このゲーム、長い間、家でホコリを被っていたのを最近発掘された代物だ。他にも色々な作品が発掘されたのだが、それらの中でも、このゲームが群を抜いてパッケージの説明が凄かったのだ。まあ、引用してみると、
箱舟 創世以前に存在していた伝えられなかった伝説。世界を変える力。(中略)
おおいなる力の源、箱舟を巡る闘いの結末は!?
意外な顛末をみせるStory。
その結末を、かないみかの唄声が彩る!
伝えられなかった伝説って言葉にツッコムよりも、このパッケージの説明で凄いことは、突然出てきた「かないみかの唄声」って言葉だ。しかも、元のパッケージからして、この「かないみか」の5文字は、ひときわ大きく、またピンク色で表示されている。
確かに「かないみか」さんは、自分でも知っている有名な声優さんだが、本当に、そこまでの価値があるのかってことだ。しかも、このゲーム、別に有名女性声優を使っているというのが売りではなく、どうやら魔術合戦を主体にしたゲームらしいのだ。どう考えても、力の入れる所を間違えているとしか思えない。
さらに、このゲームのパッケージで魅かれるのは、「かないみか」の5文字だけではない。初回特典の方も凄い。なにせ、初回特典が「魔法の書」なのだ。まあ、魔法の書と言っても、単なるゲームの魔法ガイドなのだが、実際にこれ無くしてゲームクリアはかなり難しくなる。本来なら、ついていて当然の代物だと思うのだが、それを初回特典と言うのは、かなり「JAROってなんじゃろ」って感じだ。
兎も角、この時点で、かなりアレなゲームらしいことが分るだろう。しかし、それを真に思い知ったのは、このゲームを実際にインストールしてみようとした時だった。そこで表示されたエラーが以下の文章だった。
空き容量が足りません。
ドライブCは約−1257Mバイト開いています。
インストールには約302Mバイト必要です。
どうやら古いゲームだけあって最近の大きいハードディスクに対応していないらしい。よくあるバグだと思って、OHPに行って見たのだが、なんと修正ファイルがないのだ。そこで掲示板の方を見てみることにした。すると、案の定そこには、自分と同じ症状になった人の書き込みがあった。それに対する会社側の対応が、「HDDの容量が大きいと起こる場合があるらしいのです。ですので、一度HDD容量を2GB以下にして頂いて試して頂けたらと思います。」だったのだ。
もうここまで来ると乗りかかった船だ。一番小さいパーティションでも数十ギガも余裕があるが、無意味にファイルをコピーして残り容量が2ギガを切るようにした。すると、今度はインストールすることができた。
それで、さっそく開始してみると、まずこのゲームはフルスクリーンオンリー。さらにバックログ表示機能もなし。この時点で、またやる気が削がれたが我慢して進めることにする。すると、太平洋上で闘う魔道師達(体の前方に魔方陣を浮かせている)が表示される。どうやら、一人の魔道師が倒された所らしい。
そして、場面が変わって現代、とあるスポーツ新聞の編集部。そこには、編集長らしき人物に、さぼって眠りこけている所を起こされた記者がひとり。このさぼっていた人物、赤いジャケットに筋肉質な体、それにワイルドな髪型をしていて、どう見ても普通の記者には見えない。そして、彼は後輩の女性に小言を言われながら、彼女を連れて(連れられて)取材へと追い出されるのが、この物語の始まりなのだ。まさに、絵に描いたようなお約束のシーンと言えるだろう。
彼らが取材に訪れたのが、最近、怪事件が続いているある新興宗教団体の儀式会場。しかし、赤ジャケの記者が車を走らしている時に、曰くありげな人影が現れる。その人物を見て、急にあわてだす赤ジャケ。結局、無理矢理に儀式に強行突入するが、一歩及ばず化石化した骨から魔術師が復活し逃げられてしまう。
