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陽炎。
春の暖かい日に、地面から空気が炎のように揺らめいて立ち上る、現象。
オアシスが良い例だ。
“動く泉”と呼ばれる主な理由がこれ。
もしその現象が人に起こったら―――?
いつもベタベタしている俺。
ずっとこうしていたい――、それを何度思ったことか・・・
腕の中で動く彼女の温もりを感じながら、俺はそっと抱きしめた。
「・・・・・・」
途端に彼女の動きは止まる。
「・・・?」
俺が下を向くと彼女と目が合った。
「隆之・・・」
彼女の濡れた口唇が俺の名を呼ぶ。
「ん?」
彼女は俺の目を見ながら、
「いつまでも・・・こうしていられると良いな・・・」
俺を不安がらせる言葉を彼女は発した。
「何で?」
「無性に怖くなるのだ。そなたと本当にずっと一緒にいられるのか・・・・・・」
目を少々潤ませながら彼女は続ける。
「もしどちらかが先に死んだらと思うと・・・」
「・・・舞」
「昔はこんなことは思わなかったのだ。人がいなくなろうがそれは仕方ないと。しかし・・・」
「・・・・・・」
「しかしそなたに出会って命の尊さを知った。命の大切さを知った。」
「・・・・・・」
俺は無言で彼女の身体をギュッと抱きしめた。
「・・・・・・」
いつしか彼女も無言になっていた。
身体の温もりが伝わる。
それだけで生きてるって感じがした。
サイレンが鳴った。
出動命令の合図。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
もう一度ギュッと抱きしめ合って離れた。
戦況は最悪。
原因は幻獣が大量に送り込まれて来たから。
それでも舞達は頑張っててくれてる。
だから俺も頑張れる。
「・・・舞」
俺はいつしか呟いていた。
冷や汗を浮かべ、俺は舞の乗っている3番機を見つめた。
そして、勝った。
勝ったは良いが、みんなボロボロだった。
そのまま病院に搬送された。
「・・・・・・」
俺は木の下にいた。
いつもの所定の位置。
舞と一緒に昼寝をしている場所。
ここにいれば舞が来てくれるかと思ったから。
『隆之』
呼ばれて俺は立ち上がった。
周りを見たが声の主はいない。
「・・・?」
『隆之』
確かに声は聞こえる。
それなのに姿だけが見えない。
「舞・・・?」
声の主はもちろん舞。
でも姿だけが見えない。
「舞・・・」
『ここだ、隆之・・・』
声のする方に俺は足を向けた。
「・・・舞?」
ゆらゆらと陽炎に混じり、舞の姿が見えた。
「舞・・・?」
俺は近づいた。
しかし舞は遠くに行ってしまう。
「舞ッ!!」
俺は走って舞の元に行った。
その速さと同じくらいに舞は遠くに行ってしまう。
ああ、これが陽炎と言われるものなのだと実感した。
『隆之・・・』
どうして・・・どうしてこんな姿で・・・
舞は死んだのか?
だから陽炎に身を任せて俺に会いに来たのか?
「違う・・・」
死んじゃいない。
あんな戦いで死ぬハズなど無い。
「舞ッ!!生きてるよな?生きてるんだよな?」
『隆之・・・』
俺の名を呟き、舞は消えた。
陽炎と一緒に・・・・・・
後日、病院から連絡が来た。
舞の意識が戻ったと。
3日間、生死を彷徨っていたという。
俺は会いに行った。
舞は俺に向かって、『有り難う』と言った。
俺が必死に呼びかけたお陰で生き返れたのだ、と。
陽炎に身を移したアレは自分の魂だ、と。
信じられないような事が起こったが、俺はそれを認めざるを得なかった・・・
俺の目の前にいる彼女の無事が、唯一の真実なのだから―――――
FIN
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