第8話 
赤は去る




ぐ・・・。身体が・・・再生しない・・。
銃弾が身体の中に残っているせいか・・・。
だんだん歩くのが辛くなってくる・・。
こうなったら、1人だけでもいい!
大丸太一の奴を・・・。刺し違えても良い!殺してやる!

赤い影は、細い路地の隙間から、満月をただ眺めていた・・。



「よう、奈っちゃん。足の具合はどうだ?」
バンソーコ―を貼った大丸太一が、天城奈津に尋ねる。
「まだ松葉杖は手放せないけど、調子は戻ってきたよ。それより、君こそ。」
「俺はもとより大した怪我じゃない。もういつでもやれるさ。」
そう言った太一の目には、決意が込められていた。
「急がないと、双真って人、出血も酷かったみたいだし、自然死しちゃうかもしれないよ・・。」
琴奈がそう言った。太一がそれに続ける。
「分かってる。だから、今夜やるつもりさ。全員でな。」
最後の言葉を強調して言った。
「それにしても、あいつを捕縛する事なんてできるのか?」
椎名がそう言う。
「大丈夫だ。ほんの一時だけで良い。双真自身をあのマホロバ憑きから引きずり出せたら・・。」
「やけど、具体的にはどうやるんや?」
太一の策に、橘が当然の疑問を掛ける。
「簡単だ。死なない程度に、叩きのめす。」
太一の口から返ってきた返事は、意外なものだった。
「どこから、そのような結論に至ったのですか?」
エリックが問う。
「なに、マホロバ憑きであるあいつを叩きのめせば、少しの間だけ、マホロバ本体を麻痺させる事も
 できるかもしれないと思ってな。その後は、双真自身にちょっと頑張ってもらうさ。」
「『かもしれない』で、危険を冒すのは、ちょっと勧められませんね。」
エリックがそれもまた否定する。
「いや・・。きっと、できる。いや、絶対だ。そんな気がするのさ。」
それに対して太一が、筋の通っていない返答をしている。
「太一を信じよう。太一なら、きっと、できるよ。」
奈津がフォローを入れる。
「『きっと』とか『かも』が多いですけど・・。こうなったら、あなたに任せますよ。」
「そこで、相談なのだが・・。あまりに大人数で行っても意味が無い。」
太一の言葉を、他の隊員は、黙って聞き続ける。
「できれば、椎名と祐宇に着いて来てもらいたい。」
「へぇ、そりゃまたどういう事や?」
橘がそれに対して口を開く。
「まず双真は、怪我をしているとは言え、まだかなりの敏捷性を持っていると思う。」
太一が少し間を置いて、更に続ける。
「だから、目くらましが欲しい。椎名、お前の『閃光』で、力を貸してくれ。」
「わかった、大丸。ゴーグルも人数分用意しておこう。」
太一が一度深くうなずいて、今度は橘のほうに向き直る。
「あいつは弱っている。あまりにも、射撃武器を多様しすぎたら、殺してしまうかもしれん。」
「・・で、なんや。」
「祐宇・・・。お前は『アレ』で、力を貸してくれ。『アレ』なら・・まぁ、殺す事は無いだろうから。」
「なんか、ワイは『アレ』なんて、地味でしょうがないわぁ。」
橘がそう言うが、周りの反応は別のものだった。
「地味・・・。私から見たら、凄い派手・・だと思うんだけど・・。」
「少なくとも・・・あんな物持って、町は歩けませんね。」
奈津とエリックが口々に言う。
「奈津ちゃん・・?『アレ』って・・・?」
琴奈が、興味深そうに質問する。
「世の中には、口では説明できない事だって、あるのよ。」
奈津が、おどけながら、そう答えた。
(アレって・・・なに・・・。気になる・・。後でみー君に教えてもらっちゃおうかな・・・。)
「浅原。捕縛用トラックを、要請しておけ。今夜、決行するぞ。」
「あ、うん。分かった。」
琴奈は、頼んでおくタイミングを逃したまま、無線へと向かった。


