「危ない!!獄寺君!!」


ツナの叫び声と共に獄寺の横から硝子の破片が飛び散った。


「!?」


瞬間、静まりかえった教室にカシャンカシャンと硝子が床に落ちて砕ける音だけが響いた。


「獄寺!!」

「大丈夫!?」


山本とツナの声を合図に他の生徒達も騒ぎだす。


「やだ、獄寺君の顔に・・・!!」

「腕もよ!!」

「嫌〜!獄寺君〜〜!!」


女生徒の悲鳴があちこちから聞こえた。獄寺は咄嗟に腕で頭をガードしたが、頬と盾にした右腕のブレザーから出て
いた手首付近から、血が滲み出していた。その様子に、硝子を割った張本人達がソロ〜ッと逃げ出そうとする。ふざ
けて追い掛けっこをしていて、追い掛けられていた生徒が教室に逃げ込んでドアを閉め、追い掛けていた生徒がその
ドアに激突した為、ドアの上部にはめ込まれていた硝子が内側に弾き飛んだのだった。


「「「アンタ達〜・・・」」」


女子生徒達の恐ろしい声に足をピタッと止める。ガシッと何者かが彼らの首に腕を回した。


「お前等、追い掛けっこは外でやれよ?」

「痛!痛いって!!」

「悪かった!く、苦し・・・締まってる!締まってる!山本!!」


殺気の籠った目で二人を交互に見ながら、徐々に腕を締めてゆく山本に、えも言われぬ恐怖を覚えて慌てて謝罪す
る。


「オレに謝ってどうすんだよ!?獄寺だろ!!」

「「獄寺君、ごめんなさい!」」


山本と、ツナと、男子生徒二人、それから野次馬。全員の視線が獄寺に注がれた。当の獄寺は、手首付近の傷から
滴る血を、ペロリと舐めていた。血の赤と舌の赤が入り混じる何とも非日常的で官能的な光景に、中学生の頬は一
斉に赤く染まる。


「あ、あの、獄寺君・・・・・・ちゃんと手当てした方がいいんじゃない・・・かな?」


静まり返った中で、おずおずとツナが口を開くと、皆も頷く。


「そうっスか?まあ、10代目がそう仰るなら・・・・・・。じゃあ、ちょっくら行って来ますんで。俺の事は気にせず昼飯食
ってて下さいね。」


頬の傷を無造作に拭ってから手首を押さえ、獄寺はツナに笑顔でそう言い残すと教室を出て行った。それを一同で見
送り、山本が男子生徒に回していた腕の力を抜いて彼らがドサッと床に落ちる音を合図に、ザワザワと室内は何時も
の昼休みの雰囲気に戻っていた。




















引き戸に手を掛ける前に一瞬躊躇ったが、覚悟を決めて勢い良く戸を開ける。


「男はお断りだからなーツバでも付けとけー」


ガラガラピシャン!!

お決まりの台詞は荒々しく閉めた戸の音で消してやる。獄寺が部屋の奥のカーテンが敷かれたベッドにツカツカと歩
み寄り、シャッと勢い良くカーテンを開けてやると、保健室の主が芋虫の様にベッドに丸まっていた。


「ちゃんと手当てしろって10代目の御命令なんだよ。起きろヤブ医者。」

「隼人ぉ・・・?」


まだ開ききらないシャマルの目の前に、手首をずいっと見せ付ける。開ききったところで何時も眠そうなシャマルの瞳
がその傷と獄寺の頬の傷を捉え、口からは溜め息が漏れた。


「あらら〜スッパリいっちゃってまぁ・・・ドンくせぇなぁ、硝子位スマートに避けろって。」


ちらと傷を見ただけで、丸でその場に居たかの様に原因を言い当てる。その事には感服するが、シャマルの余りの言
い草に、獄寺の額には青筋が浮かぶ。


「っっっるせー!!この、給料ドロボーが!!!もういい!ツバ付けときゃいいんだろ!!!」


のんびりと起き上がるシャマルにそう怒鳴りつけ獄寺が踵を返すが、手首を強く掴まれその痛みで咄嗟に振り返る。
ベッドに腰掛けたシャマルに掴まれた手首からは再び血が滲んで、シャマルの指の間から赤い物が見えていた。立
ち上がり、獄寺の頬にシャマルの手が添えられる。頬の傷をゆっくりとなぞる指は優しくて、獄寺は抵抗の力を抜い
た。それでもまだ掴むシャマルの力は緩まず、ズキズキと痛む手首に獄寺が顔を歪める。シャマルはふと微笑むと、
獄寺の頬の傷を一舐めした。


