Shade&Star(戒めの刀)





 蒼い空と緑の風と透き通った水。
 どこまでも静かに、どこまでも清らかに。

「やっぱりここか…」
「遅いよ。レディは待たせないのが君のポリシーじゃなかったの?」
「そんなこと言った覚えはないな。それで、今日は俺に何の用だ?」
「話たいことがあってね。ほら、座って座って」

「でも、君もよくここにくるよね?」
「あんたがいつも呼びつけるんでしょうが…」
「そうだっけ?」
「しかし、いいのか? 一部隊の隊長が、ならくれ者とつるんでて。問題になってしらねぇぞ」
「大丈夫。この場所を知ってるのは、君くらいなもんでしょうから」
「べつに嬉しくねぇが…」
「照れちゃって。…でも、いつの間にか、君とこうやって過ごす時間を当たり前に思うようになってきた」
「軍部の人間が、スラムの犯罪者とつるんで…今のは問題発言だろう」
「でも本当の事よ。やっぱり私の目に狂いはなかったわね」
「何のことを言ってるのかわからねぇが、きっと勘違いだ」
「はいはい」
「…それで、話ってのはなんだ?」
「うふふふ…よくぞ聞いてくれました。実は…あたしね、軍を辞めて結婚するの」
「は?! 何の話だ、そりゃ」
「だから、結婚するのよ。あたしはこれから全うな女性として生きていくのよ! お腹にはもう子供がいるんだ…! すごいでしょ?!」
「……いつの間にそんなことに…」
「何よその反応は。もっと驚くなりなんなりしてよ」
「い、いや、十分驚きだ…。貰い手がいたのか…」
「どういう意味かな〜? それは…」
「俺をからかってんじゃないのか?」
「失礼よね。あたし、憧れたのよ、家庭ってやつに…」
「相手はどちらのかたで?」
「政府支局の研究者よ。2歳年下」
「………」
「ちょっと! どうしてここは黙りなの? 全く君は……。でも、これで平和に暮らせる…」
「……『死神』の名も晴れるか…?」
「もううんざり…。目の前で自分を慕ってくる部下達が死んでいく姿を見るのは……。 あたしの存在が、いくつの不幸を招いたんだろう…もしかしたらこのエンブレムも、隊長としての責からの言い逃れの理由にしかならないのかもしれない…」
「何言ってる…。あんたのせいで、仲間が死んだと…本気で思ってるのか?」
「君から振ってきたんじゃない」
「呆気ねぇよ、命ってのは。死ぬときゃ死ぬもんだ…」
「…そういう言い方ってないでしょう!」
「事実を述べてるだけだ。そう思えるほど、死が身近にある。軍隊なんてのも、同じようなものだと思ってた」
「…違うわ」
「規律も統率も、生き残るための術なのかもしれないが…俺にはわからない。規則や法則や秩序で命が守れるなんて思わないし、信じることもないだろう」
「戦争の殺しと、ここの殺しとはわけが違う…」
「人殺しの理由はどうであれ、命の重さは同じじゃねぇのか?」
「君からそんな言葉が聞けるとは思わなかったわ。随分な偽善ね」
「あんたも同じだろう。部下を殺したのが自分だと思い込んで…悲劇のヒロイン気取りか?」
「なんですって! その言葉お返しするわ。君こそ生い立ちを理由に、悲劇と思い込んでるんじゃないの?」
「何僻んでる。結婚は栄えあることだと思う。でも、背負えよ! 自分が部下を殺したって、それが勘違いでも、自分に納得がいくまで筋通せよ! 死んでいった者の分まで幸せになれよ! 結婚ってのは単なる現実からの逃避じゃねぇだろ?」
「言うわね…」
「あんたから教わったことだ。俺の強さは刀に縋っただけの偽りだった…」
「…君? その刀、まさか…」
「あれ以来、一度も抜いてねぇよ。殺しも傷害もやっちゃいない。力はなくても、生きていけるだけで…それだけでいい」
「強くなったのかな?」
「いや…まだ重くて抜けないだけさ」
「いつかは、抜ける日がくるのかしら?」
「星を…このエンブレムを、守り抜くことができりゃあな」
