Crazy&Cries





「あれ? どうしたんですか、先輩。珍しい……」
 少女がコンピュータを前に睨めっこする男に、意外な声をあげた。
「珍しいってなんだよ……。お仕事してるんでしょうが」
「え? ……それが珍しいんですよ」
「言うようになったね……」
 男は肩を竦めて苦笑い。
 しかし、瞳はモニタを捉えたままだ。

22:37
 緊急会議終え簡単な食事を済ませた男は、基地の部屋に戻ると、普段は使わないコンピュータの電源を入れた。
 久々のキーボードに頭を抱えながらも、徐々に感を取り戻しつつある。
 今、何気ない雑話を交わしたばかりだが、男の瞳は真剣そのものだった。
 少女はその姿に微笑むと、熱いコーヒーを彼に差し出した。
「どうぞ」
「Thank you !! 気が利くね」
 男は振り向くことなくそれを受け取ると、躊躇なく一気に口に運んだ。
「あ、まだ熱いですよ?!」
 しかし、ゴクリと一飲みでコーヒーを平らげる。
 思わず目を瞑った彼女だったが、男から何の反応もなかった。
「あ、あの、先輩……、熱くないんですか?」
「俺は無敵なんだよ」
 そう言いながらも、男は忙しそうにキーを叩いている。
 少女は飲み終えたカップを恐る恐る受け取ると、新しいコーヒーを入れに向かう。
「帰んないのか?」
「え?」
 不意の言葉に、振り返る。
「今日も残業申し付けたっけか……?」
 男が思考を巡らせている。
 それでも視線はモニタに注がれたままだ。
 少女はクスッと笑うと、男に軽く会釈した。
「残業はありません。だから先輩に付き合いますよ」
 意外な返事に、ついに男は少女に顔を向けた。
 にっこりと笑う顔を見て、男はフッと息をつく。
「待機命令が出てんだ。俺は帰れないぞ?」
「こんな遅くに、1人で帰らせるつもりですか?」
 男は両手を上げる。
 少女は再び会釈する。
 直後、少女は何かを思い出したかのように、大きく口を開けた。
「あ、違いますからね! 深い意味とか、そういうのはなんにもありませんからね!!」
「な〜に興奮してんのよ?」
 少女の顔が紅くなる。
 男は片手をヒラヒラと振って見せた。
 少女は顔を隠すように、コーヒーを入れに向かう。
「あ〜、コーヒーはいい。冷たい水を貰えないかな? 今ので火傷しちゃったみたいでね……」
 舌を出す男を見て、思わず吹き出した。
 男は彼女の背中を見送ると、大きなため息をつき、椅子の背凭れに身体を預ける。
 瞼を閉じ、思考を巡らせる。
 男の頭に浮かぶものは、昼間の彼女の言葉。
「爆弾が怖い、……か」
 暫く何かを考え、そして跳ねるように起き上がった彼は、先の緊急会議にて手渡されたデータディスクをコンピュータに読み込ませた。
 男の指が再びキーの上を走る。
 そして、画面上に返ってきた情報を凝視した。

【連続人間爆破事件】
 15年前に起きた、残虐非道な事件の詳細がそこにある。
 男の眼が険しくなる。
 データにはこうある。
【爆発物の権威、ボマー博士(53)が実験という名目で行った、非道極まりない殺人事件。
 その詳細は人体に爆弾を仕込み、それを遠隔で爆破させるというものである。
 民間人から8名の被害者が出ており、皆即死している。
 事件発生から3日後に軍によって身柄を拘束され、第6刑務所へと搬送された。
 その後、博士の研究所も軍に抑えられ、閉鎖された。
 権威が起こした事件としては前代未聞であり、学界にも大きな反響を与えた。】

