「今日も屋上に行く?」


ツナの問い掛けに獄寺は頷き、山本も加わっていつも通り屋上での昼食となった。


「獄寺さぁ、いっつもコンビニじゃ飽きねーか?」

「そうだよね。でもビアンキに作って貰う訳にもいかないし・・・。」


自炊が不可能な獄寺は、コンビニや購買が昼食の常だった。


「へっへ〜、今日は違うんスよ!」


そう言って獄寺が自慢気に見せた紙袋は、確かに近所のコンビニの物とも購買の物とも違っていた。


「コレなら洗うだけでいいからオレにだって用意出来るんス。」


紙袋から取り出されたのは、丸く艶やかな実がたわわに付いた―――


「巨峰・・・だよな。」

「うん、巨峰だね・・・・・」


山本とツナはその紫色の果実を見ながら溜め息を吐いた。獄寺はそんな二人の様子には気付かず、「明日は林檎に
すっかな〜」とか言いながら、巨峰を一粒取り、皮を剥き始めていた。そんな獄寺を見ながら、ツナがハッとある事を
思い出す。


「ねえ、獄寺君。そんなの食べてるとさ―――」


ツナが最後まで言い終わるより早く、ギギギ・・・と耳障りな音を立てて、重い扉が開いた。


「ブ・ド・ウ・・・・」


(ホントに来たよ―――!!)

扉の隙間から、アフロに角を生やした子供がちょこんと顔を出していた。


「お、この前の。」

「牛クソガキ・・・・・」


山本と獄寺もその存在に気付いたその時、屋上に強い風が吹いた。


「ぐぴゃあッ!!」


元々重いその扉に掛かった風圧は、5歳児には支え切れなかった。


「ランボ!!」

「おいおい、大丈夫か!?」

「!」


チッと舌打ちした獄寺が走り寄り、扉の圧からランボを開放してやる。


「う・・・が・ま・ん・・・・・」


縦に赤く線の付いてしまった両頬を押さえながら、扉の隙間から屋上に転がり出て来たランボが屈み込んで体を震
わす。


「おい、コレやるから泣くんじゃねー。」


獄寺が皮を剥き終わった巨峰をランボの口に入れてやる。ランボはそれを飲み込む頃には涙も鼻水もすっかり止まっ
ていて、「もっと!もっと!」と騒ぎ出した。獄寺はスタスタとツナと山本の所に戻って座り、自分の横のコンクリートを
ペンペンと叩きながら言った。


「こっちで座って食え。半分だぞ、半分。」


ランボは着ぐるみの尻尾を揺らしながら走って来て、獄寺の横に座り、大人しく葡萄を食べ始めた。


「獄寺君、優しい・・・・・」


ツナが獄寺の意外な行動に驚いて呟く様にそう言うと、獄寺は照れ臭そうに頬を指で掻きながら言った。


「泣くと、只でさえウザいのが更にウザくなりますからね。10代目が落ち着いて弁当食えなくなっちまうと思って。」

「この間の汚名挽回だな、獄寺。よっ名保育係!!」

「うっせぇ、殺人ピッチャー。」


茶化す山本に、獄寺が葡萄の皮を投げ付けるが、ヒョイと躱して笑っていた。




















そんな感じで穏やかにそれぞれの食事をとっていたのだが。


「うわあああああん!!」

「な、何!?」


ランボが急に号泣し始めた。


「最後のいっこ〜〜〜!!」


ランボが指差す獄寺の片頬は、確かに膨らんでいた。


「最後のいっこ!最後のいっこ!!最後のいっこーっ!!!」

「ランボ、半分食べただろ!?」

「オレの卵焼き食っていいから!」


大騒ぎするランボをツナと山本が何とか宥めようとするが、一向に収まらない。青筋を立ててそれを見ていた獄寺は
『最後のいっこ』を飲み込むと、ランボの着ぐるみの背中をムンズと掴んで立上がり、屋上の端まで歩いて行くと、腕
をフェンスの外に突き出した。


