

目を覚ますと、そこは慣れ親しんだ自分の部屋だった。
当たり前の事だが、葉月は心の底からほっとする。
あまりにもリアルな夢だったため、まだ現実感が戻らないのだ。
感覚も、目も、全てが、夢な中にいた時と同じ。
ただ一つ違うのは、自分の今いる場所だけ。
「よかったぁ〜〜・・・・夢でぇ・・・」
夢の中で、相手に勇ましく勢いづいたものの、やはり夢だと解れば、ほっとする。
時計を見ると、深夜の一時。
中途半端に目がさめてしまい、あの夢を思い出すとすぐに眠る気にもなれず、
葉月はベランダへ出た。
3月後半の少し冷たい風が、リアルな夢から自分を覚ましてくれる感じがした。
(明日は晴れそうだな・・・)
空には星がたくさん輝いている。
雲はひとつも見当たらない。
月も、満月とはいかがないが、ほぼ丸く、とてもキレイだった。
風にあたり少し落ち着くと、葉月は月を見ながら冷静に夢の事を思い出し始めた。
(ハクリュウとか・・・あぁ、あと我がミコとか言ってたっけ。)
ミコとは、TVとかで見る、はかま姿の巫女さんの事だろうか。
では、ハクリュウとは??
思いつくといったら、「白」の「龍」と書いて「白龍」。
龍って、あのマンガやアニメに出てくる?
そこまで考えて、葉月は思わず吹き出してしまった。
(最近、龍に関係する、マンガやアニメ見たっけなぁ〜?)
葉月は考えたが、どうも思い当たらない。
まぁ、思い出せないだけで、どこかで龍に関係するものを見たんだろう。
どんなにリアルだろうが、所詮はただの「夢」。
葉月は、もう考えるのをやめた。
明日が、葉月にとって、楽しみにしていた日だったからだ。
自分の父親が師範を勤める空手道場の師範代をしている葉月は、
4月に門下生を連れて合宿をする予定の寺へ、同じ師範代である深澤トールと、
明日の朝早く、電車で二時間ほどかかる山の中の寺へ視察に行く予定だった。
葉月だけは、本人の強い要望(?)により、
数日間、一人で自主練習をするつもりだった。
部屋には、数年前にOLをしていた時にボーナスで買った、
ヴィトンの大きなバッグが、たくさんの荷物を詰め込まれ用意してあった。
(桜キレイだろぉなぁ〜〜! あ〜〜! 早く体動かしたい!!)
もう夢の事などとっくに忘れ、葉月の心は明日に動いていた。
明日の為に、さっさと寝なければ・・・・
そう思って、部屋の中へ戻ろうとしたその時だった。
「神子・・・・我が神子・・・」
・・・・夢の中の声と同じ声で、同じ言葉を葉月は聞いた。
慌てて後ろを降り返る。
もちろん、そこには空があるだけ。
たくさんの星があるだけ。
背筋に冷たい汗を感じる。
もう、これは夢ではないハズ。
だとしたら・・・今の声は・・??
「・・・・誰・・・?」
低く・・・しかしハッキリとした声で、葉月は声の主に問い掛ける。
夢じゃないのなら、誰であろうと負ける気はしなかった。
すぐに戦えるように、体制を整える。
わずかな気配でも感じ取ろうと、全身の感覚を研ぎ澄ましてると、
視線の上を何かが走り抜けた。
その「何か」を目にとらえるため、葉月は顔を上げた。
そこには、月が輝いていた
だが、さっき見た月とは明らかに違っていた。
月に一筋の白い雲がかかっていた。
細い、細い白い雲。
だが葉月は、すぐに気がついた。
(・・・・違う!? 雲じゃない!)
雲と思ったその白い筋は、雲の動きとは思えない動きで、まっすぐに葉月の方へ向かってくる。
そして、そのスピードがどんどん増していき、葉月の目にも、ハッキリとその姿が解ってきた。
(・・・・龍だ・・・・白い、龍・・・)
白い龍が、自分に向かって凄い速さで向かってくる。
何とかしなきゃ!・・・と思ったその時、白い龍は白い光となって、葉月の体まっすぐに向かってきた
(突き抜けるつもり!?)
あまりの眩しさに目をつぶったまま、葉月は防御の体制をとった。
その途端に、光が自分にぶつかってくるのを感じた。
熱い、熱い何かの力が、全身をすごい速さで駆け巡る。
(突き抜けたんじゃない! 私の中に入ってきたんだ!)
自分の体が熱くなるのを感じたのと同時に、葉月は自分の意識も遠くなるのを感じた。
(神子・・・我が神子・・・・・)
夢では反響して聞きづらかった声が、自分の中から聞こえ始める。
(我の残った力を全て、そなたに与えた。 我は姿を変え、お主の側にいよう)
葉月はもう、自分の体を巡るあつい圧倒的な力の前に、何も考えられなかった。
ただ、自分の右手の中指が、ひときわ熱くなるのを感じる。
(京を救え 京の、均衡を保て・・・・・)
その言葉を最後に、葉月の意識は完全に途絶えた
2.白の龍