
「おれ、お前の事が好きみたいなんだ」
天真からの告白に、あかねはただ驚くしかできなかった。
その言葉は、自分が天真に伝えようとしていた言葉だったから。
☆☆☆
今日の朝、天真の夢を見た事を藤姫に伝えると、その話の流れで、天真と出かける事になった。
場所は天真が選んだ神楽岡。
そこへ向かう中、あかねは天真の背中を見ながら考えていた。
天真は、ずっと妹の事を、ランの事を悩み続けていた。
自分と同じように、京に御子として召喚されたラン。
・・・・ううん、同じなんかじゃない。
自分には、天真や詩紋、藤姫や、八葉のみんながいて、いつも助けられてきた。
でも、ランは・・・・。
たった一人で、京に召喚され、どんな気持ちだったんだろう。
すごい淋しくて、悲しくて、辛かったに違いない。
そんな気持ちの中、アクラムはランに術をかけた。
黒龍を召喚できる力を持ったランのことだ。
アクラムの術なんて、かからなくする事だってきっとできたのかもしれない。
でも、自分ではどうしようなくて、辛くて、辛くて、辛くて。
ランは、自らアクラムの術をうけたのかもしれない。
何も考えなくてすむように。
何も感じなくてすむように。
たとえ、その選択が間違っていたとしても、京の平和を壊してしまう選択だったとしても。
自分だって、ランの立場だったらそうしてた気がする。
人間はとても弱い部分がある。
この世界へ来て、よく解った事だった。
・・・・でも、この世界でもう一つ解った事。
その弱い部分を打ち破る強さを、誰でも持っているという事。
だからこそ、ランは私や天真君の言葉に反応して、少しづつ、少しづつ術を破ろうとしているのだから。
そんなランを、責めるなんて誰にもできない。
・・・・誰もできないのに。
自分の歩幅に合わせつつ、前を歩いている背中を、あかねは再び見つめる。
(天真君は、自分を責め続けている・・・)
初めてこの世界に来た日に、あかねは天真に妹がいた事を知った。
その時は立て続けにいろいろな事が起こり、深く考える余裕もなかったが、
しばらくたってから考えると、自分がとてもショックを受けてた事に気づいた。
天真にとって、自分が一番近くにいる存在とだと思っていた。
・・・・だが、違っていた。
天真の一番大切で、一番深い部分を、自分は知らなかった。
そう考えたら、悲しくて切なくてしょうがなかった。
その時、自分が天真に恋していた事に、気がついた。
しばらくしてランが、アクラムの術を受け自分達と敵対してる事が解ってから、
天真と二人で過ごす時間、常に天真は自分を責め続けていた。
その時の辛そうで悔しそうな顔。
叫びにも似た悲しみに満ちた声。
その全てが、あかねにとって、初めてみる天真の姿だった。
(大切な人の大事な事を知らなかった私には、ただ聞いてあげる事しかできない・・)
あかねはそう思って、ずっと天真を励まし続けてきた。
京を救って、ランを取り戻して、詩紋君や天真君と一緒に元の世界へ帰る
それが、あかねの目標だった。
大切な人の大事なモノを、一緒に守りぬけたら・・・。
元の世界へ戻れたら、きっと自分のこの気持ちを天真に伝える事ができる。
あかねは、そう信じていた。
(・・・・・それなのに・・・)
「おれ、お前の事が好きみたいなんだ」
天真のまっすぐな告白に、あかねはただ驚く事しかできなかった。
天真はさらに何かを言っていたが、あかねの耳には入ったのは、最後の言葉だけだった。
「あ、今は何も言わないでくれ。 お前がオレの事をどう思っていても・・・。」
天真はそう言って、あかねの額に優しく唇をそっと押し当てた。
・・・優しい優しいキスだった。
(ウソみたい・・・夢じゃないよね・・・・)
天真の唇の感触が夢じゃない事を教えてくれる。
でも、「何も言わないでくれ」なんて・・・。
あかねは心の中で苦笑いをした。
私の方がずっと前から好きだったのに。
自分から告白しようって思ってたのに。
「あ、え〜と・・」
ズルイよ、天真君。
じゃぁ、なんて言えばいいのよ、私。
「・・・帰るか」
返答に困るあかねを見ながら、天真はそれだけ言うと先に歩き出した。
慌ててあかねは追いかけて、少し後ろを歩き出す。
来るときも同じように見ていた背中。
でも、少しだけ暖かく感じるのは、私の気のせい?
「今は、何も言わないでくれ」
そうは言われたものの、自分の気持ちだって伝えたい。
元はと言えば、自分が言おうとしていた言葉だったのだから。
(言葉にしなきゃいいんだよね)
あかねはいたずらっぽく笑いながら、少し前を歩く天真の左手へ手を伸ばした。
そのぬくもりで、自分の気持ちが天真に伝わる事を願いながら。
言えない気持ち