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いつもの朝の匂い。 淹れたてのブレンドコーヒーと、香ばしいパンの匂い。 それまでうつらうつらとしていた意識が次第にはっきりしてくる。 バックには朝のFM放送。何処かで聞いたようなクラシックが静かに流れている、いつもの朝。 そしてあたしはゆっくりと目を覚ます。間違っても飛び起きたりしない。 そろそろとベッドを出ると、そのいい香りがする方向へ足を向ける。其処には・・・・・・・・・。 「あ、おはようございます。」 パリッとアイロンがかかっている、淡いブルーのワイシャツを纏った鷹通さんが振り向く。 紺色のネクタイは、まだ胸ポケットの中。 食事で汚すのが嫌だからって、出掛ける直前まで結ばない。 いつも、あたしが先に起きようと思ってるのに鷹通さんたら、早いんだもん。絶対勝てない。 前に、 「あたしより先に起きないで下さい!」 と言ったら、 「それだけは譲れません。あなたの寝顔を見つめることが出来なくなってしまいます・・・・・」 なんて言われた。 でも、そんなのってズルイ。 あたしだって、鷹通さんの寝顔、見たいのに・・・・・・。 あたしは、ゆっくりと鷹通さんの傍に寄ると、すりすりと頬を鷹通さんの背中に擦りつけた。 「どう、したのです?」 コーヒーを淹れようとした手が止まる。 「お仕事、今日も遅いの・・・?」 あたしはボソッと呟いた。 鷹通さんはカップをテーブルに置くと、ゆっくりと体の向きを変え、あたしの肩を抱き寄せる。 「どうでしょうか・・・・。何もなければ早いと思いますよ。」 「いや。早く帰ってきて・・・・・?」 うーん、と困った顔の鷹通さん。 「分かりました。なるべく早く帰るようにしましょう。」 穏やかに微笑む。 あたしは本当は納得してないんだけど、はい、と頷くしかない。 こっちの世界に鷹通さんと二人で帰ってきたら、思いもかけず結構年月が過ぎていて、あたしはもう高校生ではなくなっていた。 自分の知らない間に、あたしは成長してた。 でもその自覚は全然ないから、いつまでも子どものまま。 ・・・・・・・・あたしが、こんなに甘えん坊で、泣き虫で、淋しがりだってこと、今まで知らなかった。 鷹通さんといると、自分の知らなかった部分が見えてくる。 こうして、一緒に暮らすようになっても、不安で仕方ない。 鷹通さんが、このまま何処かに行っちゃうんじゃないか、とか。 あたしのこと、嫌いになっちゃうんじゃないか、とか。その他にも、いっぱい、いっぱい・・・・。 「あかね?」 「・・・・・はい。」 鷹通さんはあたしの名をやさしく呼ぶと、その大きな両手であたしの頬を包んだ。 そして、にっこりと微笑む。 「あなたが何を考えてるのか、なんとなく分かります。私は、本当に大丈夫ですよ。」 「・・・・・・・・・。」 「それとも、はっきり大丈夫、と分かるように証拠を見せていきましょうか?」 「え?」 ・・・・・・・・何のことだろう、と思った瞬間。 あたしは軽々と、体を抱き上げられ、そして。 「ちょっ・・・・!た、鷹通さ、んっ!」 そのままベッドに向かおうとしているのに気付き、あたしは足をバタつかせる。 「早く帰って来られるように、おまじないを施していきましょう。」 そう言って。 ちょっと意地悪く微笑む鷹通さんを見て、あたしは、はああっと溜息を吐く。 だって、こんなときの鷹通さんて、止められないんだもん・・・・・。 ベッドに下ろされると、すかさずキスを贈られる。 やさしくて、まどろむような、キス。 そして、鷹通さんの唇が、あたしの首筋に。来た、と思ったら、一瞬強く吸われた・・・・・? 「はい、これで大丈夫。」 「?」 「しるし、付けときましたから。」 あたしは慌ててドレッサーの鏡を見る。そこには、首筋に一際明るい花のような、しるしが。 「ちょっ・・・!鷹通さんっ、これじゃあ何処にも行けないよ!」 ほんとに困る。 だって、はっきり見えるところにキスマーク、付けるんだもん・・・・・・・。 鷹通さんて、こんな風にあたしが困ること、たまにしては喜んでるからタチが悪い。 「まあ、いいじゃありませんか。」 なんて、しれっと言うところが益々憎たらしい。・・・・・・・・・・・・・・・でも憎みきれないけどね。 「さ、朝食にしましょう?」 鷹通さんはさっさとキッチンへ行ってしまった。 「ま、待ってよ、鷹通さんたら・・・・・!」 ・・・・・・・・・・・・・あたしは、やっぱりこの人にはかなわない、なんて思いながら鷹通さんの後を追う。 でも、かなわなくても、それでもいいや、と思ってしまう。 たとえ鷹通さんに勝てる日がこなくても。 こうして、二人でいること。 それが、それだけが、何よりもあたしの宝物だから。 FIN 2002、7,7(そういえば七夕?) NORIKO NORIKOさまの素敵サイト 『AfterSchool』 |