鳴らないベル
鳴らないベルの話をしよう。 それはとても普通の人の話。 夢と現実のスキマにひっそりと存在する話。
☆1−1
その日シンイチは、生まれて初めて携帯電話を持った。 今年19歳になった彼の年代で、ケータイを持っていないのは、 彼くらいなものだった。 もともと、そんなモノを持っても、誰からもかかってこないし、 誰にかけることもないだろうと彼は思っていた。 だが彼の唯一の友人ともいえるトモヒコの強引な説得によって、 彼は渋々ケータイショップへと足を運んだのだった。

家に帰って、一通り説明書を読んでみた。だいたいの機能をチェックした後で、 彼はフーッと息を吐いて、ベッドの上でゴロッと横になった。 これでやっとみんなに追いついたという思いよりも、 世間の流れに逆らえなかったという思いの方が強かった自分が なんか惨めだった。 彼は浪人生だった。友達がみんな大学へ進学し、サークルに入ったり、 アルバイトをしたり、彼女をつくったりしているというのに、 彼だけは前に進めなかった。


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