どた、どた、どた。階段を駆け上がってくる足音が聞こえる。
「虎衛門、またテクノジャイアンの奴が、デモが出来ていないと苛めるんだよ。」
「野比太くん、また出来もしないことを出来ると言ったのかい?」
その返事をした物は、直立した3頭身のトラのような存在であった。
「だって、虎衛門、うちのラインのメンバー、全然話にならないんだよ。それよりさ、虎衛門は21世紀の未来から、未来の進んだゲーム文化を現代に広めるために来たんだろ、何か便利な未来のツールでも出してくれないかな〜?」
「しょうがないな、はい、これ。」
そう言うと、虎衛門は腹のポケットを漁って1枚のCDを出した。
「虎衛門、なにこれ?」
「こんなこともあろうかと、僕が別のラインで作っておいたデモCDだよ。」
「すごいや、虎衛門。」
喜びの声をあげて野比太はCDをノートパソコンに入れて内容を確認し始めた。そしてしばらくして。
「虎衛門・・・・、残念だけどこれは使えないよ。だって、これ製品よりも完成度が高いよ。メッセージは見やすいし、フル音声になっているし。これじゃ、やばいよ。」
「なぜなんだよ、野比太君。ちゃんと、ここに小さく『ソフト本編とは仕様が異なります』と注が入っているじゃないか。」
「でもさ〜、虎衛門、本体の性能の一部だけしか入っていないデモはあっても、本体より性能の良いデモなんて・・・」
「何を言ってるんだ。こんなこと、未来では常識だぞ。そんなことも分からないのかい?」
そう言う虎衛門の顎は大きく開かれており、まるで野生のスマトラトラの様であった。無論、虎の様に強くなりたいなどという非常識な願いを持たない普通人の野比太は、それに逆らうことなどは出来なかった。出来るのは、ただ曖昧に頷いて退出するだけであった。
そして次の日。
どた、どた、どた。また階段を駆け上がってくる何時もの足音が聞こえる。
「虎衛門、音声ファイルをWinとMACの間で何度も転送していたらファイル名が変わって、訳が分からなくなったんだよ。今度こそさ〜、未来のツールで助けてくれよ。」
「しょうがないな、野比太くん、今度こそツールを出してあげるね。」
そう言うと虎型ロボットは腹のポケットをゴソゴソとまさぐって1枚のCDを出してきた。
「はい、“ファットライト”。」
「ありがとう虎衛門。それでどんな機能があるの?」
虎衛門はCDをノートパソコンに入れて、そのプログラムで大量にある音声データにパッチを当てた。すると、それまで小さかった音声データが何十倍いや、何百倍にも大きく膨らんでHDのほとんどを圧迫したのだった。
「・・・虎衛門、これが何の役立つの?」
「野比太君、これだけ1つの音声ファイルが大きければ1枚のCDに多くの音声ファイルが入れられない訳だ。それなら野比太君のラインでも制御できるだろう?」
「虎衛門、それじゃ、あまりにもお客様に悪いじゃないか。」
「何を言ってるんだ、野比太君、未来の記憶装置は現在の比ではなく大きいんだ、こんなパッチでもあてないと、容量のほとんどが空いて、まるでクソゲーの様に見えるじゃないか。こんなこと、未来では常識だぞ。そんなことも分からないのかい?」
そんな下らない処理をする方がクソゲーだと思った野比太であったが、既に虎衛門がまるでベンガルトラの様に口を開いているのを見ると完全に拒否はできなかった。なにせ、ベンガルトラは大陸性のトラだ、スマトラトラよりもさらに1回りは大きい、とうてい野比太のかなう相手ではない。
「それじゃ、開発にはこれを使って、完成直前に元に戻して、空いた容量にオマケで音声ファイルだけを入れることにするよ。」
君子危うきに近寄らずだ。野比太はそれだけ言い残すと、部屋からすごすごと退出した。
また次の日
どた、どた、どた。階段を駆け上がってくる何時もの足音が聞こえる。
「虎衛門、マウスを連続クリックすると絵と音がずれるし、画面描画が平気で遅れるし、フルスクリーンにもならなし、イベントはランダムにしかできないし、あのプログラマーでは仕事が追いつかないよ。」
本当は、いくら女をはべらしたいからと言っても、能力を無視して女だけのチームを作るのは間違いだと言いたかったが、そこまで言えば虎衛門が大好きなプロレス技を炸裂させのは分かっていたので何とか我慢した。
「野比太君、今度こそ、未来の究極の技術を見せてあげるよ。ほら、『この仕様ほんと』。」
