花言葉を添えて
「何だか悪いな。飯作ってもらうなんて」
「たまにはのんびりやるのもいいかなってね。最近佐村、元気なかったみたいだし」
そう言って畑中は邪気無く笑うと、俺に座るように促し台所へと戻っていく。
畑中の部屋は洋間のワンルームだ。小奇麗に整えられた部屋は、俺の家と違って細かい所にも掃除が行き届いている。目の前のテーブルには青菜の白和えとサラダ、野菜の天ぷらが用意されていて、その造作は男の一人暮しとは思えぬ丁寧さだ。
「お待たせお待たせ。さっ、始めよう」
蓋のついた大皿を持って、畑中もテーブルにつく。互いのコップにビールを注ぎ、お互い自分のグラスを掲げる。
「くそったれの課長に」「久しぶりの休日に」
『乾杯』
グラスを打ち付けた小気味良い音に煽られ、一気に飲み干す。
飲み終えた俺はグラスを置きながら、そのまま白和えをつまむと、青菜の香りが口の中に広がる。知らない野菜だが酒に良く合った。
会社の同期で三十路前。俺たちはお互い決まった女もおらず、なんとなく二人して外で飲むことが多い。駒扱いしかされない仕事への愚痴や、共通の趣味など、畑中との酒は肴に事欠かない。ただ、こんな風に家に招かれるのは初めてだった。
「お前って料理上手だったんだな。なんでこれで彼女ができないんだか不思議だよ」
俺が白和えをつつきながらそう切り出すと、畑中は俺のグラスにビールを注ぎながら、照れくさそうに笑う。
「今日は料理を楽しめるように凝ってみたんだ。やっぱり佐村が元気ないと、僕も張り合いがないからね」
その台詞はちょっぴり恥ずかしくて、話題を逸らすために俺は天ぷらにも手を伸ばした。
「これも美味いな。これ、何て野菜だ?」
待ってましたとばかり、畑中はいっそう楽しそうな表情で口を開く。
「これはヨモギの天ぷらで、これがたんぽぽの葉のサラダ。あとこれはセリの白和え――」
「たんぽぽ? 雑草じゃないか」
俺がちょっと嫌そうな声を上げると、畑中は少しだけ怒ったような顔をして、俺を見る。
「見た目や名前で判断するなんて、良くないよ。やってみなきゃ解らないって、いつも佐村が言ってるんじゃないか。あ、ちなみに、今日の主菜は僕のオリジナルなんだ」
そう言って畑中はにこやかな顔に戻ると、テーブルの中央にある大皿の蓋を取った。
瞬間、部屋に濃密な野草の臭いが広がる。
「はい、セイタカアワダチ草のベーコン巻き」
「……それ絶対に食用じゃないだろ」
突っ込みにも負けず、畑中は屈託の無い笑みを浮かべている。俺は呆れながらも、その雰囲気に不思議とやわらかな気持ちになる。
「ホント食えない奴だなお前」
「食わず嫌いは良くないよ?」
畑中はにこやかに、小皿に料理を取り分け始めた。なんだか今夜も長くなりそうだ。
ただとりあえず、主菜の味は不合格だった。
草書