ、祐宇君。おそらく、彼はその場所に居ます。急ぎましょう。
」 全員、急いで装備を持って、大橋平和公園へと向かう・・・。



「どうだい?太一。苦しいかい?」
太一に弾丸は直撃しなかった。
だが、ホロー・ポイント弾は、太一の前で破裂し、太一はその破片を体に浴びていた。
「く・・・くそ・・。」
太一が、弱々しい声でそう言う。
「あんたを殺した後は、この間殺し損ねた天城奈津だ!その後は、橘。
 エリクスンが最後だ!!」
双真が言う名前の中に、琴奈と椎名の名前は無かった。
「いや・・・。そういえば、この間この僕に攻撃してきた女がいたな。」
「彼女には・・・手を出すな・・!」
「あんたは心配する必要無いよ。ここであんたは死ぬから。」
双真は、再びナイフを振りかざした。
すると、突然左方向から、判別の出来ない物体が飛んできた。
その謎の物体は、闇の中から的確に、双真のこめかみを打ち抜いた。
「・・つぅっ!!」
双真はたまらず右によろめく。
が、すぐに立ち直り、飛んできた物体を確認する。
それは、野球の球だった。なにやら、黒いペンで文字が書かれている。
「なんだって・・?こんな物がこの僕に衝撃を与えただと・・?」
「こんな物とは失礼なやっちゃなぁ。それ、中々のプレミアもんのサインボールなんやけど。」
闇の中からでてきたのは、橘祐宇であった。奥から、エリクスン・ブルフォードが続く。
「祐宇君。そんな大事な物じゃなくて、普通の球を投げれば良いんじゃないですか?」
「いや、なんや。なんとなく、強い気がするやん?」
「何、のんびりしてるの、2人共!太一さんが・・っ!」
琴奈が太一を見つけて、そう叫ぶ。
「ぐ・・。どうやら僕は運が悪いようだ・・。多勢に無勢なんてのは、御免だね。
 でも!いつか必ずお前らを・・・殺してやるからな!!」
そう言って、綾咲双真は、隊員達に背中を向ける。
「待て!逃がすか!!」
叫び声が聞こえ、それと同時に、3発の銃弾が双真に向かって飛んでいった。
3発の銃弾は、双真の背中を撃ち抜き、そこから赤い血が吹きだした。
「うわぁぁーーっ!!」
双真は、よろめきながらも、弾道の先を見すえる。
その視線の先には、「爆風」を構える椎名三鈴の姿があった。
「お前も・・・。僕の敵か・・・。覚えておく・・・よ。」
双真は、残る体力を振り絞って、上空へ高く跳躍した。
そして、柵を飛び越えて、その姿は、闇の中へと姿を消した。
「太一さん!!!」
そう言って、太一に近づいたのは浅原琴奈であった。
大丸太一は、ところどころから出血をしているが、どれもそれほど深い傷ではない。
早く治療すれば、大事にはいたらないだろう。
「大丈夫か、大丸!」
『爆風』を右手に持った椎名が、太一に近付いてくる。
それに気付き、太一がヨロヨロと立ち上がる。
「大丸、なんて無茶す・・・・」
椎名の言葉は止められた。
太一は、椎名の頬を平手で殴った。
「椎名君!君は・・・、散弾銃を使ったな!!!」
椎名は、ハっとして、自分の『爆風』を見る。
「どんな相手であっても、その散弾銃は致死量の傷を与える武器だ!捕縛対象に使う事は禁じていたはずだ!」
太一が大声で怒鳴って、出血のためか、少しよろめく。
「すみません・・・。大丸・・・・先輩。」
椎名は、顔を下げて、そう言った。
「・・もういい。双真が丈夫で助かったよ。」
「約束破りは、たいっさん。あんたも同じやで?」
橘が、太一に近づく。
「あんたらは、『早朝』に、『全員で』出発するって言っとったやろ?今は、まだ日も昇っとらんで?」
「・・・・。」
太一は黙って聞いている。
「それに・・・一番問題なのは、あんたが1人でやろうとしたとこや。
 あんたは、仲間であるワイらを、欺いてまで、何をやっとったんや!」
「すまない・・・。祐宇。・・・みんな。」
「それで、こんな無茶をしたからには、何か収穫は、あったんですか?」
エリックが、話題を変える為に発言した。
「あいつは・・・。やっぱりマホロバを制御してなんかいない。
 間違いなく、あいつ、マホロバに制御『されている』。」
「え・・?でも、双真君の意志はちゃんと残ってたんでしょ・・?」
琴奈が不思議そうに尋ねる。
「あれは、双真の意志じゃない。双真は、俺たちを恨んでなんかいないのさ。
あの『恨み』の感情の、本当の持ち主は・・・。」
太一は、それ以上先を言わなかった。
彼が、『双真は自分達を恨んでいない』と主張するのにも、ちゃんと理由はあった。
彼は、綾咲双真を谷底から救い出す為に、一瞬身を乗り出した時、聴いていた。
綾咲双真が、大丸太一に放った一言が、そのことを、証明していたのだった。


「僕はもうダメだ・・。だから、太一。下に、来るな。こいつは、自力で上には、上がれないよ。」
マホロバの声に掻き消されることもなく、その声は太一にだけ、しっかりと届いていた。
「生きてくれ、親友。大丸太一!」



夜が、明けようとしていた。


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