ここで、赤ジャケの仲間らしい怪しい面子が勢揃する。一人はキリストの聖職者の格好をした男、ダミアン。一人は、黒いマントに黒い服を着た赤い目をした男、ドラキュラ。一人は、半裸でターバンを巻いた男、ファラオ。ドラキュラ、ファラオってストレートな名前も凄いが、一番驚いたのは、赤ジャケの記者の本名がマーリンだったことだ。これまで、色々な小説やマンガでマーリンの名を冠した魔術師を見たことがあるが、その中でこの赤ジャケ・居眠りマーリンが一番、アーサー王伝説のマーリンのイメージから程遠い。もうちょっと考えて名前をつけてもらいたいものだ。
話を戻すが、復活した魔術師(シモン・マガス)は、彼らが奪った魔力を奪い返しに来ることは確実らしいので、魔術師達は、シモンを返討にするために自分に有利な場を形成することする。そのために、彼らは己に適した地に去っていく。この辺りの出来事は全然説明がないので、最初は訳が分らなかった。もう少し、初めての人でも分り易いようにして欲しいものだ。
そして、場面はノアの箱舟の前に移る。そこで多少の魔力を備えたシモン・マガスは、最初にヨーロッパに形成されたドラキュラの城に転移するのだ。転移して一番びっくりしたのは、城のマップ画面にたたずんでいたのは、シモン・マガスのユニットだったのだ。しかも、どうやらプレイヤーがこのシモン・マガスを操作するらしい。てっきり、主人公はあの赤ジャケマーリンだと思い込んでいたので、これには本当にショックを受けた。この時点まで主人公が分らないなんて、説明不足にも程がある。
因みに、このゲーム、この各魔術師に対する扱いが非常に良い。だから、脇役のマーリンも主人公並の待遇を与えられている。当然、真の主人公であるシモン・マガスも銀髪に紅藤色の眼を持つ女性的な美形だし、他のキャラも個性は違えど、みな容姿が良い。さらに、元々彼らは同じ目的のために行動した仲間だったのだ。それが考え方の違いで、現在対立しているみたいだ。おかげで、女性キャラのことなんて脇に置いて、彼らの間でお耽美なシュチュが展開されていく。
例えば、ドラキュラとシモンの再会シーンなんて、パイプオルガンを演奏するドラキュラに対して、「昔から好きだったな」とシモンが言えば、「ああ、そうだね・・・シモン」と答える程だ。細かい描写はないが、このシーン、ドラキュラは侵入者のシモンに対して背中を見せているはずだ。他にも、実はシモンの幼馴染だったらしいファラオなんて、何時でもお前は俺の上を行くとつぶやきながらシモンに抱きかかえられて最後を看取られたりする。一応、女性キャラのHシーンはあるのだが、それはおざなりな出来で、どう考えても美味しいシュチュエーションは男と男の間にあるようにしか思えない。プレイしていて、これは本当に男性向けなのだろうかと疑問に思ったものだ。
それで、このゲームが面白くないかと言うと、そうでもない。特に、ゲームの売りである魔法バトルは結構出来が良かった。ただ、この魔法バトル、リアルタイムバトルで貯まっていく5色のマナ(魔力)を組み合わせて適当な魔法を発動させて相手にダメージを与えて倒すという、かなり複雑なシステムになっている。それにも関わらず、チュートリアルなんてない。おまけに、取説にも個々の操作の仕方を詳しく図解してないし、魔法一覧も使えない魔法ばかりしか記載されていない。最初のザコ戦闘なんて、あたふたしている内に体力を削られて負けてしまった。
それでも、レベルがアップしてきてマナの上限値が大きくなり、取説に書いていない魔法バトルの細かいルールに気づき、魔法のレパートリーが増えてくると、だんだんと勝負が楽しくなってくる。ただ、残念な事は、そんな頃にはゲームはもう終盤に入っているということだ。
魔法バトルの雰囲気が分り易いように、自分がとった戦術を説明しておこう。まず、このゲームの魔法は、赤・青・緑・白・黒の5種類のマナで構成されている(某有名トレーディングカードゲームと同じだ)。まずは、「レッド・ドメイン」(赤青緑白黒の順で4点・0点・2点・0点・0点のマナが必要、以下、40200と略す)の魔法で、フィールドの属性を赤に変更する。こうして、フィールを特定の色にすると、その色の呪文のダメージが増強するのだ。そして、これは取説には書いてないのだが、魔法を唱えるのにマナの消費以外に追加のコストとして体力等を支払うものがある。しかし、フィールと同じ属性の呪文だと追加コストを支払わないで魔法を唱えることができるのだ。