「……ありがと」

「俺ゃ行くよ」
「君に、説教されるとは思ってなかったな」
「…俺は、あんたの教えを信じただけだ」
「あたしは、そんなに格好良くないわ」
「いいや…。おっと、言い忘れてた。ご結婚、おめでとうございます。ミーティアさん」




 眼下には悲惨な光景。
 死んだ人間という一言で表せるものではない。
 それは人の形を成していなかった。
 千切られた四肢。
 首のない身体。
 血色の肉塊。
 悲愴な表情を残した顔だけの人体。
 4つの死体とも思えぬ成れの果てが一帯に散らばっていた。
 バルバスは自分の着ていた軍服の上着をそっと掛ける。
「何があったと言うのだ、この場所で…」
 未だ熱を失いきっていない血液…
 見たこともない死体の山に、半ば呆然と佇む。

 セントラルドームを中心に広がる森地帯。
『地表で起こった事態の現状を調査せよ』
 緊急でありながら何も的を得ない調査の指令を受けたバルバス以下20番隊の姿がそこにあった。
 先程メリーに潰された機械の瞳の換装を終え、直ちに降り立った地表にてバルバス達を真先に出迎えたのは噎せ返る血の匂いだった。
 センサーなどでなく長年の経験から死の匂いを感じ取ったバルバスは、副隊長のメリーをはじめ部下達を待機させたまま、単独で調査に当たっていた。
 決して安全とは言えない地表での単独行動はある意味自殺にも近い行為であるが、それを行使できるのは、隊長の立場と、何より一騎当千を実現にする戦闘力を持っているからこそである。
「メリーを連れてこなくて正解だったか」
 この惨殺現場を見せれるわけもない。
 感情を持った人が見れば、誰しも不快以上の感を覚えるだろう。
 それはアンドロイドであるバルバス自身にも言えることであった。
 計器に乱れはないが、どこか澱みを感じる。
 人がいう吐き気とは、このようなものなのか。
 奇妙な感覚に負われながらも、バルバスは死体のもとに屈み込み、観察をはじめた。
 装備から察するにハンターズだろう。4人組であることが更なる確証を裏付ける。
 個々に高い戦闘能力を有するハンターズ。仮に最低ランクであるビギナーレベルの者達であれ、馬鹿にできるものではない。この者達がどれほどの実力者だったのかまでは判らないが、有らぬ全滅を如いている。
 加えてこの森地帯には、これ程までの死体を作りあげることの出来るような固体生物は存在しないはずだ。
 幾度もこの地でエネミーを退治してきたバルバスだったが、そのような生物は知らない。
 奇々怪々なこの光景をどう分析すべきか…
「3、4ヶ月程前に、同じような事件があったか…」
 メモリから過去に似たような事件があったことを思い出す。
 任務により洞窟へ向かった22番隊の一小隊が壊滅。
 見つかった死体は、人の原型を留めていなかったという。
 その現場で新たに発見された特異なアルタードビーストは、ハンターズによって倒されている。
 目の前の光景からも検証すれば状況に共通点はある。
 腰を上げ、辺りに気を巡らせる。
 物音はなく、優しい風が機械の肌を撫でた。
「何がいるのか、この森に」
 呻くような呟き。
 そこに、耳につけた通信機がバルバスを呼んだ。
 回線を開くと、明るいメリーの声が聞こえてきた。
『隊長! ご苦労様。どういう状況ですか?』
「指令の意に反して重大だ。ハンターズ4名の亡骸を確認した」
 歯に衣を被せることもなく、抑揚なく伝える。
 一瞬困惑を口にするメリーだったが、すぐにその声音は低くなった。
『それって、どういうこと?』
「恐らくエネミーの仕業だろうが…」
 さすがのバルバスでも、このような死体は作れない。
 エネミーと推測するのは、その理由からだ。
 人がやったと考えるには無理がありすぎる。
「今までに確認されてきた種とは明らかに違い、強大な戦闘力を持っていると予測される。警戒を怠るな」
