鳴らないベル
☆1−2
フロから出てから、彼はまた説明書を読みはじめた。 「メール...ね...。」
彼が唯一興味を示したのが、このメールだった。 一方的に自分の言いたいことを伝えられる機能は、 口下手で、電話嫌いな彼には好都合だった。 (そういえば、トモヒコのヤツ、初メールはオレが入れてやるよって言ってたな。) トモヒコがそんなこと忘れてとっくに眠っているとは知らずに、 シンイチはイライラしながらケータイの液晶画面を見つめていた。 その時だった。

「ピリリリッ。ピリリリッ。ピリリリッ。」

突然ケータイが光って、無機的な電子音が鳴り響いた。 着メロじゃないところが彼らしかった。 (ったく、おっせーんだよ。トモヒコ。)

≪ただいま。今日はバイトで疲れちゃった。 家に帰っても一人ぼっちだから寂しいよ。 ・・・・・・あと10日で会えるね。おやすみ。≫

(なんだコレ。名前ねーじゃん。まさかトモヒコのわけねーよな。 あーあ、初メールが間違いなんて・・・。ツいてねーなー。オレって。)

その夜シンイチはそのまま寝てしまった。ケータイのことは もうすでに意識から消えていた。 満月が輝く、不気味で美しい夜だった。


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