虎衛門が出したのは、まるで鳥のくちばしの様な物に紐がついた品物であった、どうやらそれを口につけて使うらしい。
「この『この仕様ほんと』をつけて話したことは全部、本当の仕様になるんだ。どんなことでも問題なしだ。ほら、野比太君、使ってみろよ。」
野比太にも、仕様というのは本来から計画されたものに使うのであって、単に技術上の問題点のことを呼ぶわけでないのは分かっていた。しかし、すでにその品物の仕様もなさと、使ってみるほか仕様がないので、諦めてそれを口につけて、現在思いつく問題を羅列しまくるしかなかった。
それで虎衛門を見ると満面の笑みを浮かべている。虎衛門には効果はあるらしいが、それでも、野比太の心は少しも晴れなかった。これを使った人には効果が無いか、それとも未来人にしか効果はないのかもしれないと思ったが、少なくともユーザーサポートが自信を持って対応できればいいなという淡い期待を持ちながら、野比太は今のうちに退出することにした。
締め切り一週間後
どた、どた、どた。階段を駆け上がってくる何時もの足音がこの日すら聞こえる。
「虎衛門、もうだめだよ。ゲームに入れた音声も一部鳴らないし、あるエンディングに行くフラグも全然立たないよ。無論、回想シーンもつけられないし。もう、発売日をさらに延期するしかないよ。」
もはや野比太には未来から来たゲームについて述べる元環境保護ロボットになぞ頼る気は無かった、欲しいのは単に決断だったのだが・・・。
「はい野比太君、これ。」
虎衛門はそう言うと1枚の紙切れを差し出した。そこには赤色で書かれた『アルバムディスク全員プレゼント』という表題と、字の色は赤いがそれでは隠し切れない白々しい文章が書かれていた。
「虎衛門、この容量の関係でHシーン以外の音声をカットしたというのは?」
「仕様だからね。」
「それで、プレゼントディスクで対応するんだ・・・。」
「さあ、これから忙しくなるぞ、修正ファイルをまず作って、それから適当な売れない雑誌の特集に抱き合わせでお詫びの記事を載せて、最後にプレゼントディスクをつくらなくちゃ。」
何時の間にかに、野比太の顔は不満で一杯になっていた。
「何が不満なんだ、野比太君、未来のゲームの初回版は殆どバグで動かないんだぞ。こんなこと、未来では常識だ。そんなことも分からないのかい?」
そんなアタリが世界を制覇しつづけている様な未来はいやだなと、野比太も思った。しかし、すでに虎衛門の口は、まるでウスリートラの様に大きく開かれていた。このユーラシア大陸最大のネコ科の動物に逆らえる者はいない。野比太は機械的に頷いて答えた。
「ああ、こんな素薔薇しいゲームを創ったんだ、それは忙しくなるね。」
あとがき
さてこのゲーム、V16やGTBでお馴染みの、闘うウェイトレスのあきらさんがヒロインです。今回はこれまでと毛色が違い、ファミレスの新人バイトになった主人公が、あきらに一目ぼれして、彼女にするためにがんばる恋愛SLG・・・の擬態をしているクソゲーを超えた犯罪級ソフトです。
はっきり言って粗製濫造が目立つこのエロゲー業界、多少のことでは怒りはしません、タコマロは。それでも、デモディスクよりも甚だしくレベルの落ちる製品つかまされた日には、「JAROってなんじゃろ」と思うのが普通の人間でしょう。
デモディスクではフル音声でしゃべります。しかし、ゲーム本体では同じシーンでも音声なしです。ゲームに同封されている『アルバムディスク全員プレゼント』の説明には、“ゲーム進行をスムーズにするため、及びゲームの容量の都合上Hシーン以外の音声を残念ながらカットせざるを得ませんでした”と書かれています。えーー、ゲームの進行って、デモディスクで出来てなんで本編で出来ないの? やっぱり、デモと製品の開発ラインが違うから? それに、製品の容量は半分近く余っているのに、どうして容量の都合がつかないの? どこか国の総理大臣の言い訳のように、筋が通りません。
それなのに、Hシーンすらも全部は音声入りではないのです。パッケージには、『Hシーンは“アニメーション+音声”で大迫力!!』と書かれているけど、ホームページによると、どうやら仕様上、それは一部のHシーンに限られるそうです。羊頭狗肉という言葉を思い出すのは、私だけでしょうか。