「牛ガキなんかに甘い顔したオレが馬鹿だったぜ・・・・・」


獄寺の目が本気だったので、ツナと山本が慌てて駆け寄る。


「獄寺君!駄目だって!」

「落ち着け!獄寺!!」

「果てろ。」


獄寺が一段と高く腕を上げた。


「うわあああぁぁぁん!!」


無き叫ぶランボは、ゴソゴソと懐から例の物を取り出した。


「馬鹿!今そんな物使ったら・・・・・!!」


ツナが叫ぶのと同時に、ランボが煙に包まれた。


「うおっ!!」


腕の負荷の急増に耐え切れず獄寺もフェンスの外に引き摺られる。


「「ギリギリセーフ・・・・・」」


ツナが獄寺にしがみつき、山本が大きくなったランボに手を伸ばし、何とか落下は防がれた。獄寺は心底嫌そうだっ
たが、ツナに宥められ、三人掛かりで十年後のランボを引っ張り上げる。まだ何もかもを分かっていない山本は、小さ
いランボを探してキョロキョロしていたが、ツナも獄寺もゆっくりと説明するような状況ではなかったので、見なかった
事にした。


「ど、どうしてオレはあんな目に・・・・・」


青褪めた顔でそう呟きながら、へたり込んでいたランボの襟首を獄寺が締め上げた。


「このクソ牛!危うくてめぇと心中するとこだったじゃねぇか―――!!・・・・・ん?」


獄寺の動きがピタリと止まり、視線が固まる。ツナと山本がその先を追うと、ランボの手に、これまた巨峰が一房ぶら
下がっていた。一瞬の沈黙の後、獄寺はニヤリと黒い笑みを浮かべ、バッとそれを奪い取り、ムシャムシャと食べ始
めた。


「オ、オレのブドウ・・・・・」


既に半ベソをかきながらも、ランボはソロソロと手を伸ばしたが、ギロリと睨んだ獄寺の目に込められた殺気に、ピキ
ーンと音を立てて固まってしまった。


「ランボ、今回は諦めて。」

「ブドウより、命のが大切だろ、にーさんよ。」


ツナと山本が慰める様にそれぞれランボの肩に手を置いて頭を振った。


「手ぇ出せ、アホ牛。」


大好きな葡萄が消えて行く様を見ていられなかったランボは俯いて虚ろな目にコンクリートを映していたが、その声に
顔を上げた。そして言われた通りに怖々と手を差し出す。コロンと、丸い粒が掌に転がる。


「『最後のいっこ』だ。やる。」


半泣きだったランボの顔がパアッと輝き、満面の笑みに変わる。


「隼人、愛してる!」


ランボはそう叫びながら獄寺に抱き付き、頬にチュッとキスをした。

(自ら殺されに行った―――!!)

ランボの自殺行為に、ツナは惨劇を予想して思わず目を閉じた。しかし物騒な物音が一向にしないので、少しずつ目
を開けてみた。


「凄ぇ、あの獄寺が全く動けねぇ。なかなかやるじゃん、牛柄服のにーさん。」


山本が関心した様に呟いたが、ツナが見たのはランボに抱き締められ、全身に赤いブツブツを発して、放心している
獄寺の姿。

(鳥肌通り越して湿疹出ちゃってるよ―――!!)

ツナの焦りを余所に、ランボは獄寺が動けない事に気付いているのかいないのか、「最後の最後にはちゃんとオレに
優しくしてくれるんだよね。」「ブドウも好きだけど、やっぱり隼人が一番好きだ。」などと言いながら、頬へのキスを繰
り返していた。とそこで五分経過したらしく、シュポンッとまるで縮む様に、十年後のランボと現在のランボが入れ替
わった。それで正気を取り戻したのか、固まっていた獄寺がハッとした表情を浮かべて、ついでに額に血管を浮かべ
て、拳を握り締めた。


「おー、イリュージョン!」


隣りで呑気に炸裂する山本節を聞き流して、ツナは呟いた。


「最悪のタイミングだ・・・・・」


晴れた空に、獄寺の怒声と、拳骨の音と、ランボの泣き声が響いた。




2004.11.06
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誰だよ、5話同時にUPするとか言ったヤツは。
・・・・・ごめんなさい、多分それは物凄い時間掛かるので、やっぱり小出しして行きます。
負け犬でスミマセン。
大人ランボを出すまでが無駄に長いんだよ。
だってクソガキネタなら死ぬほどあるから☆