某月某日。
 
 ここ、クララ川沿いにあるフォラン邸には、非常に気怠い空気が流れていた。
 もともと張りつめた雰囲気とは無縁だが、今日はいつにもましてゆったりとした時間がこの家を支配している…縁側では、午後の陽を浴びながらウトウトしている獣が一匹…おなじみ、ワール君だ。
 その言動からストイックなイメージのある彼…しかし、狩りの時以外は特に訓練などをするわけでもなく…(ワ【訓練?…あれは、人間が焦ってするものだろう?】)…こうしてウトウトと身体を休めていることが多い。
 普段は、移り気な相棒のおかげでこうした時間がとれないこともしばしばだが、幸いにもフォランは数日留守にすると言って出かけたまま…久々に自分のペースで日々を過ごすことが出来る…少なくとも本人はそう思っていた。

 ところが世の中、思い通りにはいかないもので…


 
ひよ吉「…(軒下の巣箱から外を窺っている)…ひよ、ひぃよ、ひよよ〜…」

ワール「…?(片耳をピクッと上げる)」

 
【注−今回、ひよ吉君の発言は敢えて訳しません。個々人で想像してお楽しみ下さい(礼)】

ひ「…(見渡したところ、ワール君を発見!…巣箱から飛び立って、近づいてみる)…ひよぉ〜♪」
ワ「ほぅ…久しいな(微笑)…近頃は、相棒も忘れがちのようだが…」

ひ「…(ワール君の頭上に着地)…ひよっ!ひよよ〜ぅ!(大きく頷く)」

ワ「(苦笑)…そういう節もあるな。一時期は居ることすら忘れていたようだぞ」

ひ「…!!!…ひ、ひよぅ?」

ワ「まあ心配するな。その事についてはわたしも注意しておいた…最近は、間隔こそ空いていても面倒は見ているだろう?」

ひ「…ひよ。ひよっ、ひよよ、ひよぉ〜〜!」

ワ「困った性分だな…その羽根があれば何処にでも行けるだろうに…」

ひ「ひよっ!!ひよ〜ぉ、ひよひよっ!」

ワ「…ふむぅ。確かに、それは難儀だ…わたしから、きちんと申し入れておこうか?」

ひ「ひよ〜ぅ…(首を横に振る)…ひよ?ひぃ〜よ〜?」

ワ「わたしがか!?…う〜む…それはもちろん、できないことはないが…」

ひ「ひよっ♪ひよっ♪ひぃよぉ〜♪」

ワ「(嘆息)…今回だけだぞ?わたしとて、目立つ存在なのだからな…」

ひ「ひ〜よっ!!」


(ひよ吉はワールの頭上に乗ったまま…一羽と一匹は街を目指す。その道中…)

ワ「ところで、行って何をするつもりなのだ?」
ひ「ひよよ…ひぃよっ、ひよよぉ、ひよ〜♪」

ワ「…!!!(立ち止まる)」

ひ「ひ、ひよっ!?(汗)」

ワ「今の話…本気なのか?」

ひ「ひぃ〜よ〜…ひよぉよ!」

ワ「…(汗)…むぅ…いちいち人間の社会について説明するのもあれなのだが…(困)」

ひ「…?(首を傾げる−右斜め下25度)」

ワ「あれはだな…望めば手にはいるという代物ではなく…その、代償が必要なのだ」

ひ「ひよ〜ぉ、ひよひぃよ!…ひ〜よよ〜♪(得意気)」

ワ「そ、そうか…(汗)…それなら構わないのだが…(疑)」

ひ「…ひよぉ〜ぉ?(じと目)」

ワ「いや、そういうわけじゃない…失礼した。しかし…どうしてまた、あれを?」

ひ「ひぃよぅ…ひよっひよぉ、ひよよぅ、ひよ、ひ〜よ〜」

ワ「なるほどな…わたしは冷たいので苦手だが…まあ、悪くはない」

ひ「ひよっ!」


(一行は街に到着…そして、脇目もふらず【コーゼル商会】へ…)