『まだ近隣に生息してるってことですか?!』
「ハンターズ達が撃退及び撃破したとは考え難い」
『だったら隊長が一番危険じゃない! 早く帰隊してください』
「心得ている」
 そういって隊のもとへ戻ろうと足を進めた時だった。
 感じ取ったのは微かな空気の乱れ。
「やはり、何かいたようだ…」
 独り言のように呟くと、バルバスは背後へと状態を戻した。
 視覚から捉られるものはない。
 だが、確かに感じる。何かの気配がそこにある。
『ちょっと隊長! 大丈夫なの? 早く戻ってきて!』
「お前達はそこで待機していろ」
 通信機越しに訴えるメリーの声を切ると、バルバスは背中の武器へゆっくりと手を伸ばした。
 何がいるのかまでは判らない。
 しかし、大気が振動している。その何かと自分との距離が短くなっていっていることがハッキリと感じ取れる。
 対して一寸の乱れもなく、何が起ころうとも瞬時に対処できるよう、針の如く感覚を研ぎ澄ませる。その感覚とは、決してセンサーのことだけを示しているものではない。
 百戦錬磨のバルバスは、機械以上の感覚を身に付けていた。
 一点の茂みを凝視する。
「出て来い」
 サーモセンサーが感知した熱源は人型。しかし、必ずしも相手に言葉が通じるかどうかはわからない。
「ほぅ、軍部か」
 茂みの奥からは言葉が返ってくる。察するにハンターズだろうか。武器に掛けていた手をそっと引く。
「事態だけに、さすがに対応も早いとみえる」
 やがて姿を現した者は、深紅に染まった装甲のアンドロイドだった。
 瞳に焼き付く紅は、まるで炎の如く。それを更に印象つけるのは、その頭部にあった。曲を描いたマスクのようなフレームが風に靡くように後ろに向かって流れている。正しく炎を模した規格外のヘッドパーツ。よく見れば全身に至っても同じような箇所が見当たる。
 背中に突き出て見えるものは大剣。剣までも主人と同じく燃え盛る炎のような形状をしている。肩には鬼の面のようなマグの姿…。
 深紅のアンドロイドが歩いた跡に残るは、全てを焼き払う地獄炎。それはまるでこの星までも灰にしてしまうかのように…。
 あるはずのない錯覚に、バルバスは意識を奪われていた。
「1人か。群とはぐれたか? それともキサマがイレイザー(始末係)とでも言うのか…」
 相手の声に、ようやく我を取り戻す。
「軍部20番隊バルバスだ。何か知った様子だな。何者だ? ここで何が起きた?」
 自分を名乗り、同じく問い返す。
「ククク…。道化か無知か…どちらにしろ、オレには関係ないことだ」
 返ってきたのは違う言葉。
 意味に理解できず、バルバスは瞳を細めた。
「なかなかの芸術品だ。悪くない」
 深紅のアンドロイドは散らばった死体を見て、狂喜にも似た笑い声を上げる。
 正気ではない。以前にいったい何者なのか。
 アンドロイドが発する気配は、ハンターズのものとは根本から掛け離れた危険なオーラ。
 正体の知れぬアンドロイドに警戒を強める。
 だが、そのバルバスの目の前で、アンドロイドは思いもよらぬ行動にでた。
 背中の大剣を引き抜くと、それを死体に向けて振り下ろした。
 大地を烈破させる豪撃。
 アンドロイドの剣は、形を保っていた肢体を見事に切り裂いていた。
「貴様、何をしている?」
 非道と言える行為にバルバスが叫ぶ。
 アンドロイドはそれに感慨なく答えた。
「見てわからんか? 火葬だ」
 そう言った瞬間、死体を裂いた剣が紅く染まり、炎を吐き出した。
 今度は錯覚でも幻でもない。剣が纏う真紅に色付く炎は業火。
 瞬く間に、人の亡骸を灰へと変えていく。
「何のつもりだ?」
「無能で無力なカス共を、わざわざこのオレが弔ってやっているんだ。光栄だろう」
 そう言っている間にも、アンドロイドは既に2つ目の死体に火をつけていた。
「よせ!」
 このアンドロイドに何の権限があるのか?
