

「葉月、朝だよ!」
下から耳慣れた声がして、反射的に葉月は目を覚ました。
暖かい日差し、明るい室内。
朝が来ていた。
ふと気がつくと、自分が妙な体勢で寝ていた事に気づく。
ベッドの上で横になっていたのではなく、ベッドによりかかるようにして寝ていた。
まるで、授業中に机の上で寝てしまっていたように。
「??」
頭の中に?マークが踊る。
ナゼ、こんな格好で自分は寝ていたのだろうか?
右手の中指に違和感を感じ、目の前に持ってくると、中指に白い紐のついた鈴がからみついていた。
「!!」
その鈴を見た瞬間に、昨日の夜の出来事を思い出す。
(夢を見て、起きて外にでていたら・・・)
白い龍が、自分の体に入ってきたのだ。
意識を失う前に感じた、体中をめぐる熱い力。
最後に感じた右手中指への熱さを、葉月はしっかりと覚えていた。
昨夜の出来事は見とめたくないが紛れもない事実。
だとしたら、この鈴の意味はなんだろうか・・?
おそるおそる、紐を指からはずし、鈴を目の前にぶらさげる。
「きれい・・・」
白い紐も鈴も、葉月の心配や不安を大きくするのではなく、不思議な気持ちにさせていく。
少し揺らしてみる。
・・・・が、鈴はまったく音をださなかった。
どうやら中に音をだすための振り子がないらしい。
(意味ないじゃない・・・)
思わず一人でツッコミを入れたその時、下からまた自分を呼ぶ母の声がした。
「起きてる! 今行くって!」
たち上がりながら葉月は鈴を眺めつつしばらく迷ったが、大荷物ではちきれそうになっているバッグの中に鈴をしまいこんだ。
(後でどうするか考えよう)
音もならない意味のない鈴に、少し安心した葉月の心は、すでに今日からの予定へと動いていた。
「じゃぁ行ってくる、あとはヨロシクね」
玄関の扉を開け外にでながら、葉月は後ろにいる母親に声をかけて、歩いて5分くらいの駅へ向かった。
黒の編み上げのハーフブーツに、黒のミニスカートと半袖のタートルネック。そして淡い色のGジャン姿。
端からみれば、普通にどこかへ旅行に行く女だった。
大きな荷物の中身と、行く先とその目的をのぞけば・・・の話だが。
七瀬 葉月
8月生まれの獅子座 身長160センチ
特技・格闘技全般、カラオケ(結構ウマイらしい)
趣味・体を鍛える事。カラオケ、ショッピング
髪型・肩あたりの髪の長さ。シャギーが結構入ってる。色は赤に近い茶色に染めている。
性格・普段はワリと物事を冷静に見て考えて行動するが、何かしらの「スイッチ」が入ると、後先考えずに行動する。
しかも、そのスイッチはワリとよく入ってしまうらしい。
苦手なものは、ただひとつ、霊的なもの。自分の格闘技が通じないもの。
父親が師範を勤める空手道場の一人娘。
幼い頃から父の影響で空手をはじめる。
学生時は、部活などには入らずに、家と空手以外の格闘技にも興味を持ち、父の知り合いの道場で訓練を積んだ。
空手も好きだけれど、遊びだって大事・・・これが、葉月の言い分で学生時代は空手と遊びを両立させていた。
短大を卒業してOLをしばらくしたが、空手にかける時間が極端に減ってしまい、葉月はある決心をする。
会社を辞め、道場の師範代として、自分の仕事を格闘技にする道を選んだ。
師範代をはじめて一年ほど経つ。
冬休み中に門下生を連れて合宿をする寺へ視察へ行く予定を含めて、一週間ほど休みをもらった葉月は、
その寺で、しばらく自主練習をする予定にしていた。
楽しみにしていた日。それが、3月26日である今日だった。
駅の改札口へつくと、すでに切符を持った深澤トールが待っていた。
「おまたせ!」
大荷物で駆け寄る葉月と違い、トールは何の荷物も持ってはいなかった。
葉月の休みの代わりを一人で勤めることになるので、トールは視察を終えたら夕方までに戻ってくることになっていたからだ。
グレーのフリースにジーンズ姿。髪は金色がかかった茶色に染めている。
身長が180センチ以上あり、空手の師範代をしているだけあって、パッと見はそれなりに威圧感がある。
・・・が、人懐っこい笑顔と、楽しい話題の持ち主だった。
「すっげ〜荷物。何日山にこもる気だよ?」
人懐っこい笑顔を見せながら、葉月の荷物を持ってやろうとした。
葉月は「平気」という仕草でそれを断りながら、笑顔で答える。
「予定は3日間なんだけどね〜、気にいったら休みギリギリまでいるかも!」
「ったくノン気な師範代だよねぁ〜」
「そう言わないでさ、あとはヨロシク頼むよ!」
電車に乗りこみながら見せた葉月の笑顔に、トールは一瞬自分の鼓動が高くなるのを感じた。
「・・・・っ・・・なぁ、お前なんかいいコトあった?」
4人かけの席で向かい合うように座りながらトールは葉月に尋ねた。
「え? なんで?」
「いや・・・なんかオーラがでてるっていうか・・その・・・」
(キレイになった・・・)
その言葉を慌てて飲みこむ。ほぼ毎日のように会っているのになぜだろう?
トールと葉月は半年前まで恋人同士だった。
別れた後、しばらくはキマヅイ状態が続いたが、今ではお互いに気の許せる一番の親友同士になっている。
・・・そうとはいえ、さすがにキレイになったとは言えるワケがなかった。
(コイツ、すぐ調子にのるからな・・・)
言葉にしたら本気でパンチをもらうコトになるセリフを心の中でつぶやく。
好きな男でもできたのかもしれない・・・トールはそう思った。
たとえ好きな男ができたとしても、もう葉月に対して恋愛感情はない。
幸せになってくれればいいと心から思う。
「オーラぁ?? まぁ、これからの数日間を考えれば、すっごいオーラ出てるかもね!」
無邪気に笑いながら外を見る葉月の横顔を見ながら、
(こりゃ、しばらくは格闘技が恋人だな・・)
と、苦笑いをしながら、葉月の横顔を見つめ続けた。
3.不思議な鈴