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何でも無い、普通の日である筈だった。 特別な意識など、無かったのだから。 そう、いつもと変わらない日。 それでも、大切な日――――― BIRTH DAY〜友雅編〜
麗鈴
「おはよう、神子。私を呼んだかい?」 神子に選ばれ、いつものように私は神子の部屋に出向く。 神子はぱっと顔を上げ、眩いばかりの笑顔を私に向ける。 「おはようございます!!じゃあ早速、出かけましょうか」 「待ちなさい神子、もう一人がまだ来ていないようだが?」 部屋を見回しても、私と神子の他には藤姫しかいない。 鷹通や泰明殿、頼久あたりは遅れては来ないだろう、詩紋も同じ屋敷に居るので遅刻は有り得ない。 ・・・とすると、今日はイノリか天真か?まさか、永泉様が遅れて来られるなんて事は・・・ 「いいえ、神子様は今日は友雅殿しかお呼びになっていませんわ」 「友雅さん、今日は2人で出かけましょう?」 2人・・・・で? ああ、と答えながらも私の頭は混乱してゆく。 怨霊と戦うときも、力の具現化をする時も、2人だけでは不利なのは神子も解かっている筈だ。 じゃあ、何故。どうして、神子は。 ・・・・・もう一つ、答えはある。 だが・・・・まさか、ね。 神子は誰にでも優しい。誰にでも、あの笑顔を向ける。 そんな神子が私を・・・なんて、あるわけがない。 神子も、私を・・・・・そんな馬鹿なこと。 「神子、今日はどこに行くのだい?桂の方で、怨霊が甦ったらしいが?」 「・・・どこ・・・。うーん、地名はわかんないんですけど、友雅さんにプレゼントがあるんです」 「『ぷれぜんと』?・・・ああ、贈り物かい?」 「はい!だから、えっと・・・私に付いて来てもらえますか?」 得意気に胸を張って歩く神子の後ろを、私は黙って付いてゆく。 一体、神子の贈り物とは何だろう。 こんなに遠くまで来ないと、あげられない・・・もの? どんどん都からは遠ざかっている。次第に、まわりの緑が色濃くなってゆく。 ・・・こんな所で、一体何があるのだろう・・・ 「ここです!!」 神子が案内してくれた時、、私たちは森に入る手前の小路(こみち)にいた。 示された先には路(みち)などなく、茂みが生い茂っている。 こんな所に、何が・・・? こんな所で、何を・・・? やはり、異世界の人である神子の挙動は、私には捉え難い。 そんなことを考えていたら、急に何かに視界を奪われた。 少し冷たくて華奢なそれは、神子の掌(てのひら)であった。 「わっ・・・・・神子?」 「友雅さん、目をつぶって前に歩いてもらえますか?誘導は私がしますから」 その言葉に従い目を瞑ると神子はそれを感じ取ったのか私の顔から離し、両手で私の両手を握る。 そして神子に導かれて私はゆっくりと歩き出す。 途中、薮の中に何度も足を踏み入れた。どうやら路(みち)ではなく草むらを歩いているらしい。 見えない、というのはこんなにも怖いものなのか。 私は神子の手が離れないように、強く握りしめた。 荒れた草むらの感触が柔らかな芝に変わったところで、神子は手を離した。 「ここです!もう目を開けてもいいですよ」 ゆっくりと私は目を開ける。 森の木々で周りは薄暗かった筈なのに、私の目には幾分も開いていないうちから痛いほどの光が差し込んで来て。 目を開けると、そこには、さっきとは結びつかない光景が広がっていた。 薄暗い、ジメジメした森の中なのに、そこには光があふれていて。 上を見上げると、ぽっかりと穴のように空いた空間から青空が見えて。 そして、その空間には、真っ白な橘(たちばな)が咲き乱れている―――――― まるで、天国のような光景。 私はその光景にしばらく魅せられてしまった。 「こんな贈り物は、貰った事がないよ・・・・」 「えへへ、喜んでもらえたみたいで嬉しいです。ここ、この前いろいろ探検してて見つけたんですよ。 今日、友雅さんのお誕生日でしょう?どんな物を贈っていいのか解かんなかったから・・・・」 「・・・『たんじょうび』?」 「一つ、歳をとる日です。そして、みんなでお祝いする日なんです、あっちの世界では」 「・・・お祝い?歳を取ることがそんなにめでたいのかい?私は・・・皆とまた一つ離れていくようで・・・」 「ううん、生まれてきたことをお祝いする日。生まれて、巡り会った事をお祝いするんです。 友雅さん、生まれてきておめでとう。生まれてきて・・・ありがとう。 巡り逢えて、私はとても嬉しいです」 「神子・・・」 そう言って微笑んだ神子がとても眩しくて、 神子の心が温かく、澄んでいて、 私はどうしてか、神子を抱きしめた。 神子は少し驚いていたようだけど、それでも繰り返し呟き続けた。 お誕生日おめでとう。 生まれてきてありがとう。 巡り逢えて、ありがとう。 ・・・それならば、私からも「誕生日」に言葉を贈ろう。 この世に生を受けたこと、こんなにも嬉しいと思ったことはないよ。 こんなにもこの日が大切な日だなんて・・・。思わなかった。 この世に生まれて、八葉に選ばれ、 神子と―――愛する女性と巡り会ったこと。 その全ては、「今日」―――この日から始まった。 ありがとう。 「神子の『誕生日』には、私はなにを贈ればいいのかな? あれより素晴らしい贈り物なんて、私には考えつかないのだが」 帰り道、私は神子に問いかける。 鏡も櫛も紅(べに)も召し物も、あれには勝らない。 私が神子に貰っただけの感動と喜びを、私も神子にあげられるといいのだが。 「・・・・・何もいりませんよ、友雅さんさえいてくれれば」 ***Fin*** 2002.6.11 友雅さんお誕生日おめでとう!!
緋香さま、素敵なお話を、どうもありがとうございましたvv |