Shade&Star(戒めの刀)



 漆黒。闇夜を彩る星々は、我を示さんとばかり光を放つ。
 小さく微かに、儚くも闇を照らすそれらは、夜空に踊る妖精だろうか。
 美しく、優しく…人々は無限に輝く星、無限の願いを託す。
 だが、人々は知らない。
 宇宙という無限の空間で、ひっそりと輝きを放つ星たち。
 彼等はどのような想いをしているのか。
 暗黒の空間でただ独り… 己を証明してくれるものは存在しない。
 ならば、できることと言えば輝くことだろうか…
 全てを呑み込む闇から逃げるかのように。己の姿を示すがために。
 星々の光は、存在を伝えるためのメッセージなのかもしれない。

 それ程に、空の黒は濃く… 闇は深い…




 その日は確か、曇りでありながら星の見える、矛盾した空だった。

「隊長っ! こっちです!」
「どういう状況なの?」
「それが、申し上げにくいのですが…」
「………何? これは、どういうこと…?」
「我々にもいったい何がどうなっているのか…」
「あの少年がこれを…?」
「え、えぇ。信じ難いことですが」

「ねぇ、君」
「………」
「これは…この人数を全て君1人でやったの?」
「だったら…?」
「自分がいったい何をしたか解かってるの…?」
「さぁね」
「キサマ! 殺しなどして許されるとでも思ってるのか?!!」
「まぁ、落ち着いて。…ねぇ、君。本当に君が?」
「やってない。そういや、逃がしてくれるのか?」
「不思議な瞳をしているのね…」
「何が言いたい? 軍人さん」
「…あたしの名前はミーティア。最近近郊で起きた連続強盗殺人犯を追ってここにきたの」
「へぇ、ご苦労様。よかったな、早く見つかって。手間省けじゃねぇか」
「随分軽いわね」
「あんたに何が判る? 馴れ馴れしく口利かないでもらえるか」
「それは失礼。では、君を殺人容疑で逮捕します」
「拒否権はあるのか?」
「ないわ」
「どうしても、俺を捕まえるか?」
「幾ら犯人グループだからって、殺人行為が許されると思って?」
「ここスラムじゃ当たり前だぜ? 温室育ちにゃ、わかんねぇわな」
「キサマ! 侮辱するか!?」
「侮辱? 気にいらないね、今の発言。自分等が偉いとでも勘違いしてんじゃねぇの? 政府に首繋がれたワンちゃんが」
「舐めるなぁ!!」
「やめなさい!!」
「…へっ…随分と立派な隊長さんだな」
「立派? 言葉を返すわ。君みたいな薄汚いお子様が、あたしを評価するつもり?」
「罵ればいいさ。汚くて結構だ」
「血が見れて嬉しかったかしら。それとも、目当ては盗品? どちらにせよ、君にとっては最高の獲物になったわね」
「じゃあ聞くが、あんたの命は、メセタとどっちが重い?」
「何を?」
「ここの摂理だ。生きたければ、命を捨てて金を得よ…」
「………」
「狂ってると思うか? …そうさ、狂ってるよ。これが当たり前なんだよ。あんた達もそうだろう? 戦争で何人殺してきた?」
「一緒にしないでほしいわね」
「どこが違うってんだ? 何の為の戦争だよ? 傲慢な野郎の我侭を満たそうとするのが戦争だろう?」
「極論かしら? 人々を守ることもあたし達の使命よ」
「許されるのか、それで。そんなことで…」
「何を説きたいの?」
「俺も妹を守るためにやった」
「どこからそんな言い訳が?」
「だから一緒だろうよ? あんた達と」
「傲慢は君のほうでしょう」
「どうやったら解放されるってんだ? いったいどれだけの命の上に立てばいい?!」
「殺しでしかモノを語れないの?」
「…俺はあと何回、こいつの涙を見ればいい?」
「え? ……そのニューマンの女の子が、君の妹…?」
「これ以外に、俺に何が出来るってんだ?」
「君…」
「こいつは…妹は関係ねぇ! こいつだけは見逃してやってくれ! 頼む!!」
「いったい…どこまで本気なの…?」
「全てだ! メセタにだって、命にだって、何にだって誓ってやる! 誓って言える!」
「………じゃあ、顔を上げて。君には、星が見える? 満天に輝く星々が…」
「星…?」
「君自身、何処へ往き、何処へ往くのか…星々は決して、裏切らない…」




