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靴箱の上に車のキーを置いてリビングに入っていくと、ふっとかすかな寂しさを感じてしまう。 彼女が帰ったあとはいつもそうだ。 満たされた時間を過ごした分だけ、後から寂しさに包まれてしまう。 朝まで彼女を抱きしめていることができたら……。 彼女を家に送っていくため、一緒にこの部屋を出る時に必ず考えることだ。 いつか、そんな日がくるのだろうか。 ふと「結婚」という言葉が思い浮かんだが、それはまだまだ先のことだ。 部屋に入ると、テーブルの上に白い封筒が置いてあるのに気づいた。 さっきまでなかったものだから、きっと彼女が『忘れ物をした』と言って一度部屋に戻ったときに置いていったのだろう。 手紙だろうか? 宛名も何も書いてない白い封筒を手にとり、中から同じように真っ白な便箋を取り出した。 案の定、そこには彼女の文字が並んでいる。 氷室零一 様 ねえ、零一さん。 教会で聞かれましたよね。 「初めて会ったときのこと、覚えているか?」って。 忘れるはずありません。 だって、ものすごく緊張しちゃったんだから。 いきなり「スカーフが曲がっている」なんて、怖い顔して睨むんだもん。 でもね、零一さんが教室に入ってきたとき、少しドキっとしたの。 ……ちょっとかっこいいかな、なんて。 私、零一さんにほめられると嬉しくて、もっともっと話がしたくて。 だから、ホントは解ける問題でも、わざと零一さんの所に質問に行ったりしてたんだ。 気づいてた? 他の子たちと一緒じゃイヤだったの。 氷室学級の生徒の一人じゃダメだったの。 「特別」になりたかった。 だから勉強も運動も、クラブ活動もがんばれた。 夕陽を見に連れて行ってくれたとき、すごく嬉しかったな。 私が疲れてたの、気づいてくれてたんですね。 それは「私だったから」って思っちゃってよかったんですか? もっと疲れている子がいたら、その子を誘ってた? そんなことない、って思うのは自信過剰かな。 あのときの零一さんの優しそうな顔、今でもよく覚えてる。 どうせなら、入学式の日からそういう顔でいてくれれば、私はもっと早くあなたを好きになっていたのに。 あ、でもダメ。 零一さんが学校で毎日あんな顔してたら、女の子はみんな零一さんを好きになっちゃうよ。 絶対、ダメ。 私ね、自分でもおかしいって思うときがあるの。 私は零一さんの恋人だよね? なのに、毎日一緒にいられない。 零一さんのクラスの生徒は、恋人じゃないのに毎日一緒……。 当たり前だって分かってるけど、なんだか羨ましくて。 だからね、だから……。 学校では厳しい先生でいてね。 優しい笑顔を見せないで。 私だけのものにしたいの、その笑顔……。 明日は特別な一日。 零一さんは、また一つ私より年上になっちゃう。 でも来年は、私がまた一つ追いつくよ。 本当はいつまでも追いつけないけどね。 もっと早く生まれたかったって思うこともあるけど、 もしそうなってたら、私は零一さんと出会えてなかったかもしれない。 零一さんに会えたこと、とっても感謝してるの。 だから、あなたが生まれた日は、私にとっても特別な日。 ごめんなさい。 なんだか、文章がまとまらない。 再提出なんて、言わないでね。 今は、11月5日午後11時58分。 もう少しだね。 夜に書いた手紙って恥ずかしいよね、きっと。 明日になってもう一度読んだら、絶対に渡せなくなっちゃう。 だから、もう読み直さないで封をします。 (誤字・脱字、指摘しないでね) 59分……。 今、何をしてますか? もう、少し……。 大切な零一さんへ。 Happy Birthday どうか、いつまでも一緒にいられますように。 私は立ったまま、何度も何度もその手紙を読み返した。 既に見慣れてしまった彼女の文字。 その文字の一つ一つが私の中に入り込んできて心が包まれてしまうような気がした。 手紙をもらうということは、書いた人の時間をもらうこと……。 そんなことを聞いたことがある。 手紙を書く人はその間、相手の顔を思い浮かべ心の中で話しかける。 昨日の夜、彼女は私のことを考えながらこの手紙を書いていた。 何を思いながら、どんな顔をしながら一つ一つの言葉を綴っていたのか。 それは彼女の想いがあふれそうなこの手紙が教えてくれている。 愛されている。 そう感じることができた。 私はズボンのポケットから携帯を取り出し彼女の番号を押した。 今なら言えるかもしれない。 普段は気恥ずかしくて、面と向かってストレートには言えない言葉。 数回のコールで彼女が出た。 「氷室だ」 …………愛している。 「love letter」 −完−
主人公ちゃんが、いじらしいです! 先生でなくてもぎゅっと抱きしめてあげたくなってしまいますよねvv 零一さん、幸せ者ですよ、アナタは!! ゆうこさま、甘い恋文をどうもありがとうございます! |