こうやって、赤の呪文の効力を増加させて、体力消費が追加コストの「スピニングワーズ」(50303)の魔法を連発するのが基本戦術だ。この魔法バトルには向きという概念があって、敵が自分の周りをぐるぐる回っており、自分はそれに対して右や左に向きを変えることができる。(まあ、それは相対的な問題で、実際は自分は敵の周りをグルグル回って、敵もこちらの周りをグルグル回って間合いを取っているのだろう。) そして、魔法の多くは正面にしか飛ばない。だから、こちらは、普通なら敵を正面に見据えるように、向きを変え続ける必要がある。しかしながら、せっかく魔法を唱えても、発動の瞬間に敵に逃げられてしまうことがあり、その時はマナが無駄になってしまう。その点、このスピニングワーズなら全方向に魔法が飛ぶので向きなんて気にする必要がない。麻痺とか盲目状態にされる魔法を使われても問題なしだ。しかも、多くの全方向の魔法はコストの割にダメージが小さいのだが、この魔法だけはダメージもコストに見合わないほど大きい。
ただ弱点としては、詠唱時間が10単位かかり、標準よりちょっと時間が長めなので隙が大きいことだ。よって、スピニングワーズを唱えた直後に敵に極大魔法を唱えられると、それを打ち消したり反射したりする魔法を唱える時間的余裕がなくなってしまうことがある。その隙が嫌な時は、正面にしか飛ばないが、「レッド・バロン」(60040)を詠唱していた。こちらも体力消費があるのだが、詠唱時間が短いし、ダメージも非常にでかい。ただ、その短い詠唱時間ではマナが回復しきらないので、連打できないのが悩みだ。
それと、後半戦は敵の魔法も「這いよる混沌」(92929)とかシャレにならない代物になってくるので、ダメージを減少させるために、身代わり人形を創る魔法を使って対処していた。無論、打ち消したり反射させたりしてもいいのだが、タイミングが必要だし、そもそも適切な魔法のマナのレシピを知っていなければならない。確かに、反射は敵の魔法を無駄にして、さらに敵にダメージを与えられる理想の魔法の系統なのだが、これも敵を正面にとどめておかないと効果がない。タイミングを見計らって唱えても、敵に発動の瞬間に回りこまれたら、最悪の事態になってしまう。
その点、身代わりの木偶人形を創ってくれる「デクゥ」(00934)なら、一般的なダメージをしばらく無条件で代わりに受けてくれる。まあ、緑マナが9点必要な最強魔法だし、体力消費もあるので、ちょっと使い勝手は悪いのだが、ラスボス級には非常に有効だ。そして、ラブリーな木偶人形のグラフィックが拝めることも見逃せない。
自分はこんな風に、リアルタイムバトルにも関わらず、タイミングがあまり関係ないようにして闘っていた。マナが溜まったり、詠唱時間があったり、ちょっと各戦闘が他のゲームに比べて長いゲームなのだが、この戦術のためにそれがさらに長くなってしまった。戦闘に負けてもコンティニュー可能なので、もっとリスキーかつタイミング重視の戦術を取れば、時間に関しては緩和されると思う。
上の説明のように、有名でないエロゲーの割に、戦闘は本格的でよくできていると思う。これだけでも、慣れてくれば楽しめるのに加えて、実はストーリーもそんなに悪くはなかった。それを、ネタバレを含めながら解説していこう。
実は、この魔道師達、本当は異星人なのだ。エデンという惑星の出身で、マナの枯渇した母星を放棄し地球に箱舟で渡ってきたのである。だから、彼らが争奪戦を繰り広げている箱舟とは、宇宙船であり、彼らが母星で開発した魔法装置が詰まった倉庫なのである。
そして、話のスケールの凄いことに、彼らが地球に来た時にはまだ地球には海もなく灼熱の惑星だったのだ。それを、彼らはテラフォーミングならぬエデンフォーミングしてエデン人が住むのに適した環境にしたのである。それから、そこに色々な生物を住まわせた。そして、彼らが最後に創造したのが人類なのである。まさに、彼らは創世記を地で行く、神々とも言える存在なのだ。