「顔は掠り傷程度だが、こっちは結構深いな。」

「痛ぇよ・・・放せって・・・・・・」

「手当てしてやるから、コッチ来い。」


シャマルは獄寺の手を取ったまま、洗面台に向かい、傷口と自分の手を丁寧に洗う。血が混じってマーブル模様にな
った水が排水溝に流れてゆくのを見ていたら、傷に柔らかいガーゼの感触。それに気付いてすぐに、押さえていた手
が離れていってしまったので、獄寺は慌てて自分でガーゼを押さえた。視線を上げると、シャマルはすでに教員机の
椅子に座っていて、机上の救急箱を開けると、自分の前の丸椅子を指差して、ちょいちょいと手招きをしていた。獄寺
が丸椅子に座って手を差し出すと、シャマルがそっとガーゼを退かした。


「沁みるぞ。」

「っつ・・・・・・!」


ガーゼを受け皿にして傷口にたっぷりと消毒液を浸み込ませ、その上に新しいガーゼを乗せるとテープで止め、血が
消毒液で滲んだガーゼを蓋付きゴミ箱に捨てると、クルクルと包帯を巻き始める。一連の動作を只見ていた獄寺が、
呆れて口を開いた。


「大袈裟じゃねーか?」

「バーカ。本当は縫おうかどうしようか迷ったんだぞ。」


シャマルの口調は軽かったが、言っている事は事実のようで。もうそれ以上獄寺は何も言わず、シャマルに任せる事
にした。


「今日から当分お前んちに泊まるからな。」

「はぁ?何でだよ。」

「不器用なお前が片手で風呂入れる訳ねーし。包帯が解けても適当に絆創膏でも貼って済ませとく気だろーが。」

「うっ!」


確かに自分が困りそうで、やりそうな事だったので、獄寺は言葉に詰まって顔を赤くした。どうしてこの男は、こうも自
分の事を自分以上に知っているのか。


「一緒に風呂入ってやるし、包帯が解けたらまた巻き直してやるぜ。」

「甘やかし過ぎだろ。」

「俺はお前を守ってやる、ってガラじゃねーし。お前も大人しく守られてるタマじゃねーだろ。こうゆう時位いいんじゃね
ーの?そうゆうのも。」


何時の間にか包帯は巻き終わり、シャマルはそのまま手を持ち上げて、微笑んでウィンクすると包帯の上からキスを
した。優しいキスなのに、何故か傷がチクリと痛んだような気がする。


「ほれ、終わったぞ。」


そう言って、離れていったシャマルの手を、獄寺の目は追ってしまう。


「顔の方は手当て無しかよ。」

「だから掠り傷だって言ってんだろ。ツバつけときゃ治るってーの。」

「ツバ、つけろよ。」


後片付けをしているシャマルの白衣を、包帯が巻かれた手が握り締める。


「さっきやってやったじゃねーか。」

「も一回・・・・・・・・・・やれよ。」


乱暴な言葉で、我侭を言っても、視線を合わせられずに下を向いて耳まで赤く染め、自分を頼る手は微かに震えてい
る。愛しくて愛しくてどうしようもない坊ちゃんに、気付かれない様にシャマルは苦笑して、頬に手を添えると、もう一度
傷を優しく舌で撫でてやる。獄寺の口から吐息が漏れ、予鈴が酷く遠くで聞こえた。




2007.06.25.
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どんだけぶりっだってーのよこのシリーズ。書き出しが霞んで見えるわ・・・。
獄はマフィア業の時も日常でも怪我が多そうでシャマルはハラハラしっぱなしだといい。
なーんつってな(OH!スーパーミルクチャン口調)
↑知ってる方いるのかしら、コレ
獄に硝子を降らせた男子生徒のもとには翌日『蚊の季節には注意しろ』という怪文書が送られてたり。てへ☆