 そして画面には文書だけでなく博士の顔写真も貼り付けられていた。
 小太りで丸い眼鏡をかけ、如何にも学者らしい印象を受ける。
 男は腕を組み、再び暫し黙考する。
 そこへ少女が戻ってきた。
「先輩、お水です」
 男は黙ってそれを受け取ると、一口ばかし口をつけた。
「なぁ、フィル。ボマー博士って知ってるかい?」
「え? ボマー博士って言うと、連続人間爆破事件【バースト】の?」
 名前を呼ばれた少女が即答する。
 男は感心した様子で口笛を鳴らした。
「さっき貰った資料だ。【バースト】の事件のことが記されてる。たしかにこいつを見ると、今回のテロと共通してるところがあるな」
 少女も画面を覗き込む。
「人体爆破……、ですか?しかし、これだけでは何の参考にもならないのでは?」
「ま、確かにね。研究資料は全て抹消されてるようだし、外に漏れた形跡はないようだ」
 何かを考えながらも、男の指はキーの上を踊っている。
「だけど首謀者がこの事件から、なんらかの影響を受けたってことも考えられるな」
 口調は軽いが、表情は険しさを増すばかりだ。
 少女も黙って画面を見詰める。
「どこかにヒントがあるはずだ、どこかに……」
 男の顔は真剣そのものだった。
 普段は空かした態度の隊長が、いつになく必死で事件を調べている。
 少女の瞳にはそんな隊長の姿が不思議に映っていた。
「せ、先輩」
「なんだ? なんか見つけたか?」
「あ、いえ……、なんだかいつもと違って事件に対して真剣だから、どうしたのかな? って……」
 少女は思い切って口に出してみた。
 指が止まる。
 まずいことを聞いてしまったのかな、などと思いつつも、少女は男を見詰めた。
 だが、男は意外にもわざとらしい笑みを作って少女を見返した。
「俺はいつもいい加減だってことか?」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
 不意に、男の声が小さくなる。
「まっ……、なに、ちょっとね……。Ladyが泣いてんだ……」
 そういうと、何事もなかったかのように再び忙殺に指を動かし始めた。
 少女は、一瞬浮かべた男の物悲しい表情を見逃さなかった。
「やっぱり先輩って、優しい方ですね」
「あぁ、Ladyにはね」
 少女がにっこりと微笑むと、自分のデスクの上にあるコンピュータの電源を入れる。
 ブゥンという電子音を鳴らし、画面が明滅し始める。
 男が少女と視線を合わせた。少女がコクリと頷く。
 小さなため息。
「じゃ、フィル。パイオニア2の乗員名簿を調べてくれる?その中からハンターズだけを洗っていってくれ」
「ハンターズを?」
 少女が疑問詞をあげた。
「現場でバルバスが首謀者っぽいハンターズと接触してる」
「情報は確かなんでしょうか?」
「証拠はない。だけど、疑いがあるなら調べておいて損はないだろ。この事件早く片付けねぇと、公に事態の詳細を開示されちまったら、それこそ大変なことになる」
「了解」
 返事をすると、少女は手早くキーを打っていく。
 男も意識をコンピュータへと戻した。より細かい事件の詳細を調べ上げていく。
 静寂の空間にキーの音だけが響く。そのまま時間だけが経過していく。

 時計の針がその日の終わりを示そうとしていた時、長きにわたっての沈黙を男が破った。
「どういうことだ……?」
 男は両手をデスクに叩きつけ、勢いよく立ち上がった。
 少女は驚いて顔を上げる。
「どうしたんですか?」
「……いないんだよ、1人。 あいつが……」
 少女が首を傾げる。
 男の表情は、自慢のストレートヘアに隠れ、その色を見せない。
 打ちつけるように何度もキーを叩く。だが、返ってくるのは同じ結果。
「フィル、ハンターズは後回しだ」
「え?」
「40歳〜50歳くらいまでの男性で、現在第6地区の住人を絞り込め!!」
「は、はいっ!!」
 男の怒鳴なるような声に、少女の身体がビクッと跳ねた。
 オーラのようなものが、男の身体から揺らいでいる。
 凄みに押され、少女は指を走らせる。
 男はじっとモニタを凝視したままだ。
 その瞳に奥には、1人の男の顔が映っていた。