そして、それからの話も神話のように展開していく。彼ら、エデン人の中でもっとも優秀で「恵まれし者(ファウスタス)」の称号を持つシモン・マガスが、人類の悪徳を憂い、人類抹殺を主張したのだ。元々人類は、人数も少なく繁殖力も低いエデン人で文明を再建するのには多くの時間がかかるために、その補助要員として創られたのである。その役に立たないなら全滅させて、新しいのを作り直せばいいというのだ。確かに、人間だって沖縄のマングースやら小笠原のヤギに対して同じようなことをやらかしているので、彼の言っていることも分らなくもない。
しかし、そんな過激な思想に対して、人間だって悪い奴ばかりじゃないと主張する者がいた。それが、マーリン、ドラキュラ、ファラオ、ダミアンなのである。そして、彼らの対立は武装抗争となり、最終的にシモン・マガスが封印されたのだ。しかし、マーリン達も、シモンによって隠匿された箱舟を発見することができずに、その力を大いに弱めることになった。そして、神々の世が終わり、人類の世が始まったわけだ。
そして、シモンが復活し、再び以前の抗争が繰り返されることになる。こういった争いは、どっちが悪でどっちが善ということもないし、どちらの言い分にも正当性はある。だが、ストーリー的に珍しいのは、主人公側が人類抹殺主義の過激派ってことだろう。普通だったら、主人公が穏健派のマーリンになるのが常套手段だ。
この問題は泥沼だ、どんな結果になっても後味が悪いものになることが多い。しかし、昔から、この問題に対しては、ストーリーとしてある解決法が用いられていた。それは、新しい敵(ノア)の出現である。新世界の王たらんとするノアに対して、人類抹殺問題なんて脇によけておいて協力する魔術師達。そして、色々な犠牲がありながらノアを倒すことができる。
そして、曲が流れ始めるのだが、これが何故か男の声。あれっ、かないみかさんはどうしたのかと思っていると、これで話が終わりではなかったのだ。最初に出てきた後輩に庇ってもらい(無論、彼女は死亡)、命が助かった赤ジャケ・マーリンが激怒状態に突入し、箱舟もろとも世界を破壊しようとするのだ。完全に切れたマーリンは、説得なんて聞く耳も持たないので、仕方なくバトルに突入して殺してしまうことになる。そして、今度こそ流れる、かないみかさんの唄。だけど聞いているこっちは、あまりにあまりの「意外な顛末をみせるStory」に呆然としてしまった。しかし、もう少しまともなエンディングはなかったものだろうか?
薀蓄:
シモン・マガスという名に聞き覚えのない人が多いと思う。西洋では、新約聖書の使徒行伝にも出てくるシモンという魔術師と同一と見なされているので、かなり有名な存在だと思う。
因みに、聖書での彼は、ペテロに金を差し出して神の力を買おうとする卑しい人物として描かれている。この件は、キリスト教会が魔術師を非難する時(それが世界的な有名な某ハリーであっても)、よく引用される所である。
一方、オカルティストにとってのシモン・マガスは、グノーシス主義の一派を造った大魔術師だ。このグノーシス主義とは、物質的なこの世は魂の牢獄であり、それからの開放が救済とみなす神秘主義的思想である。オカルティストが好みそうな話だけあり、このグノーシス主義、1世紀頃から現在まで、キリスト教の弾圧にも屈せず連綿と伝えられてきた。キリスト教がマイナー宗教だった頃には、かなり流行っていたらしいのだが、多分、大衆に広がるには話が高尚過ぎたのだと思う。
シモン・マガスはヘレナという女性を連れていたとされるが、このゲームのシモンもヘレナという女性を妻にしている。しかも、元娼婦ということまで一緒の凝りようだ。ゲームをした人は、なぜ娼婦と思ったかもしれないが、元ネタに無理矢理合わせたのが、その真相なのである。
(タコマロ)
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