第9話 
凶悪なお節介




広大な花畑。
その壮大な景観は、まるで花の海のよう。
その海に立つ一人の少女がいた。
銀色の髪を風でなびかせ、少女は花の海を見つめていた。
サラサラとざわめく花の海に引き込まれるように、少女はその場に横になった。
「風が、花が、凄く気持ちいい・・・。」
,
両手を大きく広げて、花の海で大の字になる。
伸ばした右手の先には、棘のついた薔薇が咲いていた。
「痛っ。」
薔薇の棘は、少女の右手人差し指に刺さり、赤い筋を垂らした。
その瞬間。少女は突然立ち上がり、頭を両手で抱え込んだ。
「うぁぁっ!だ・・ダメ!!出てこないで!!いいから!いいから!!!」
少女は苦しみながらそう叫びだす。
「い・・伊緒お嬢様!!」
少し離れた所にある屋敷の門から、老人が名前を呼ぶ。
「じ・・爺・・や。近づいたら・・・ダメ―――っ!」
風がざわめいた。
空がざわめいた。
ざわめきが止まり、少女が次に見た時には・・・。
花の海は、完全に消え去っていた。
「凛・・・・。何で・・・・・。」
少女の頬を涙が流れる。
彼女は病気の療養のため、明日からとある街へと移る。
彼女の内に眠る「節介焼き」は、少女の意志で止められる物ではなかった。
少女は外、世間へ出ること嫌う。
自分の為ではなく・・・、ただ他人が傷付く事を嫌う。
自分が世間に出なければ・・他人が傷つく事なんて、無い。そう感じていたのだ。
世間に出ることが必然とされた時、彼女の内に眠る、銀は目覚める。




椎名三鈴は、沈黙していた。
他の隊員は、全員出払っていて、今ビルに居るのは、椎名1人。
の、はずだった。
少々の買い物の為、コンビニエンスストアに行って、戻ってきた椎名の目に、1人の男が目に入った。
一見すると、学者風の男で、歳はおそらく40前と言った所だろうか。
まだこちらには気付かないようで、ソファーに座り込んでいる。
椎名もまた、その正面のソファーに座る。そして。
「・・・なぁ、誰だ?」
椎名が当然、その男に尋ねる。
「誰だ、とは、自分が置かれている立場の事を差すのか、それとも私の名前のことを差すのか。
 それは定かではないが、君は私の情報を引き出そうとしている、そうだね?
 だが、隠すような事など、何も無いし、隠す気も、無い。いいでしょう。答えて差し上げよう。
僕はエリクスン・ブルフォードに学問を教えていた身でね。あ、そうでしたね。
 あなたが聞いているのは、名前である可能性も、考えられます。それでは、そちらも答えておこう。
 僕の名前は、大林光貞と言う。オオバヤシミツサダだよ。以後よろしく。
 とりあえず、私としては、君の名前も聞いて置きたいのだが、どうかな?」
その男が、早口で、一度もつまることなく長い言葉を発する。
椎名は、しばらくあっけに取られていたが、すぐに我に戻り、質問に答える。
「椎名三鈴だ。異種生命体捕縛部隊第13小隊突撃担当。」
椎名は、簡易に、自分の名前と、階級、役職を告げた。
「なるほど。君は、エリックの後輩と、いう訳だね?
 そうかそうか、あのエリックにも、ついに後輩ができたんだね、うん。
 それにしても、君の名前は女性に用いられる例の多い名前だね、うん。
 そのことをコンプレックスに思っているかもしれないが、あまり気にしてはいけないよ。うん。」
「名前の事なんて別に良いだろ。それに、コンプレックスになんか思っちゃいないよ。」
椎名が、少しムっとした表情で、大林を睨みつける。
「ムキになるということは、やはりその事象に対して、何か思い入れがあるという事だよ。
 つまり、君は自分の名前が女性的である事を指摘され、ムキになったという訳だ。
 早い話、君は自分ではそう思っていないかもしれないが、その名前に多少のコンプレックスを抱いていることが分かるよ」
大林の口は、とどまる事を知らない。
「一回一回の説明が、長いんだよ・・・!」
椎名が、正直な指摘をする。
「私の説明が、いつも長すぎる、そう言いたいんだね?
 しかしそれは、僕がより細かく事実を伝えようとしているだけであって、
 決して無意味に口数を増やしているという訳ではないのです。
 より多くの言葉を用いて、真実を相手に伝えるというのが、私の信条ですから。」
椎名が、思わず溜息をついて、深く頭を抱える。
「そうそう。今、何かニュースがあっているのではないかい?
 できることならば、君にテレビの電源をつけていただきたい。
 『自分でつけろ』、そう言いたそうな顔をしてるね?