 夜を照らす光のネオン。
 鮮やかに。彩り豊かに。黒く染まりかけた街を、世界を、一心に輝かせている。
 その光をたどり、人々が集まる。
 それぞれの想いを抱え、それが闇に呑み込まれてしまわないようにと、光の差す方へと足を動かす。
 パイオニア2居住区。
 宇宙に停滞するこの移民船において、人々が今を夜だと認識するのは青空の映像が映されていないからだ。
 空を仰げば、隔膜越しに広がる真空の空間。
 しかし絶佳の星天も、ネオンには敵わず、人々の興味の対象となることは少ない。
 そんないつもとかわらぬ夜、摩天楼の一角で煌く星々を眺める闇がいた。
 それは人と呼べるようなものでもなく、全身が黒く。
 その姿は異様にして狂気。
 暗黒とは、このようなものなのであろうか。
 光さえ呑み込んでしまいそうな印象を受ける。
 やがて星々に別れを告げたのか、禍々しい黒を纏ったそれは、その身を闇夜に委ね跳躍した。
 漆黒のマントを靡かせながら、ビルの谷間へと落下していく。
 人工的な重力が闇に更なる加速をつけ、地上までの距離を確実に詰める。
 数百メートルにも及ぶ高さからの落下。地面に叩きつけられれば最後、原形も留めぬだろう。
 だが闇は、空中で二転三転身を捻ると、地上よりも高い場所にある少しばかり突き出たビル壁へとその身を定めた。それでも即死の域にあることは変わりない。
 間もなく激突。
 重力加速によって付加された大質量。衝撃が船そのものを揺さぶる……はずであった。闇は何事もなかったかのようにそこへ着地し、更にあろうことか、重力に逆らい再び遥か高くへと跳躍した。
 それは跳躍などという言葉では当てはまらないのかもしれない。
 空を舞うように。大空に翔ける鳥のように。
 地上の光のさえ届かないほど高く、天を、星を目指す。
 闇であるが場所へと還らんと、黒く暗く広がる夜という空間へその身を溶かしてゆく。
 そして闇は、闇の中へと姿を消した。

 闇の存在に気付いたものは、誰一人となく。
 やがては夜空に、狂気の叫びと慟哭が響いた。




 室内は驚くほどに清楚だった。
 高層ビルの一室。装飾されたその部屋は、いかにも高貴な者達が集いそうな場所だ。
 ミイニもそれなりの地位に就いているが、このように豪華な部屋を見るのは始めてである。僅かながら、緊張で身体が固くなっているのが自分でも解かる。
 しかし、それもおかしな話であった。
 
 政府高官襲撃事件――昨夜起こった大事件である。
 昨夜未明、第1地区の当ビルにおいて、秘密裏に行われていた政府高官達の会議を、何者かが襲撃した。
 被傷者数は7人。勿論その中には高官達も含まれる。幸いに死者はない。
 不可解にも、高層70メートルを超えるこの一室に、犯人はあろうことか窓から侵入してきたという。
 以前に、秘密裏の会議の情報を何処から掴んできたものなのか…疑問が尽きない。
 ミイニは今その現場にいた。

 ミイニ=レーク。若干20歳にして、軍部屈指の戦力を誇る6番大隊参謀の地位を持つ軍中尉だ。
 身長171cmと女性にしては長身であり、発達した身体は抜群のラインを描いている。
 男性ならば、誰でも一度は目に留める程の容姿でありながら、本人は御洒落や化粧には全く興味がないらしく、長く伸びた黒髪をゴムで束ねただけのポニーテールが彼女のトレードマークとなっていた。
 そして今回、高官襲撃という未曾有の事件を受け、治安部である11番隊の応援として、軍内部でも有数の電子能力を持つミイニが借り出されていた。