ワ「…というわけだ」
コーゼル「…なるほど。しかし、この鳥がねぇ…」

ひ「ひよっ!ひぃよ〜!ひよよぉ!!」

コ「…なんだって?」

ワ「『違うよっ!”トリ”じゃないよ〜!ボクはひよ吉だよぉ!!』…だそうだ」

コ「…はぁ…まあいいや。在庫はあるにはあるけど…コレ(指で円をつくる)は持ってんのかい?」

ワ「…持っているらしい。少なくとも、わたしはそう聞いている」

コ「そうか…(目線を合わせて)…じゃあ、ひよ吉君とやら、見せてもらえるか?」

ひ「ひぃよ〜♪…(ゴソゴソ)…ひよっ!」

コ「(嘴にくわえられた物体を受け取って)…ん…指輪、ねぇ」

ワ「どこかで拾ったのか?」

ひ「ひ…ひぃよぉ!ひ〜ぃよ!!(弱焦)」

コ「(鑑定中)…ほぅ…」

ワ「どうだ?」

コ「ん?…あぁ、割と値打ちのあるものだぜ。十分すぎるぐらいにな」

ひ「ひよぉ…?ひ〜よぉ??」

ワ「…『そうなの?…どれぐらいもらえる?』」

コ「そうだな…”本当に”こいつと交換でもいいのなら…とりあえず、在庫は全部持って行ってくれ」

ワ「…”とりあえず”?」

コ「そこらの商人なら余剰分なんて気にしないだろうが、俺はそうはいかねぇ。お得意さまだしな(微笑)…そのおチビちゃんが来るんなら、またいつでも分けてやるよ」

ひ「ひよっ!?…ひよぉ〜ぉ♪ひよよ〜ぉ♪♪(嬉しさの余りそこらを飛び回る)」

ワ「(疑いの眼で)…コーゼル、何か企んでいないか?」

コ「いんや、俺は正直に値打ちを判断しただけだ…ただ、どこかで泣く奴はいるだろうな(ニヤリ)」

ワ「?…それは…」

コ「(無視して)…さ、商談は終わりだ。ワール、お前にはこいつを運んでもらうぞ!」


(数日後…フォラン帰還後のこと)

フ「…ワール君。事情を説明してもらおう…(静怒)」
ワ「(疲)…何をだ?」

フ「そうだねぇ…いろいろあるんだけど、まずはこの冷蔵庫の状況から、かな?(ひきつり微笑)」

ワ「…溢れてるな。あと、一部食い荒らされているか…」

フ「そんなことはわかってるよ…私が訊いているのは、この未曾有量のバニラアイスが何処から来たのか、ということ…」

ワ「それは…コーゼルの所じゃないか?この辺だと、あそこでしか売ってないはずだ…」

フ「誰がここまで運んだのかな?」
ワ「それは、まあ、それなりに力のある生き物だろうな…(汗)」
フ「…わかった。じゃあ、私の部屋からとある重要な物品…師匠からもらった”正術師”用の貴重な指輪が消えたんだけど…知ってる?」

ワ「…いや、さっぱり心当たりがない…ウム…(滝汗)」

フ「ほぅ〜…で、ひよ吉君の姿が見えないけど、何処?」

ワ「そ、そういえば、数日前から姿を見ないようだ…」

フ「(何事か考え中)…フ〜ン、そう…では、共犯ということで(断言)…ま、ワール君は逃げないだけ立派だけどねっ♪(微笑)」

ワ「(汗)…いや、その…だな…」

フ「…さて、ワール君。留守番も疲れただろう?…今日はお風呂にたっぷりと浸かろうじゃないか♪(ニコニコ)」

ワ「!!…相棒よ、出来れば、もう少しわたしの話を聞いてくれると嬉しいのだが…(焦)」

フ「(無視して)さぁて、気合い入れて湧かすぞぅ!!」


 
 大多数の野生生物と同じく、ワールも熱いお湯やそれに伴う強引な洗浄が非常に苦手である。
 一応我慢を試みたものの、結局は互いに風呂場で暴れる結果となってしまい、この夜のフォラン邸からはどっちのものともつかない悲鳴が絶えることはなかったという…。

 なお、これより数日後帰還したひよ吉も速やかに逮捕され、巣箱に1ヶ月間拘禁されることになった。

 そして、指輪を買い戻すために、一人と一匹と一羽は今日も怪しげな冒険に精を出しているとかいないとか…。





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