 軍部の展望室。
 エントランスホールよりも更に高い位置に設けられたそこに、黒紫色のアンドロイドの姿があった。
 中央の女神像の姿をした時計は、既に深夜の2時半を指している。
 静まり返ったその円形劇場のような空間には、彼の以外の人影は見当たらない。
 黒紫色のアンドロイドは、腕を組み、機械のその眼は光を落としていた。
 強化ガラス越しに広がる漆黒。そして足下には、生命を育む星。
 雄大な光景は、彼を一飲みに輝く。
 ここからの展望は、見る者全てを魅了する。
 静寂に身を委ねていたアンドロイドの瞳に光が燈った。
 正面を凝視すると、そこにはいつの間にか今までなかったはずの人影があった。
「こんな時間にお呼び出しとは、いったい何の用だ?」
 高くも低くもない男の声が響く。
「すまない……」
 アンドロイドは腕を組んだままその男を見詰める。
「こう見えて忙しいんだ。今、手掛かり見つけてね。ちゃっちゃと頼むよ」
 男はそういうと、女神像に無遠慮に腰掛けた。
 アンドロイドが静かに口を開く。
「お前はどう思う?」
「人の体内に爆弾仕込むなんて、正気の沙汰じゃないね」
 軽い返答。
 しかし、男からは怒りが伺える。
「人にとって、命とはなんだ?」
「難しい質問しやがる。でも、簡単に捨てていいもんじゃないな」
「今回の件は理解に苦しむ」
「罪のない市民にも爆弾を埋め込んでるとはね……。これをやってるやつはとんだ腐れ外道だな」
 アンドロイドは腕を解くと、漆黒へと眼を泳がせた。
「星を前にして、俺たちは未だこの闇に染まった空間から開放されずにいる」
「何が言いたい? 不信感からのテロが許されるわけじゃない」
「しかし、彼等の要求が解からぬでもない」
「星へ降ろせってか? だからつって、限度がある。死者まで出てるんだぞ? こんなことがあっていいもんかよ」
「それは理解している」
 アンドロイドはが再び男へと向き直ると、右手で拳を作り、それを突き出した。
「ハンターズの特定は出来た。あとは事を起こすだけだ」
「お前が出会った怪しいハンターズのことかい? 名指揮ぶりは聞いてるよ。そいつを前にして、よく部下の撤退を最優先に動けたもんだな」
「無益な犠牲の上での解決は望んでない。」
「力を誇示するお前にしちゃ、立派なことを言う……」
 男が苦笑する。
「否定はせん……俺は他に何も持ち合わせていない。自らの力を通すことが、俺の使命であり、死命でもあると思っている。故に……、次は逃がさん」
「……くだらないね。人生ってのは、レールの上を歩くだけじゃないんだよ」
「俺を人と呼ぶのか?」
「今は哲学やってる時じゃないでしょ?」
「では後々考えるとしよう。今の居場所は戦場でいいからな」
「乗り込むつもりかい? ハンターズギルドに」
 アンドロイドは答えることなく再び男に背中を向けた。
 彼の背中は、男に礼を言っているようにも見えた。
「……俺ゃ戻るぜ」
 尻を払い立ち上がった男は、女神像に丁寧に会釈して見せると、そのまま出口へと向かった。
「メリーを頼む」
「あん?」
 男は足を止め肩越しにアンドロイドを見詰める。
 彼はやはり背を向けたままだ。
「あいつは優しすぎる。この件で得たショックは大きい」
「軍人の主な仕事は戦場で殺し合いすることでしょうが。目の前で人が死んだくらいで騒がれても困るな」
「それを望まない軍人もいる。」
「軍人失格だな」
「そのあたりは、お前が一番理解していることだろう」
「調子いいこと吐かすなよ」
 男はそういうと、出口の自動ドアを潜っていった。
「感謝する」
 静かな声は自動ドアに遮断された。
 アンドロイドは闇を見詰めたまま動かない。