 ここに来る前に、事件に関しての一通りの報告書には目を通している。
 謎多き事件であることは認識していたが、実際に現場を見て更に困惑することとなった。
 事件が起きて半日も経っていないのにも関わらず、それらしき痕跡がどこにも見当たらないのだ。
 既に軍の治安部が足を踏み入れているとはいえ、それにしても片付き過ぎている。
 人が居た気配はあるものの、豪華な一室に特別な変化はない。
 挙げるならば、点々と散った血痕と、不自然に口を開けた窓ガラスくらいだろう。それも、床に散らばったはずの破片はきれいに片付けられている。
 もはや、惨劇の残滓はどこにも見当たらない。

「協力感謝。予想超えた難事件なものでな…」
「あ、いえ」
「それでどうじゃ? 一見しての感想は」
 マハジャの問いかけに、ミイニは首を振った。
「こういった事件に関して素人の私がみてもわかります。閑散過ぎる…」
 率直な感想。だがそれは、マハジャがここを見たときのそれと一致していた。
 暴れた痕どころか、目立った傷痕すら見当たらないその部屋…
 いったいここで何が起こったのか。報告を聞いたあとにも関わらず、想像すらつかない。それ程に自然で何気な景色がそこにあった。
「昨夜この場所で、高官殿等による極秘裏とも言える会談を何者かが襲撃。護衛のハンターズを昏倒させ、後に折檻を加えた。防護ガラスの破損によるセキュリティシステム作動により駆けつけた当ビル警備の者達じゃったが、到着時既に犯人の姿は無かったとある」
「折檻?」
「うむ。高官殿等は皆、生爪を剥ぎ取られ、大腿部に浅い裂傷があった」
「爪を…?」
 今まで生きてきた中で爪が剥げるような経験はないが、想像だけでも鳥肌が立つ。
「爪もそうじゃが、裂傷箇所も非常に痛みを感じる部位じゃ。この程度の傷で該者が命を失うことはなかろうが、嘗て似ない苦痛感覚じゃろう。意識を失うことも許されまい」
 マハジャの説明を聞き、更に顔の体温が下がった。
「それで…その犯人は70階に位置するここに窓から侵入し、高官達を襲ったと…」
 ミイニは恐る恐る割れた窓のもとへ近寄り、外を覗いた。絶佳が広がり、周りには視界の妨げとなるような建物は存在しない。遥か地上には米粒程の人の姿が見える。
 この高さの部屋に窓から侵入したなどと考、常識的には考えられるものではない。
 無意識のうち、表情でそれを語っていた。
「現場や詳言、報告だけでは信じられぬのも解かるが…」
 そういうとマハジャは、1枚のディスクを袖口から取り出し、ミイニに差し出した。
「手の付け所も解からぬ。すれば、ひとつずつ解決していく他あるまい」
「そのディスクは?」
「此処のセキュリティシステムのログじゃ。我々では行き届かぬ細部を、中尉の能力を持ってして何かしら掴めぬものかの」
「了解しました。期待に添うことが出来るかどうかはわかりませんが、やってみます」
 ミイニはディスクを受け取ると、常時持ち歩いている端末へセットし、指を走らせた。
 画面に表示されたビルのセキュリティ情報を、ひとつひとつ丁寧に目を通す。
 防犯装置、防災システム、監視カメラの位置…ありとあらゆるシステムの詳細部を、とてつもない速さで開示、処理していく。
 噂には耳にしていたものの、実際にミイニの能力を目の当たりにしたマハジャも驚きの眼差しを向けていた。
 やがて十数分が経った後、ミイニは顔を上げた。
「セキュリティレベルは物理的・電子的にも非常に高い水準にあります。あらゆる事態に対しても、即座に対応できるだけのシステムが備わっているようです」
 画面から目を離した状態でキーを叩きながら、尚も続ける。
「事件の発生した時間及びその前後に、システムダウン及びクラッシュ、ハッキング等が行われていた形跡もありません。つまり事件当時もセキュリティシステムは完全に機能していたことになります」
「ふむ…」
「こちらの部屋に関してですが、出入り口は扉だけ。窓は防護ガラス。その他の天井裏、ダクトなどの非行路もありません。カメラやマイク等、部屋の内部を監視するような設置は見当たりません。室内のセキュリティには若干の不備も感じられますが、意図的でしょう。しかし、窓の外にはカメラにモーションセンサー。廊下にも同じくその設備があります。外部からの闖入は困難かと思われます」