 このような非道非情な行為が許されるわけもない。
 鋼の心臓が熱を帯びる。
 その衝動に任せ、バルバスは再び背中の大剣に手を掛けた。
「それ以上は赦さん」
 バルバスの声を聞き、アンドロイドが振り返る。
「赦さんとは…どういう意味だ?」
 威圧感…。アンドロイドの言葉には、それ以上に殺気のような迫力が込められていた。
 しかし、それに臆することはない。
「何様のつもりだ。その者達に手を出すな」
「その者達だと? この肉ダルマのことを言っているのか?」
 まるで嘲笑するように、3つ目の死体に剣を振り下す。
 だがそれは寸前で、バルバスの剣によって弾かれた。
「オレの邪魔をする気か?」
「手を出すなと言っている。忠告ではない。警告だ」
 険悪なムードが流れる。
 剣を構えるバルバスと、向き直ったアンドロイドの視線が交錯する。
 重く沈んだその空気が、時計の針までも鈍くする。
 その均衡を解くように、深紅のアンドロイドは高々と笑い声を上げた。
「ククク…。やる気か、このオレと」
 ゆったりと炎の剣を構え、バルバスへとその刃先を向けた。
「威勢のいい奴は嫌いじゃない。だが、力のないムシケラほどよく吠えるものだ!」
 打ち込みのタイミングは同時だった。
 ぶつかり合う斬撃。互いの剣から火花が弾ける。
「ほぅ? 反応するだけでなく、受け止めるか。なるほど、ムシケラではないらしい」
 喜ぶように喉を鳴らすと、深紅のアンドロイドが半歩踏み込んだ。
「むっ…!!」
 突然、叩き伏せるような重力が、剣を通じてバルバスの身体に圧し掛かった。
 堪えてみせるバルバスだが、その圧力は尋常ではない。
 今まで体感したことのない圧倒的な力が、彼を潰そうと襲い掛かる。
 機械の豪腕。用途、性能の様々なアンドロイドの中でも、バルバスの腕力が決して劣っているわけではない。むしろ戦闘用として自らを特化させた身体は、作業目的のアンドロイドのそれよりも勝っている。
 そのバルバスが力比べで苦を強いられている。
 各駆動部が悲鳴を上げているのがわかる。このままでは押し込まれるのも時間の問題であろう。
 相手の剣に揺らめく炎の先に、悠然とした雰囲気を放つ深紅のアンドロイド。
 これだけの力を込めながら、尚も余裕があるというのか。
 では、この不利な状況をどう打破するか…
「ヴァルキリー・バースト…」
 実刃とフォトン刃を両極に持った大剣=ヴァルキリーが、バルバスの声に呼応した。
 曲面から噴射されるように蒼いフォトンが出現する。
 やがてフォトンは奔流するように実刃部に絡みつき、剣そのものを大きく包み込んだ。
「なんだ、その剣は?」
「退け」
 蒼く輝く刃身が一層光を増す。
 膨大に集積されたフォトンがバルバスの合図と共に、そのエネルギーを一気に解放された。ヴァルキリーを中心に起こった蒼い爆発が2人を呑み込む。
「ちぃ!」
 だがそのフォトンの爆発をも、猛烈な火炎が吹き飛ばした。
 炎を纏う剣身が爆塵の中から現れ、空間に灼熱の紅を色付ける。
 熱風が辺りの草木を焼き払い、蒼はたちまち紅と変化した。
 だが、蒼は再び紅を突き破り、表に現れる。
「ヴァルキリー・レイド…!」
 粉塵の中から飛び出したバルバスが、フォトンによって剣の姿を成したヴァルキリーを敵の脳天目掛けて振り下ろした。
 先程の訓練の時とも更に比にならぬ質量を得た一撃。それに対抗するべく、相手も深く腰を落とし、必殺の切り上げを放つ。
 再びぶつかり合う剣と剣。
 しかし今度は完全に上を取ったバルバスのほうに利がある。
 このまま叩き伏せるべく、更に力を込めた。
 だがその時、微かに感じた右腕の違和感。僅かに攻撃の手が緩くなる。
(なんだ?)