 同時刻。
 エントランスホールにも、1つの人影があった。
 スクリーンに映し出されたのは、海と砂。
 人影はそれを凝視し続けている。

 望んだものは、平和。
 求めたものは、抱擁。
 願ったものは、悠久。

 受けたものは、絶望。
 得たものは、恐怖。

 視界の先に広がる光景に、想い耽る。

 全てが叶うことはなかった。
 手にしたものは何もなかった。
 それでも、一時の幸福がある。
 悲惨な結末がある。
 揺らぎ無い真実がある。
 忘れることはない。
 忘れることは出来ない。

 これから生きていくために、進むべき一歩を踏み出さねばならない。
 恐怖を振り払わなければならない。
 呪縛を払うときは、今かもしれない。

 海と砂の映像は、いつの間にか消えていた。




 ハンターズ専用エリア。
 ハンターズと、それの関係者達だけが立ち入りを許可された区画である。
 総督府のハンターズ雇用、重用により、軍は政治的介入を抑制されることとなった。
 また、個々で軍の一個師団と拮抗する程の能力を持ちながら、自己判断のみでそれを行使する危険極まりない集団であるにも関わらず、市民達からは英雄視され、それとは逆に、軍部の者達は邪険にされる。
 素性の知れない連中達に本来の役目を奪われた軍人達に、ハンターズに対する嫌悪感を隠さぬ者も多い。
 そして今日もハンターズエリアの警備を勤める軍兵が、口癖のように呟いていた。
「俺たちにも、もっと強力な武器があれば……!」
 誰に伝える訳でもない、静かな叫び。
 自分に言い聞かせるたびに惨めな思いを噛み締めていた。
 そこに、聞き慣れぬ声が掛かる。
「強力な武器だけでは、奴等に敵いはせん。日々の修練があるからこそ、奴等はあれだけの戦闘能力を保有できているのだ」
 見上げればそこに、どこかで見覚えのある長身のアンドロイド。
 黒紫色のボディに軍服を着込み、どこか堂々たる威厳を漂わせている。
「20番隊のバルバス隊長殿……?」
「任務御苦労」
 アンドロイドがゆっくりと敬礼する。
 軍兵も慌てて敬礼を返した。
「このような所へ、今日はいったいどうされたのですか?」
「任務だ。ハンターズに用がある」
 重低の声が、ビリビリと空気を震わせる。
 実力者を名乗るハンターズからも、これほどの威圧感を感じたことはない。
 隊長格とはこれほどなのだろうか、と畏怖すら覚えた。
 背中には、背丈以上あろう巨大な何かを装備している。
 あまりの大きさ、そして一風変則的なその形に、何と呼んでいいものか…彼にはわからない。
 緊張を押し殺す軍兵に、バルバスは顔を向けた。
「バーン=レバルトというハンターズを探している。存じないか?」
「バ、バーン=レバルトですか?あ、あぁ、知ってますよ。今朝早くギルドに来てましたが……?」
 覚束ない口振りでなんとか言葉を絞った。
「彼の所在を知りたい」
「さ、さぁ、そこまでは私も……。ここのゲートは潜っておりませんので、地表に降りたということはないと思いますが……」
「遅かったか……」
 バルバスの表情が曇った。
 機械の顔でありながらも、それは軍兵にもよくわかる。
 バルバスは僅かな黙考の後、踵を返した。
「奴を見掛けたら連絡願いたい! 至急だ!!」
「は、はいぃぃ!!」
 いきなりの怒鳴り声に、訳もわからず返事と敬礼を返す。
 しかし、そこには既にアンドロイドの姿はなかった。
「なんだったんだ、いったい……」
 緊張の糸が切れた軍兵は、その場にへたりと尻餅をついた。


