「まだ眠そうだね。」


また豪快に欠伸をする獄寺に、ツナは苦笑した。


「・・・・・済みません、オレ、寝て来ます・・・」


半分閉じかけた瞼を擦りながらそう言う獄寺に、ツナはまた苦笑いをして頷いた。獄寺は本当に相当眠いらしく、ヨロ
ヨロと歩き出し、途中でぶつかった山本に対し「スマン」と素直に謝っていた。


「どうしたんだ?アレ。」


謝られた山本本人も以外過ぎたらしく、神妙な顔をしてツナに尋ねた。


「凄い眠いらしいよ。だから寝て来るってさ。」

「ふーん、何夜遊びしてんだか。」

「今日は教室で食べればいいよね。」

「そうだな。喫煙者に気を使う必要無ぇもんな。」


山本はニッと笑うと、ツナの隣りの席から椅子を移動させた。




















「なんなのさ、この生物・・・・・・・・・・・・・・・・・」


各学年の主任達との風紀指導の打ち合わせを終えて応接室に来た雲雀は、三人掛けのソファを占領している少年
に、思わずそう呟いた。プリントの束を机に置き、頭側の肘掛けに静かに座る。

(だらしない顔。)

『彼の喫煙については僕が厳しく指導しますので、先生方は手出ししないようお願い致します。』

打ち合わせの最後に、教師達が言い難そうに獄寺の事を出したので、手を回してやった。教師達にとって、獄寺が根
津という教師に暴力を振るった挙句結局解任にまで追い込んだあの事件は強烈だったらしく、成績は優秀なので後
は素行が・・・・・というのはたてまえで、出来る事なら退学に追いやりたいというのが本音らしい。

(この僕が、誰の為にあんな奴等に頭下げたと思ってるの・・・・・)

ソファで出来る精一杯の大の字で口を半開きにして幸せそうに眠る獄寺の顔に、呆れて溜め息を吐きながら鼻を摘ん
でやる。


「う・・・・・」


獄寺は一瞬眉をしかめてから、クルッと体を半転させて横向きになると、また何事も無かったかの様にスヤスヤと寝
息を立て始めた。起きて怒鳴り付けてくるとばかり思っていた雲雀は、少々肩透かしを食った気分になった。

(ま、いいけどね・・・)

雲雀はフッと口許を弛めると手を伸ばし、獄寺の頭を撫でた。余りに気持ち良さそうに寝ているので、甘やかしたい気
分になったのだ。起こさない様に、優しく、何度も、撫でてやる。不意に、獄寺がブルッと体を震わせて、自分の肩を
抱き寄せた。幾ら応接室の日当たりが良いといっても、何も掛けずに眠れる季節はとうに過ぎて久しい。雲雀は手を
止めて立ち上がると、羽織っていた学ランを獄寺にフワリと掛けてやる。その時、獄寺の肩を掴んでいた手が、触れ
た雲雀の小指に移動した。


「・・・ヒ・・バリ・・・・?」


獄寺は、眉間に皺を寄せただけで目は開けずに、寝言の様に舌ったらずに自分の傍らにいる相手を確認する。


「そう、僕。」

「ん・・・・・」


雲雀が答えると、獄寺は眉間の皺を消し、またスウッと眠りに付いた。

(『ん』って何さ。『ん』って。)

最初は自分の姿を見た途端に全身の毛を逆立てていた癖に。今では自分が居る事に安心して眠っている。野生動
物を手懐けた様な幸福感に、暫し酔いしれた。雲雀は掴まれた小指から獄寺の手の力が抜けた事を合図に、眠る獄
寺の目元に一つキスを落としてから、一人掛けのソファに座りプリントを手に取った。




















「またそんな物食ってやがんのか・・・・・」


ゆっくりと目を開けた獄寺の視界に入って来たのは、脚を組んでソファに座り、つまらなさそうに頬杖を付いてプリント
を眺める雲雀の姿。口に咥えられているのはカロリーメイト。獄寺は雲雀がまともな食べ物を口にしている所を、見た
事が無い。