 しかし、僕が君に頼むのには、2つの理由がある。
 まず、僕はここの人間ではないからね。ここにある物を勝手に使う事は、出来ない。
 しかし、君なら、ここにある物資を扱っても特に問題はないだろう。
 もう一つは、君が、僕よりテレビに近い位置に、座っているということだ。
 私は合理的じゃない事は嫌いでね。より少ない動きで、行動を起こせるかどうかを重視するんだ。
 だから、テレビまでの歩数が少ないと思われる君に、頼んだ。と、言う訳さ。」
椎名が返答を返す暇もなく、椎名がそう言ってきた。
「エリクスン・・・こうなったら浅原でもいい・・・。とにかく誰か帰ってきてくれ・・・。」
椎名は、本気で、心の底から願いを込めていた。
椎名にとって、その空気は耐えられる物ではなく、再び外にでようと、扉に近付いた。
「おや?君はここを出て行ってはいけないと、僕は思うのだが。
 まず、君はここの住人で、君が出ていくと、この家に残るのは、部外者である僕だけだよ?
 それを放っておくと、一体どういうことになるのか、僕には想像できないが・・・
 君の行動は、警察官として決して・・・・」
「あーーー!今日はいい天気だ!!外で散歩でもしたい気分だーー!!」
椎名は奇声を発して、急ぎ足でビルの外へと出て行った。
大林の長話に付き合うほど、彼の集中力は強靭ではなかった。
この時椎名は、この男に学問を教わっていたエリックを、心の底から尊敬した。



「ねぇ、みんなには何を買ってくるように頼まれてたんだっけ?」
「椎名君は、弾薬。奈津は、固形燃料。祐宇は確か、画用紙で、太一はボウガンの矢・・・ですね。」
(祐宇さん・・。画用紙・・・やっぱり、『アレ』かなぁ・・・。)
新摩街にある、大百貨店に、浅原琴奈と、エリクスン・ブルフォードは居た。
隊員達から頼まれた品を買い出しに来ているのだった。
百貨店内にあるファーストフード店で、軽く食事を済ませた後であった。
「今日は先生が来る事になっているから、ピーナッツでも買っていってあげますか。」
「ピーナッツ?なんで・・?」
「先生は、ピーナッツが好きなんですよ。頭にいい・・・との事でしたが・・。」
「ひょっとして、もう来てたりして・・・。」
「それもあるかもしれません。来ているとしたら、椎名君を哀れみますよ。」
ノイローゼになりかけている椎名の事など知る由もなく、二人は他愛も無い会話をしている。
「でも、その先生・・・大林さん?でしたよね。・・・欧米の方じゃないんですか?」
琴奈がエリックに尋ねる。
「ええ。先生には、この国へ来た時にお世話になりました。この言語も、全て先生仕込みですよ。」
(この国に来る前に言語くらい・・勉強してこなかったのかな・・・。)
琴奈が心の中でやはり突っ込んでおいた。
と、2人は食物売り場へとやってきた。
早速2人は、ピーナッツを手にとり、次は酒類の棚へと歩く。
「お酒?誰が頼んだんです?」
琴奈が何気なく尋ねた。
「頼まれてませんよ。・・・これは、自分用です。」
そう言って、エリックは無駄にアルコール度数の高い酒を手に取った。
「うひゃぁ・・意外・・・。」
「え?なにか言いましたか?」
「いや、別にぃ・・・。」
2人は、酒と、もはやつまみにしか見えないピーナッツを持って、レジカウンターへと歩いた。
その途中、なにやら重そうな荷物を抱えた少女を見つける。
「琴奈さん。あなたはこれの会計を済ませてきて下さいませんか?」
「え?え?」
エリックはそう言って、酒とピーナッツを琴奈に渡した。 「困っている女性を助けるのは、紳士として当然の事なのでね。」
「ねぇ、私、今現在困ってますよ。」
「レジにそれをもっていけば、その悩みも消える事でしょう。」
エリックは、満面の笑みを浮かべて、荷物を抱える少女のもとへと早足で急いだ。
琴奈は渋々と、レジに歩き出す。
「手伝いましょうか。」
エリックはそう言って、少女が持っていた荷物を、片手で持ち上げる。
「あ・・・。」
驚いているその少女は、さらさらした銀色の髪をしている。
顔立ちはまだ幼く、15〜16くらいのように見える。
(少し、若すぎますね・・。さすがに引っ掛けたら・・・犯罪ですね。)
エリックは、何とも言えないような事を無意識に考えていた。
「あ・・・ありがとうございます・・・・。その・・・。」
少女は、頬を赤く染めながら、簡単に礼を言った。
「どういたしまして。僕はエリクスン・ブルフォード。君の名前は?」
「英・・・。英 伊緒です・・。」
「ハナブサ・・・?聞きなれない氏ですね。この辺りの人ではないでしょう?」
「はい・・。東の街から、病気の治療のために、こちらに来ました・・。」
良く見ると、エリックが抱えた袋の中には、多くの食器等の生活用品が入っていた。
「1人で、暮らしているのかい?」
「・・・・・。はい・・。どうしても、1人でやりたいから・・って、爺やは家に残ってもらったの・・。」
「・・・・君は、貴族なんだな。」
「え?え・・ぁ、はい・・・。多分・・・。」