10

 廃墟を歩く女性の姿。
 漆黒の髪を靡かせ、隈取という色化粧を施したどこか神秘的な美女。
 着物のような軽防具に身を包み、歩く度に漂うものは気品。
 肩先には、神話に登場しそうな禍々しい神のような浮遊防具。
 優雅にもどこか妖艶な彼女は、廃墟という虚ろな空間に確かな存在感を放っていた。
 彼女は足を止め、一点を見詰める。
 そこには同じく、軽防具を着用し肩先に浮遊防具を携えた青年の姿。
「どこで僕の情報を手に入れたんだい、ハンターズ」
 子供っぽい声が、彼女に発せられた。
「主等と一緒にされては不愉快極まりない」
 彼女の言葉には威圧がこもっている。
「なんだ、軍人さんだったか。じゃあ、あのアンドロイドに見られた時かな……。失敗したなぁ」
 男は残念そうな素振りは微塵にも見せず、大きく手を開いて見せた。
 彼女がその仕草に警戒する。
「軍人さんが僕に何用さ? やっぱり捕らえに来たのかい?」
「主は、己の行ったこと、解かっておるのか?」
 男は嫌らしく口元を歪ませた。
「解かっているとも。俺は市民達を星へ降ろせと政府に呼びかけたのさ」
「何の戯言を……」
「でも、僕個人の力じゃどうにもならないから、ここの市民の人達に協力してもらったのさ」
 まるで子供が自慢話をするかのようなその口調に、彼女が殺気を込めた。
 だが、男は気にした様子もなく、両手を広げたまま踊りのようなステップを踏んでいる。
「ここは階層が低いからね、高階層にいる政府の代表達には声が届かないだろう? だから、花火を使って訴えかけてみようと思ったんだよ。僕って賢いだろ?」
 男はそういって微笑みかけて見せた。
 邪気さえ感じられぬその顔に、悪寒が走る。
「理由はそれだけか……? 主は、己がどれほど残虐な行為を働いたのか、理解できておらぬのか……?」
「残虐? どうしてさ? 君、花火は嫌いかい? 綺麗なんだぜ、すごく」
 男の言葉を聞き、彼女の双眸は怒りそのものに変わった。