 複数人で小1時間掛かった解析を、僅かな時間、それも1人でやってみせた。
 しかし、ここまでは鑑識班から上がってきた報告となんら変わりはない。問題はそこから先である。口を止め端末を操作するミイニを、マハジャを期待の眼差しで見詰めていた。
 それに対し、ミイニは残念そうに首を振った。
「襲撃の時間帯、カメラやセンサー等あらゆる装置に闖入者の存在を認めるものはありませんね…。どうやってここへ侵入したのか、まるで解かりません…」
「左様か…」
 彼女の能力を持ってしてもやはり結果は同じかと、マハジャは少し肩を落とす。
 その様子に、ミイニは申し訳なさそうに頭を下げ、視線を窓へと向けた。
「本当に窓の外から侵入したのでしょうか? それすら疑問です。目の届く範囲に、このビルに達する程の高層ビルはありませんし。ここよりも高層階からロープ等原始的な手段を使った形跡もありませんし…」
「ガラスは外から割られていた。加え、被害を受けた高官やハンターズからの証言もある。嘘とも思えぬ」
「最も手段の限られる空からの侵入…。でもここまでの設備がありながら何も手掛かりが掴めないとなると、とても不可解です…」
 電子機器の扱いに関しては、少なからず自信はある。情報システム・演算システム、様々なコンピュータシステムに対しての知識や腕前は、解析班以上のスキルを持っているだろう。
 セキュリティに不備は見当たらない。
 それを持ってしても、情報を得ることは出来なかった。ログから抽出したデータの参照は完璧といえる。それですら足跡さえ掴ませない犯人は、現在のコンピュータを凌ぐ程の能力を持っているというのか。
 ありえない…あらゆるシステムを熟知したミイニでも、このような芸当は不可能に近い。
 小さなため息を吐くミイニに、傍らのマハジャは更にもう一枚新しいディスクを取り出した。
「追を掛けるようで申し訳ないが…」
「それは?」
「残留フォトンの結果じゃ」
 ディスクを受け取るなり、手早く中身を開く。
 それを見るなり、ミイニの表情は更に濃くなった。
「残留フォトン値1200 …。どういうことですか、この数値は…?」
「この部屋に滞留する総フォトン粒子量が、有ろうことか大型転送装置に使用される総量と違わぬ値を示した。ここでそれだけのフォトンが使用されておる」
「待ってください。これの調査時間を見る限り、事件から8時間が経過してます。その時の数値がこれだと?!」
「実際はそれの倍以上のフォトンがここ使用されておるのじゃろうな」
「それ程のエネルギーがこの場で使用されながら、乱闘どころか物ひとつ動いた様子すらないこの状況です。以前に、このような大質量のエネルギーの発生を感知できないようなシステムでもありません!」
「故に有り得ぬのじゃ」
 半永久機関=フォトン。近年発見された未知のエネルギーは、それまで主流であった『電気』以上の汎用性と可能性を秘めていた。
 未だ完全に解明されたエネルギーではないがひとつとして、フォトンを発生させればそれだけのフォトン粒子が空気中に残留し、時間と共に霧消するという性質を持っている。
 今では転送から電燈、はたまた武器に至るまで、多種多様の利便に富んだフォトンのこの性質は、またこのような事件において重要な手掛かりになる。
 しかし今回の件においては、余計な混乱を招くこととなっていた。
 数値から推測される使用されたエネルギーは、小さなビル程度の明かりを制御するだけの容量に達する。
 言い換えて、パイオニアクラスの宇宙船の艦砲に使用されるフォトン総量にさえ匹敵する程である。
 いくら万能のフォトンと言えども、そのような大質量のエネルギーを一室の空間で放出されたのであれば、只事には治まらない。
 ありえない結果が2人の目の前にある。
「侵入方法に残留フォトンに、まるで解からないことが多過ぎる…。この事件はいったい…」
 手掛かりは、残留フォトンの数値のみ…
 しかし、これでは足りない。だが、まずはこれの解明からしていかなければならないのだろう。一室という限定された空間で、使用できる数値ではないのだから。
 それで果たして、犯人の足が掴めるだろうか…