伊緒は、驚いて、焦りながらそう返事した。
「でも、まあ、1人で生きていく道を選ぶとは、貴族にしては珍しい考えだな。
 大抵は付き人に何もかもやらせる者が多いのだが・・。」
「そ・・・それは・・・・。」
そう言って、少し歩こうとした伊緒だったのだが、床にあった突起物に、足を引っ掛けてしまった。
そのまま伊緒は倒れて、エリックがかけよる。
「大丈夫ですか?」
「ダメ!近寄らない・・で!!」
エリックが近付くと、伊緒は罵声を浴びせかける。
「僕は、あなたを心配して・・・。」
「わかってます!!わかっているから・・だから・・・近寄らないで!!」
伊緒は酷く錯乱している。そして、両手で頭を抱え込んで、立ち上がる。
「お願いです・・・逃げて・・下さい。凛が・・来る・・。」
『近寄らないで』は、『逃げて』と、言葉を変えた。
エリックは、逃げなかった。腰のホルスターから、軍用の小型拳銃を取り出す。
「うぁぁぁぁぁっ!!」
伊緒は、激しくそう叫び、その場に座り込んだ。
「伊緒・・さん?どうしましたか?」
エリックが、恐る恐る近付き、顔を覗き込む。
目を閉じているが、特に変わった様子はない。
少女は、眼を閉じたまま立ち上がる。そして、目を見開いた。
その眼は、優しい光を放っていた伊緒のそれとは違う、鋭い目つきをしていた。
「・・・わっ!伊緒さん!?」
おもわずエリックは後ろに一歩あとずさる。
「伊緒を・・・馴れ馴れしく呼ばないで。それに・・足に捻挫・・・してる。」
その少女は、間違いなく、『伊緒』という名前を他人の名前として使っていた。
「あなたは・・・。」
エリックは、恐る恐る、尋ねる。
「私は、英 凛。・・・伊緒の中に住む、マホロバだ。」
エリックは、耳を疑った。
(マホロバ・・・!?それも、伊緒さんの中に・・住んでいるだと・・!?)
「伊緒を傷つけたのは、お前か?」
「・・・・え?」
エリックは、一瞬戸惑った。
(このマホロバ・・・・間違いなくあの少女の事を・・・心配・・してるのか?)
しばらく黙っていると・・・。
「答えろ!!!!」
凛と名乗ったマホロバは、大声で叫びながらエリックに近付き、首に手を掛ける。
その大声に気付いたのか、周囲を行く人達も足を止めて見ている。
「く・・っ!伊緒さん!?」
「私は、凛だ!!伊緒の名前を馴れ馴れしく、呼ぶなといっているんだ!!」
その瞬間、エリックは首の周りが熱くなるのを感じた。
たちまちそれは、耐え難い『苦痛』へと変わっていくのを感じた。
「う・・うわぁ・っ!!ぐ・・ぐぁぁぁぁ!!!」
エリックが熱さでたまらず凛を振り払う。
(あのマホロバは・・・・自分の体温を変化させる事が・・・できるのか!!)
エリックは、赤くなってヒリヒリする自分の首周りを撫でた。
そんな事をしている間に、凛は、エリックに向かって突進してくる。
凛のそれは、以前闘った双真のそれより、速かった。
「う・・うわ!!」
エリックは、反応が遅れ、凛の回しげりを直に受けてしまう。
エリックは、吹き飛ばされ、食物が並んだ棚を、倒してしまった。
凛の容姿からは考えられない程の蹴りを喰らってしまった。
もともと戦闘要員ではないエリックは、1人のマホロバを相手に、窮地を迎えていた。
遠くから観察しているエリックは、凛の両手が赤くなっていくのを見た。
恐らくその手は、先程と同じように、高熱を放っているのだろう。
「はぁぁぁぁ!」
凛は、赤くなった両手を構えながら、エリックに向かって突進し、跳躍した。
両手がエリックの首に掛かろうとしていたとき、助けが来た。
凛は途中で気付き、間一髪避けるが、少し腕を切って、赤い雫が落ちる。
その傷は、刃による物である事はすぐに分かった。
そして、その後ろにいたのは、紛れも無く『長薙刀』を構えた浅原琴奈であった。
「う・・うぅ・・痛・・・っ。」
凛が、腕を押さえて座り込んでいる。
「エリック!大丈夫!?」
琴奈が急いでエリックの元へと駆け寄る。
「私は大丈夫です!それより、彼女は・・。」
「敵の心配なんかしててどうするんですか!!」
「違う・・彼女は、敵じゃない・・。そんな気がする。」
琴奈は、エリックの首周りを見ながら、心配そうに見つめている。
「その怪我は・・・彼女がやったんでしょ・・?」
「この程度、怪我のうちに入りませんよ。」
「とにかく・・、今はあの娘をどうにかしなきゃ・・!」
そう言って、凛の方に向き直った琴奈であったが、そこに凛は居なかった。
代わりに居たのは、優しい眼をした少女、英 伊緒 であった。
「伊緒・・・さんですね?」
エリックが立ち上がって、伊緒に歩み寄る。
伊緒は、エリックの首周りが、赤くなっていることに気付くと、
「また・・・なんですね・・・。凛が・・・やったんですよね・・・。」
そう言って、崩れ落ちて涙を流した。
彼女の声は、悲しく建物の中に響き渡った。




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