「それ、君に言われたく無いな。」


いきなり話し掛けられたというのに驚きもせず、雲雀はプリントを捲った。


「オレはちゃんと・・・!」

「コンビニ弁当は『ちゃんと』した食事とは認められないよ。」

「う・・・・・」


雲雀は変わらず視線をプリントにやったまま、ピシャリと獄寺の反論を撥ね付ける。


「日本人なら米食え!米!!」

「イタリア育ちなら、パスタだけ食べてれば?」

「じゃあオレがそうしたら、てめーは米食えよ!?」

「君がパスタだけで生きていけるならそうすれば?」

「ああ、ああ!生きてってやるぜ!」

「あ、そう。どうぞ御勝手に。君がパスタのみの食生活をしようがしまいが、僕には関係無いから食べないけどね。」


埒が明かない言い合いに、イライラした獄寺が起き上がり、掛けられていた学ランを雲雀に思い切り投げ付ける。雲
雀は軽々とそれを受け止めると、漸く獄寺の方に視線を移した。


「栄養なんて死なない程度に採れば十分でしょ。・・・・・・・・・・・・まあ、君が作ってくれるっていうなら、食べあげても
いいけど?」


獄寺が、そういった事に疎いのを知っている雲雀の瞳は意地悪く歪められている。


「どうなっても知らねーぞ。」

「いいよ。」

「腹壊しても責任取らねーからな。」

「作ってくれるんだ?」

「今日の夜、またうちに来い。」


獄寺は照れ隠しなのか、バリバリと頭を掻き毟ってそう言った。雲雀はそんな獄寺の姿を見てクスクスと笑いながらカ
ロリーメイトの箱に手を伸ばす。しかし、それに触れる前に獄寺の手が箱を浚って行った。


「じゃあそういう事で、コレ没収な。オレ、昼飯食ってないから。」


してやったりといった顔でニヤリと笑い、獄寺は中から一つ取り出し口に入れた。雲雀は立ち上がり、ソファに座って
モゴモゴとカロリーメイトを食べる獄寺の、頭の脇の背凭れに両手を付いて、片膝を獄寺の脚の間に出来たソファの
空間に乗せ、顔を寄せた。


「没収は無いんじゃない?それ、僕の昼食なんだから。」


重ねられた唇の間で、サクッと、軽いいい音がした。




















バタバタと、生徒達が走って行くので、昼食を取り終えたツナと山本も人が集まっている方へ足を向けた。黒山の人
だかりのうちの一人を山本が捕まえて、何事かと聞いてみる。


「特別棟の応接室がある階をさ、風紀委員が封鎖してんだよ。困るよな〜!オレ、日直だから応接室の隣の資料室
に世界地図取りに行かないといけないのにさあ・・・・・。」


困り果ててそう言った彼に、軽く礼を言うと、山本とツナは顔を見合わせて、触らぬ神に祟りなしとばかりに、回れ右
をして1−A教室に戻って行った。途中、響く野太い声に、ビクッと肩を窄める。


「この先は立ち入り禁止だ!散れ!!」

「やはり授業開始直前まで、誰も応接室に近づけるな!」

『了解!封鎖、強化します!』


応接室の前の廊下の部屋側の窓の下にゴツい男が二人。壁にコップを当てて、片手に持ったトランシーバーに小声
で指示を送る。


「いい雰囲気です、雲雀さん・・・」

「あの獄寺に飯を作らせる約束を取り付けるなんて、流石です、雲雀さん・・・・・」


それぞれにそう呟き、ハンカチで涙を拭う姿は不気味以外の何者でもなかった。




2004.10.28
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チャットにて、雲獄の萌えをタンマリ頂いたので。
甘いの有りとか、寝てる獄に優しくする雲雀とか、学ラン掛けてあげるとか、
風紀委員は雲雀親衛隊から雲雀の恋を見守り隊になったとか。
魅惑のキーワードを練り込んでみた・・・・つもりなんですけどね。
本当に、チャットって良質な萌えの量産所です(笑