 深紅のアンドロイドはその一瞬の隙を逃さなかった。
「どうした、終わりか?」
 尚も余裕と見せ付けるように嘲笑する。
「灰となるがいい!!」
 超高熱の炎が、一層激しく剣を取り巻いた。
 どれくらいの温度なのだろうか。熱により歪んだ空間の先に見える深紅のアンドロイドの姿は、その形を留めていない。
 装甲が熱くなっていくのが解かる。機械の身体だからこそ耐えうる熱波だろう。
 人であれば皮膚は焼け爛れ、血液までも沸騰しているかもしれない。
「止もうえん…」
 灼熱に堪らずバルバスは身を引いた。
 あのまま打ち合っていれば、只では済まなかっただろう。
 フォトンで刀身を包んでいなければ、ヴァルキリーも溶かされていたかもしれない。
 だが、完全に戦線を離脱させてくれるほど、相手は甘くなかった。
 間を与えることなく間合いを詰めた深紅のアンドロイドは、再びバルバスに紅蓮の剣を振り下ろす。
「くっ…!」
 すかさずヴァルキリーを振るう。
 その時、バルバスに異変が起こった。
 バチッという音が聞こえたかと思うと、剣を握っていた右腕の肘から下が爆発により吹き飛んだ。
 力の支えを失ったヴァルキリーが、あらぬ方向へと飛んでいき、遥か後方で地面に刺さる。武器を失い、完全な無防備状態。
 だが、幸いにもその爆発が不意打ちとなり、相手の視覚を遮る結果となっていた。
 剣を引いたアンドロイドも後方へと距離を取る。
「なんだ? オーバーヒートでも起こしたか?」
 困惑を素直に口に出した。
 だが、現状に困惑しているのはバルバスも同じだった。
 先程感じた違和感はこれのことだったのだろう。
 右腕にいったい何が起きたのか。
 深紅のアンドロイドとの戦闘で、負傷を負ったわけではない。
 そうなれば、すぐに目星はついた。
「サイか…。面倒な傷を残してくれる…」
 任務の前のサイとの決闘において、右腕に受けた傷。
 かすり傷と思い見落としていた。実際それほど小さく、チェックにもセーフレベルの傷としてしか認知していなかったものだ。
 だが、その状態のまま腕を酷使した結果が、この破損なのだろう。
 サイの実力は知っている。これはサイに対する抜かりになるのだろうか。
 右腕と剣を失い、目の前には現状の把握を終えた深紅のアンドロイドがいる。
 最悪の展開となった。
 只でさえ苦戦を強いていた相手に、この状態で何が出来るだろうか…
 全ての条件、状況を洗い出し、即座に計算で可能性を割り出していく。
 しかし、予想通りに計算は無駄に終わった。
 バルバスのAIが返した結論は、勝利も逃避も成功率は5%にも満たない。
「絶対絶命だな、おい」
 深紅のアンドロイドがバルバスを代弁した。
「しかし、非道を働いた貴様を、赦すわけにもいかんな」
 力強く相手を見詰める。
 決して挫けない光がそこにある。
 状態は暫し膠着した。
 そして、先に目を逸らしたのは相手の方だった。
「何のつもりだ?」
「興醒めだ。邪魔が入った」
「邪魔だと?」
 自分の背後に視線を注ぐアンドロイドに不信を抱きながらも、後を振り返る。
 そこには、フォトンアローを構えたメリーの姿があった。
「メリー?!」
「隊長、下がって!」
 矢は青白く輝いている。バータ系のテクニックを封じ込めているのだろう。
 その先を深紅のアンドロイドの眉間に定めている。
 少しでも不審な動きをすれば射る。そういった気配を放っている。
 それに気圧されたかのように、深紅のアンドロイドは構えを解いた。
「女に手を出すつもりはない。キサマとの戦いが愉しめればいいだけだ」 
 そういうとバルバスに背中を向け、そして剣を一薙ぎに振った。
 灼熱波が残っていた死体に火をつけた。
 タンパク質の燃える匂いが辺りに漂い始める。
「貴様…!」
「負け犬が吠えるな。力が無くして、正義を語れるなどと思うなよ」
 剣の炎を払うと、そのまま背中に戻す。
「とはいえ、なかなかいい動きをしていた。少しばかり興味が湧いたぞ。バルバスと言ったな、また相手をしてやる…ククク」
 嘲笑と同時に、アンドロイドを足元にリング状のフォトンが現れた。
「待て! 何者だ。ここでいったい何があった?」
「オレの名はグレン。後始末を任された」
「後始末だと?」
「そうだ。冒涜者のな」
 言い残し、グレンはフォトンのリングの中に消えた。
 暫し呆然と、何かを思案するように立ち尽くすバルバスに、弓をたたんだメリーが駆け寄ってくる。
「助かった。メリー」
「隊長、無事なの?!」
「あぁ、問題ない。右腕を破損しただけだ」
「だけだ、って大事じゃない! 今のヒューキャストにやられたの?」
「そういうわけではないが…。しかし、借りは返さねばならんだろう」
「何者、あの奇妙なヒューキャストは。それにこの匂いは…?」
 メリーが火のついた塊を見詰める。
 彼女には炎に包まれたそれが、人間の亡骸であるという判断はできなかった。
 しかし、どこか不快そうに顔を顰める。
「やつが<灼熱インフェルノ>のグレン…? 只事ではなさそうだ。一荒れありそうだな…」
 バルバスは小さく呟くと、大空を仰ぐ。
 その瞳は、一面に広がる青の向こうの母船へと向けられていた。




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