でも不思議なことがあります、なぜかこのゲームのCDには再生されない音声データが大量に入っているのです。容量うんぬんという話が、すごくうそ臭くなってきます。ホームページによると“土壇場で音声レートを下げたので予想外にWAVファイルが小さくなったのであいた分オマケ的に入れた物です。”いうことらしいです。へー、ほー、ふーん。
TECH
GIAN誌12月号のp171では、エッチシーンで音声ファイルが再生されないのは、Macでもマスタリング時にWin版のファイル名が書き換えられる現象が起きてしまった為だと説明されています。つまり、オマケじゃなくて、一部はバグなんだろ。しかもこのバグ、1ヶ月近く後のアップデートファイルですら解決されていません。実に素薔薇しいアフターケアです、まさに業界の鏡、いや銅鏡ですね。
そんな訳で、お買い上げ全員に『アルバムディスク』をプレゼントしてくれるそうです。これで、すべてのイベントをフル音声で楽しむことができるそうです。こんな案内が製品の中に入っていた日には、こいつら確信犯なんだなと納得してしまいます。さらに、これの発送も3〜4週間かかる場合があると注意書きがありますが、これが家に届いたのは10月28日、どうやら、1ヶ月は製作が遅れたようです。
アルバムディスクのことは後で書くとして、肝心のゲームシステムについて見てみましょう。システムは、恋愛SLGのつもりらしい。おそらく、バイト中に会話を繰り返して、バイト後に自分のパラメーターを鍛えて、デートをしてエンディングにたどり着くというゲームをつくりたかったのだろうと推測できます。
でも実際は、このゲーム、ほぼランダムのイベントだけで構成されています。歴代VIPERキャラの顔見せもランダム、会話イベントもランダムで、誰と話せるかもランダム。しかも、ある程度の好感度をこの会話で稼いでおかないと、デートもままならないというから驚きです。無論、あきらくん狙いでも、この時の運で脇キャラとのエンディングというのも十二分に起こりうる現象です。さらに、突発イベントも殆どランダムで、最悪、バイト2日目にして死亡という展開もあります。ゲーム2回目、恋愛SLGにおいて、この事態に陥ったタコマロも、呆然としてゲームオーバー画面を眺めたものでした。バイト後のパラメーターの鍛錬も1回もやらなくてもグットエンディングは見られることから、単なる時間の割増のためだけに存在していると思われます。当然ながらゲーム性などという物は完全にゼロ。パッケージの“フツーっぽいけどフツーじゃない、恋愛シュミレーション”の宣伝文句の、フツーじゃない部分はは認めますが、どこにフツーっぽい所があるのか全く理解できません。まあ、シミュレーションじゃなくて、あくまで趣味レーションということなのでしょう。
さて、プログラムというかシステム周りですが、ここでも、メッセージスキップができない、フルスクリーンにならない、回想モードが無いという、クソゲー3要素をもれなく網羅!! さらに、画面描画が遅れる場合があったり、マウスを連続クリックすると絵と音がずれたり、イカした仕様がさらに強力にバックアップ。まさにファンが涙にむせぶ出来になっています。だから、次行きます、次。
ここまで、さんざんなことを書いてきましたが、そんなことは問題ではありません。野球では、どんなに相手にヒットを打たれても、最終的に味方が1点でも多くの点数をとっていれば勝ちなのです。しかもメーカーはソニア、最終の(そしてそれしか価値の無い)アニメーションがあるのです。これで逆転サヨナラ満塁ホームランを打ちさえすれば、文句を言うファンなんかいません。しかも今回は、アルバムディスクで、いきなり全シーンを見ることが可能。まさに長打を狙うに、絶好のチャンスといえるでしょう。
そして、その期待のアルバムディスクは・・・・・ショボイです。一球目のボール球をひっかけて、キャッチャーフライという感じです。今時、ピストン運動を単調にカクカク続けられても、悲しくなってくるだけです。これがあのDOSでカレラちゃんを誕生させたソフトメーカーであることを思うと、大河の消失で失われたインダス文明を見るようで、諸行無常を感じます。
でも、タコマロは最後に言いたい、耳じゃなくて金返せ。(タコマロ)
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