「マハジャ=シュンカ、我名の下に滅せよ外道……!!」
 マハジャが動いた。
 左袖口から、長方形の札紙を数枚取り出すと、それを男に向かって投げつけた。
 勢いを持ったそれは、男の足元に落ちる。
 マハジャは指で印を組、呪文を唱えた。
「解、爆!」
 男が疑問を上げるより早く、その札が爆発する。
 爆炎が、男のいた場所を包み込んだ。
 瓦礫が舞い上がり、灰色の煙を立てる。
 だが、その煙の中から1発の光弾がマハジャに飛来した。
 寸前で、それを避ける。
「面白い術を使うんだな、軍人さん」
 その声は頭上より聞こえた。
 反射的に、その場から後方へ飛び退く。
 マハジャの眼前に何かが閃いた。
 ハラリと落ちる、数本の前髪……。
 あとほんの一瞬でも反応が遅れていれば、脳天から真っ二つだったかもしれない。
 マハジャは眼を凝らす。
 今自分のいた場所に男が立っている。
 右手には短銃、そして左手には彼女を切り裂こうとした刀。
 無防備で構える男は余裕の笑を浮かべていた。
 その矜持等ではなく、自信とそれに伴った確かな実力からきていることが感じ取れる。
「船内でのテクニックは制限されているはずだが、それを使ってくるなんて思わなかったよ」
「我は特別でな」
「特別って、さっき紙切れに仕掛けがあるのかい? ……でも残念。ハンターズにあの程度のテクニックが効くと思うなよ」
 マハジャは身構える。男が再び光弾を放った。
 一直線に頭部を狙うそれに向かって、マハジャが前に走る。
「あは、死ぬつもりか?」
 彼女に光弾が当たる瞬間、再び炎爆が起こった。
 炎により、光弾が弾かれる。
「なるほど、そういう使い方もあるのか」
 視界が灰煙によって封じられる。
 男は関心を洩らすと、短銃をホルスターに収め刀を両手で握った。
 腰を低く落とし、交差させた腕を顔の横に構える。
 煙の中より、マハジャが飛び出した。
「正面からとはいい度胸! 軍人風情が、ハンターズに勝てると思うなぁ!!」
 間合いに入ってきた彼女に、必殺の剣戟を見舞う。
 だが、それは彼女を捉えることなく空を斬った。
「なに?!」
 視線を巡らせる。
 彼女の身体は空中にあった。
 マハジャは男が動くより早く、掌を男の頭部に押し当てる。
 そのまま身体を反転させ男の背後に着地した。
 それと同時に、印を描いた指先で地面を叩く。
「轟招雷」
 男の頭部に貼り付けられた札紙から稲妻が迸った。
 高圧の電流が男の身体を奔流し、神経を激痛で撫でていく。
 男は悲鳴のような叫び声と共に身体から煙を吐き出し、その場に膝をついた。
 皮膚は焼け焦げ、爛れている。
「即けあがるな、ハンターズ。痛みを知れ」
 マハジャが男に言い放つ。
 男は苦しそうに顔を上げ、マハジャを見詰める。
 その瞳は先程までとは違い、どこか弱々しい。
「キサマ、僕にこんなことをして、生きて帰れると思うなよ……」
「遠吠えか。油断をした主の未熟が結果よ」
 男を睨み返す。
 マハジャは袖口より札紙を取り出すと、男の剣の間合いギリギリまで近づいた。
 男が舌打ちする。
「怪我人の間合いに入るのも怖いのか?」
 頭の悪い挑発をする男に返す言葉はない。
 マハジャは胸の前で印を切る。
 手にしていた札紙が青白く光を放ち揺らめいた。
 それを男に向ける。
「主の目的はなんだ? 爆弾は誰が作ったのか?」
 真っ直ぐと男を見詰めたその瞳は鋭い。
「目的だと? 言っただろう? 政府に市民の願いを叶えてやろうと思ったんじゃないか。」
「市民を殺し市民の味方であると? ふざけるのもいい加減にせよ!」
 彼女の怒声には、殺気が込められていた。
 男は表情を歪ませる。
「ま、まて、落ち着けよ! 目的だろ? 話す! 話すから!」
 男が大袈裟に両手を上げて見せる。
 しかし彼女の殺気が反れることはない。
「こ、殺したりしないよな?」
「回答次第だ」
 凍てつく双眸。
 研ぎ澄まされた怒りの感情は畏怖を与える。
 顔を合わすこともままならなくなったのか、男が視線を地に落とす。
「す、すまない……」
 震える声。
 小さく呟くように発したその声は、聞き取るのがやっとだった。
 その言葉を聞き無意識に生まれた一瞬の気の緩み。
 しかし、男が彼女に顔を上げたときその瞳は狂気の色へと変わっていた。
「すまない、ここでお前も死んでくれぇぇぇ!!」
 狂った叫びに、マハジャが一歩後退する。
 だが、彼女の動きは何者かに止められた。
 腰にぶつかった何か。
 彼女は振り返りそれを見る。
「あ、あ、軍人さん……」
 そこにあったのは少年の姿。
(いつの間に……?)
 剥き出しの感情が、彼女の冷静さを、判断力を鈍らせていたのだろうか。
 だが、いまはそんなことを考えている時ではない。
「ここは危険じゃ! 離れよ!」
 しかしマハジャの声は、閃光と爆音に掻き消された。
 少年に声は届いただろうか……。





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