深夜。太一と、椎名、そして橘は、ビルを出て大橋平和公園の方向へと進み始めた。
「あいつは、人目の少ない場所で俺たちを狙う。街中では、おそらく襲われる事はないだろう。」
椎名がそう言う。
「見た所、あいつ、あの平和公園を寝床にしてるみたいだ。向こうに探す気が無かった
 としても、あそこに行けばこちらから発見することもできるだろう。」
太一が、更に的確な判断を示す。
そして、平和公園の入り口。
3人は、ただならぬ殺気を感じていた。
自分達の前方に仁王立ちする、赤髪の男。
身体に開いた3つの銃痕も、間違いなく、綾咲双真その人であった。
「やあ・・・太一。今日は武器を持っていないんだな。その代わり2人助っ人が居るようだけど。」
確かに、太一達の装備はあまりにも軽装備であった。
椎名は、『閃光』を右手に持っただけ。橘は、『アレ』を両手で構えているだけ。
太一に至っては、何も持っていない、つまり完全な無防備状態と言えた。
唯一の違いは、閃光弾の自爆を防ぐ為のゴーグルを全員が着用している事くらいだが。
その程度、双真との戦力に、さほど差は及ぼさないだろう。
「今回の、本当の武器は、お前の中にいる、そいつさ。」
太一が、双真を指差しながらそう言った。
「僕の中?なんだい?このマホロバの事かい?はっ!マホロバを狂わせる特殊な
電波とかでも作ったっていうのかい?笑わせてくれるよ!」
「お前に言った所で、届くべき所まで声は届いていないだろう。時間の無駄だ。」
太一が、拳を構える。どうやら、本気で素手で闘う気のようだ。
「聞く気も無いよ!!素手で僕と闘るなんて・・・・。あんた、狂ったのかい!?
 いくら怪我をしてても、ただの人間なんかに負ける、僕じゃないぞ!!」
そう言って、綾咲双真は、その小柄な身体を走らせ、太一の前まで移動した。
双真は素早く左手で、小さな鞘から銀色のナイフを取り出し、それを上空に滑らせる。
切っ先は太一の右の頬をかすめて、わずかに血が滲む。
それにもひるまず、太一は双真の額めがけて、正拳突きを叩き込む。
双真は、それをくらっても、まだ体勢を保っていたが、太一がさらに追い討ちをかける。
今度は腹に強烈な回し蹴りを叩き込む。
身体の丈夫さを無視して、その強い衝撃は、双真の小さな身体を吹き飛ばす。
「ふん、・・こんなの、無駄なあがきさ・・・っ!」
身を起こした双真は、あまり苦しそうな表情ではない。
太一が追い討ちをかけるために、双真に近づき、再び正拳突きを繰り出す。
が、本来頭があるべきそこには、もう何も居なかった。
その直後、背後から双真が強烈な手刀を繰り出した。
「ぐぁ!!」
太一の顔が、苦痛によがむ。椎名は、まだ閃光弾の装填が済んでいない。
橘は、閃光弾で双真の目を無効するまで、攻撃を禁じられていた。防御されたら、威力はゼロに等しい。
「そら!!」
双真は、技ではなく、ただ太一を強く殴りつけた。
その威力も絶大で、太一の巨体を数m後ろに吹き飛ばした。
「ぐ・・は・・。」
太一が、足をよろめかせて、また立ち上がる。
「しつこいよ!!これで、終わりにしてやる!!」
そう言うと双真は、右腰のホルスターから、単発式リヴォルヴァーを引き抜いた。
その銃口の奥には、恐らくホローポイント弾が込められている事だろう。
双真が銃口を太一に向けて、引き金を引こうとしたその時。
「大丸!!!!いくぞ!!」
椎名がそう叫び、少し大きめの長筒の引き金を、引いた。
それと同時に、丸い、球のようなものが銃口から飛び出してきて、双真の目の前に落ちた。
「・・・なんだ、これは?」
双真が、謎の物体を調べる為に、顔を近づけた、その時。
その球は、眩い、激しい光を放って、砕けたのだった。
「う”ぁぁぁぁぁ!!く・・・ぁぁ!!」
双真は、両目を抑えて、たったままもがいている。
「祐宇!頼む!!」
「よっしゃ!やったる!!」
そう言って橘は双真に一直線に近づき、すれ違い様に『アレ』の一撃を喰らわす。
『アレ』で一撃を加えた時、『バチィ!!!』と言う音がした。
その直後、双真が半回転して、地面に倒れこんだ。
太一が、その双真に飛び乗って、馬乗りになった。
右手を払って、双真が持つリヴォルヴァーを弾き飛ばした。
そして、渾身の力を込めて、双真の顔面に強烈な正拳突きをぶち込んだ。
その瞬間、双真からほんの一瞬だけ、明るい光が出てきた。
その後双真は、立ち上がろうとするが、太一を押しのけて立ち上がった双真は・・。
糸の切れたマリオネットのように、その場に座り込んだ。
そして、目を見開いて、太一の姿を見上げている。
その目は、以前のそれとは違う、柔らかい、優しい光を放っていた・・・。