 やってもいないことから結果論に結びつけるのは愚かなことではあるが、これで手掛かりになるとはミイニには到底思えなかった。
 これほど大量のエネルギーが使用されたというのに、それを計器が異常を感知できないわけがない。
 考えれば考えるほどに、混迷の淵へと沈んでいく。
 全てが桁外れの事象に、頭を捻る他ない。
「フォトンを外部的エネルギーとして用いたわけではないのかもしれぬ」
「それはどういう意味ですか?」
「共通の有無は判らぬが…過去にも一度、似たことがあった」
「えっ?」
 険しい顔のミイニの後ろで、マハジャが思い出したかのように呟いた。
 それは記憶にも新しい、第4地区の電力が全てダウンした事件のこと…
 とある反政府組織との抗争時ということもあり、その組織が行ったと言われてはいるが、実際のところ原因は一切不明。組織のアジトであった場所で、異常なまでの残留フォトンが確認されたがそれ以上のことは何も判らず、事件は迷宮入りの状態にある。
「彼の件も、残留フォトンは有らぬ数値を示した。しかし、複数の死者と電子機器の損傷以外に目立った被害はなかった。件は組織が何らかの事を起こしたとされてはいるが…」
 マハジャはそこで口を止め、割れた窓から外を見詰めた。
 何を思っているのか…。不思議そうにミイニも、そちらへと視線を向ける。
 静寂な時が訪れ、船内という密閉された空間でありながら、窓から入り込んだ風が、彼女等の髪を微かに揺らした。
 マハジャは瞳を閉じ何かを黙考した後、再びミイニへと向き直った。
「…中尉。手段は問わぬ。どうすれば器機の目を掻い潜り、この窓から闖入可能か?」
「手段は問わないと言われましても…」
 極端な発言に困った顔を返すミイニだったが、すぐさま端末のキーを叩き始めた。
 流れる手付きで、あらゆる経路と可能性を計算していく。
 そして、結果は待たずに出た。
 ミイニは軽く息を吐き端末から手を離すと、上目遣いにマハジャを見詰めた。
「どの様な結果でもよい。一縷の可能性で構わぬ」
「はい、それでは…」
 端末が返す答えを口に出す。
「要は、カメラやセンサーに感知されなければ問題ないはずです。高度な光学迷彩ステルスであれば、あるいはこの監視を掻い潜れることができるかもしれません。問題の侵入経路になりますが…周りに同等の高さのビルが存在しない以上、飛行車両か何かを使用してここまで達した可能性が高いかと思われます。勿論それにも同様の光学迷彩ステルスが必要ですが…」
「つまりは、視覚さえ盗めれば良いということか?」
「それだけで考えれば、空路は最もセキュリティに甘い行路であるのかもしれません。しかし、完璧なステルスを施した車両等、我々軍部でさえも保持しているかどうかは…」
「構わぬよ。防護ガラスはどうじゃ?」
「強度は高い水準にありますが、決して破れないものでもありません。ハンターズのワーカークラスでも、コツさえ掴めばそれも容易かと…」
 そう言い終えると、ミイニは何かに気付いたように、ハッと顔を上げた。
「護衛に従事していたとされるハンターズは…?」
「ワーカーとあったな」
「その彼等が犯行を行ったという可能性は?」
 高官達の傍で護衛を務めていたハンターズ。報告では彼等は犯人である者に、一撃で気絶させられたという。高い戦闘能力を持つ手馴れ達を一瞬で沈黙させる程の戦闘力。マスターからハイ・マスターに近い戦闘能力が予想されよう。それ程の者が、何人乗船していようか…
 逆に護衛のハンターズ達が犯行を起こしたと説明したほうが遥かに納得がいく。
 しかし、マハジャはそれを否定した。
「ガラスは確かに、外部から破られておったよ」
「予め仕掛けを設けていれば、それも可能です」
「それだけではない…」
 マハジャは首を横に振ると、遠くへと焦点を向けた。
「高官、ハンターズ含め、皆が口を合わせ言う。闇が現れた、と…」
「闇?」
 不信にミイニは首を傾げた。
「我にも解せぬよ。じゃが、皆に植えつけられたあの恐怖、偽りはなかろう…」
 襲われた者達の今の様態のことまでミイニは知らない。
 恐怖とは、闇とはなんなのか…
 暗雲に覆われた謎は、いっこうに晴れる気配はない。



続きへ  草書