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「ねえねえ、ピクニックに行こうよ!」
それが今日起きてから一番最初に聞いた彼女の言葉だった。
「ピクニック?何で?」
ジョウイはまだ眠気の覚めない声で言った。
「え。別に理由なんかないけど、たまには良いじゃない?お弁当持って三人で遊びに行くのも。」
ね、ね、そうでしょ、とナナミは僕たちに同意を求めてくる。
「どうする?コウ?」
ジョウイは問い掛けてきた。
僕は「んー。」と少しうなった後に、
「僕は別に良いけど。」
と、言った。
僕の言葉を聞くなりナナミはパッと顔を輝かせた。
「わーいっ!!じゃあ、私準備してくるね!」
そう言うとナナミは急いで部屋に戻っていった。
「毎日旅を続けてるのに何でまたピクニックなんだろうね・・・。」
「さあ・・・?」
残された僕たちは顔を見合わせて溜息を吐いた。
「まあ、どっちにしろナナミは一度言い出したらきかないからね。」
「僕たちに選択権はない、か。」
「うわーっ!!良い天気だねぇ!!」
先頭を歩くナナミがはしゃいで声を上げた。
「絶好のピクニック日和だよねっ!!」
ナナミの言葉につられて僕が空を見上げると、ピクニック日和には程遠い曇り空だった。
「三人でピクニックなんて久しぶりだねー。」
「何年ぶりだろうね?」
僕の手には釣竿とバケツ、ジョウイの手には異臭を放っている大きなランチバック。
どちらもナナミが無理矢理持たせた物だ。
ナナミは何も持たず呑気に鼻歌を歌っている。
歩き始めて一時間。
僕たち三人はまだ山林を歩いていた。
「そういや、ナナミどこに行くの?」
「え?」
ナナミの顔が一瞬強張った。
「えーっとぉ・・・。」
目を泳がせながらナナミが言った。
「実は決めてなかったんだよねー。」
あはは、とナナミが笑う。
「は?」
「歩いてればどっかには着くでしょ。大丈夫だよ。」
そう言って歩き始めるナナミを僕は呼び止めた。
「じゃ、じゃあ、この釣竿は何のために?」
「湖があれば釣りができるじゃない。」
「湖がなかったら?」
「持って帰ろーうっ!」
どこまでも陽気に答えるナナミ。
僕は肩を落とした。
「ところでさ、このバック・・・、何が入ってるの・・・?」
さっきから押し黙っていたジョウイが口を開いた。
「何って、お弁当だよ。」
「・・・。ああ、お弁当・・・。お弁当ね・・・。」
大きなランチバックを見て、ジョウイは諦めたように言った。
「薬草たーっぷり入れたからね。体に良いよ♪」
悪夢だ。
僕はそう思った。ジョウイもきっとそう思っただろう。
いいや、絶対思った。
それから約5時間。
陽は傾きはじめていた。
僕たちは何時間か前にお弁当を半ば無理やり食べさせられ、まだ山林を歩いていた。
「わー。夕陽が綺麗だねー!」
ナナミが木と木の間から見える空を見て言った。
雲と雲の隙間からオレンジ色の光が射している。
「ナナミ、そろそろ引き返さないと日が暮れるよ。」
ジョウイが言った。
「うーん。そうだね。もうちょっと行きたかったけど。じゃあ、歩きながら星を見て行こっか。」
くるりと体を反転させてナナミが来た道を歩き始めた。
「星なんか見れるかな?」
「曇りだしね・・・。」
僕の問いにジョウイはそう答えた。
それからそんなに経たないうちに辺りは暗くなった。
「真っ暗だねー。星も出てないし。」
「仕方ないよ。今日は日が悪かったね。」
辺りはしんと静まりかえっていてナナミの明るい声がよく響いた。
「でもさ、今日は楽しかったね。ピクニック。」
僕たち二人は返事に困り、曖昧な返事をした。
「三人でピクニックに行ったのって何年ぶりだろうね。懐かしいなぁ。」
ナナミが僕とジョウイの方を向いて笑った。
「たまには良いよねっ、こーゆーの!なんて言うの?ほら!童心に帰るって感じでさ。」
そして僕たちに満面の笑顔向けて言った。
「また一緒に行こうね!昔みたいにさ、三人でピクニックに!」
ナナミがあまりにも嬉しそうに笑うから、僕もつられて頷いた。
僕が頷くとナナミは「絶対だよ!」と目を輝かせた。
今日は散々な一日だったけど、ナナミの笑顔を見たら「それでも良いか。」と思えた。
きっとナナミなりに僕とジョウイに気を使ったんだと思う。
あの戦いの後、まだそんなに日が経ってないから。
少しでも僕たちがあの頃のみたいに笑えるように。
「そういえば、いつもナナミがどこに行くにも先頭だったよね。」
「え?そうだっけ?」
「そうそう。それでいつも僕たちが振り回されてたんだよな。」
そんな事を話しながら僕らは帰途についた。
翌日。
朝早くに僕とジョウイはナナミに叩き起こされた。
「もう少し寝ててもいいじゃん。」
僕が目を擦りながら隣のベッドを見ると、ジョウイはまだ寝ていた。
「何言ってるの!ジョウイも早く起きて!私、頑張ってお弁当作ったんだから!」
「お弁当〜?」
ナナミに毛布を取られたジョウイが眠そうに言った。
「うん、今日も行くでしょ?ピクニック!良い天気だしね!!」
ランチバックを振り回してナナミが元気よく言った。
「先に下に行ってるから早く来てね!」
そう言うとナナミは慌ただしく階段を降りていった。
昨日と同じパターンだ・・・。
「どうする?」
「僕たちに選択権はないんだろ。」
「そうだね・・・。」
何年経っても変わらない。
僕たちの始まりはいつも君の言葉。
僕たちは顔を見合わせ、苦笑した。
END.
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