「双真!双真だな!やっと、戻ってきたんだな・・!」
「太一・・・僕は・・・。何をやっていたんだ・・。」
「あまり気にするな!あれは、マホロバの意志が、お前を支配して・・・。」
「いや・・・僕は意志を保っていた・・・。無意味な殺戮を繰り返していることも、分かってた。
 分かってた・・・だけど、続けてた。」
「双真・・・。」
「僕は、強い力を手に入れたと、勝手に思い込んでたんだ・・・・・・。
 ただ、マホロバの狂気が、僕を突き動かしていただけだって言うのに・・!」
双真が、目に涙を浮かべて、言葉を出す。
「双真・・・。お前に憑いて居るのは・・。あの時の、捕縛対象だな・・?」
「ああ・・・。きっと。」
「双真。こんな事を言いたくないが・・・おとなしく、今のうちに、捕縛・・・させてくれるか?」
「・・・・・。あぁ。今はおさまっているようだが、いつまた再発するか、分からない。」
双真は、不満を抱く事無く、それを承諾した。
すぐに、捕縛用のトラックが、現場に到着する。
双真は、自らの意志で、そのトラックに乗り込んだ。
「双真・・。お前が殺されないよう・・・中央塔に申請しておく。」
「ああ・・。ありがとう、太一。」
トラックにエンジンがかかり、少しずつ前進する。
それにあわせて、太一も追いかける。
「太一!ごめんな!苦しい思いをさせて・・」
「謝るな!こんな状況でも・・・任務しか守れない、俺を許してくれ!!」
「太一・・あんたは、捕縛隊員なんだ!・・あんたの行動は、間違っちゃいないさ!それに・・。」
双真は、ひたすらに叫びつづける。
「僕はあの時『死』んだんだ!だから・・・あんたが気にすることなんて・・ひとつもない!」
「双・・真・・」
「ありがとな・・。太一。僕は、あんたの事、本当の親友だと思ってる・・・だから・・・。」
その言葉の先は、突風に掻き消されて、太一の耳に届く事は無かった。
「大丸・・・。帰ろう。」
椎名が太一に声をかける。
「ああ・・・そうだな。みんなが待ってるな。」
大丸太一は、大地を踏みしめて、仲間のもとへの帰路についた。


次の日の早朝。
琴奈が、少し早めに目を覚ました。
パジャマのまま広間にでてきて、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。
プルトップを片手で開けて、飲み始める。
コーヒーを飲みながら、ふと視線をテーブルの上に向ける。
その上に乗っている「物体」を見た琴奈は、コーヒーを飲む手を、止めた。
それから、数秒固まって、やっと第一声をあげた。

「これって・・・アレ?」
テーブルの上に乗っている、紙で出来たそれは、間違いなく、橘が使った、『アレ』であった。
(確かに、これは、街中ではあまり持って歩きたくないかも・・・ね。)




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