Shade&Star(流星の誓い)



 漆黒。闇夜を彩る星々に、我を示さんとばかり祈りを捧げる。
 万物平等に照らす星たちは、幾つもの希望を与えたのであろう。
 美しく、優しく…人々は無限に輝く星達に、今日も無限の願いを託す。
 天に昇る言霊は、やがては星たちへと辿り着くのだろうか。
 無限に広がる闇の空間で、迷うことなく輝きを放つ星の元へと辿り着くことができるだろうか。
 だが、星々からは見えない。
 宇宙という無限の空間で、ひっそりと生きる生命たち。
 彼等の想いの大きさまでは量ることはできない。
 暗黒の空間で小さく… 不安を取り払ってくれるものを探しながら。
 ならば、人々は暗黒を払うは光を求める。
 全てを呑み込む闇の恐怖から逃げるかのように。己を示して欲しいがために。
 今日も祈りと願いを捧げる。

 それ程に星々の光は暖かく、輝きは美しい…




 噎せ返る死臭が、臭覚を穿つ。
 それでも、あの人の香水の匂いだけは確かに鼻に届いて…

「馬鹿な…何が起こってる?」
「あ、おい君! ここは危険だ。早く避難したまえ!!」
「何なんだ…ここだけは守らなきゃいけなかったのに、俺はいったい何してる…?」
「おい! 聞いてるのか?!」
「…ミーティア…さん?」
「君、聞こえないのか?! 危険だ。早く離れるんだ!」
「どけよ! あの人が中にいるんだ! ……俺だ、サイだ! 返事してくれ!」

「ミーティアさん! どこにいる?! 生きてるんでしょうが!」
「……サイ…君…」
「ミーティアさん! よかった…無事か?」
「あ、あぁ…」
「しっかりしろ! 晴れ姿、拝みにきたぜ!」
「助けて…あの人を止めて……お願い…」
「酷い怪我だ。ちょっと我慢してくれ。外には救急車両が来てる。すぐに運び出すから」
「サイ君…待って」
「――!! ちょ、なんだっての? 大丈夫、落ち着けよ。ほら、手ぇ放してくれ」
「できないの…」
「何を言って…? …なっ、天井が! 危ねぇ!!」

「痛っ……怪我はねぇか? …クソッ! 瓦礫に足が挟まって…! あ、おい! 何してる! その傷で何する気だ? …って、なんだあのバケモノは…。あいつがやったってのか…?」
「セフィ…」
「…セフィちゃん? そうだ、セフィちゃんは?! ……最悪だ。なんであんなところに…」
「やめて、あなた……」
「クソがっ! ミーティアさん、そこの銃でヤツを撃て! ヤツはセフィちゃんに気付いてる! 早くしないと殺されちまう!!」
「嫌…できないの…」
「何いってんだ?! 弱気になってる場合じゃないでしょうが! 隊長だったんだろう?」
「…できないの。あの人を殺すなんてできないの…。お願いサイ君、あの人を止めて…」
「また命を守れずにあなたは泣く気か? 部下のためにも、生まれ変わるんじゃねぇのかよ?!」
「…違うの。できなのよぉ!!」
「なんでだよ? 早くしろよ! お子さんが、セフィちゃんが危ねぇ!」
「やめてあなた!」
「あなた? 旦那さんがどこにいるってん……まさか、あのバケモノのこと言ってんのか…?」
「撃てないの…。あたしにはできない!!」
「…あのバケモノが、ミーティアさんの? そんなことがあるのかよ……?」
「セフィ!」
「だ、だめだ! 間に合わねぇ! 早く撃て! 撃てよ!!」
「あなた! 元に戻って! セフィを助けて…!」
「ミーティアさん、撃てよ! クッソ…ふざけんな…俺はこんな時に! こんな時になんで地面に這い蹲ってんだ…! この刀で守るんだろうが! どうして抜けないんだよっ!!」
「いやぁぁぁぁああ!!!!!」




「ここは……」
 気がつけば、白いベッドの上に横たわっていた。
 花の香りが鼻を撫でる。心地よい香りだ。
 しかし、何という花なのかはまではわからない。
 嫌な夢を見たような気がする。
 いや…奥底の記憶の引き出しを開けただけだろうか。
「目覚めかの…」
 近くで聞いたことのある声がした。
 そのちらに顔を向ける。その動きは弱々しい。
「マハジャ…」
 近くの椅子に優雅に腰掛け、腕を組んだ状態のマハジャの姿あった。
「主も随分と気の利かぬやつじゃ。つい今し方までメリー殿がおったのじゃがな」
「メリーが…?」
 そういえば以前、2人で街に出かけた時に、花やその花言葉について色々と聞かされた覚えがある。
 今枕元の花瓶に飾られている花は、確かクロッカスだったか…
 どういう意味の花だったのかまでは、さすがに覚えていなかった。
 と、らしくもなく花に見とれていた意識を我に戻す。
 ベットから状態を持ち上げようと腹部に力を入れた。
「痛っ…」
 しかし、腹部の激痛によってそれを制止される。
「動かぬほうがよかろう」
 マハジャの言葉で、ようやく自分の身に起きた事を思い出した。
 あの夜、シャフトと戦ったサイは、その爪によって腹部を貫かれていた。
「命あったのが不思議な程じゃ。レーク中尉に感謝されよ…」
「ミイニちゃんに?」
「何故かは存じぬが、お主を助けてくれと訴えかけたのは中尉じゃ」
「そうなのか…?」
 サイも思考を巡らせるが、思い当たる節はなかった。
「俺ゃどのくらい寝てた?」
「2日じゃな」
「…情けねぇもんだな」
 気弱になった自分がいる。
 あの時に見た闇は、自分の中に封印していた心の闇でもあったのか。
 あの時に見た闇の正体は、自分のよく知る人物であった。
 頭で理解は出来ていても、それを認めることができない。
 天井を見詰める。
 白の一色が、無表情にサイの視線に答えた。
 慈も非も感じられないその色は、今の空虚な心にとっては丁度良い。
「病んでおるな…」
「わかるかい?」
 マハジャがどこか心配そうに視線を向ける。サイはそれに肩を竦ませた。
「…シャフト、か…」
「そこまで割れてんのか…」
「高官の1人が吐いた」
「でも、お前がここにいるってことは、まだ捕まえてねぇみたいね…」
「我とて主のことは心配しておるよ」
 マハジャは窓から遠くの緑を見詰めた。
 美しく、逞しく、そこで暮らす動植物たちの姿がある。
 癒しと安らぎ…
 最も、全てはスクリーンに映し出された映像に過ぎない。
「お主程の者でも、止めることはできなんだか」
「笑ってくれていいぜ」
「強がるな。相手が悪かったの。…やはり、忌わしの記憶か」
「…そんなんじゃ、ねぇよ…」
 語尾に行くにつれて、その言葉は小さくなっていった。
「襟懐では己を責めておるのじゃろう」
「………」
「あの時、主が奴を殺めておらねば、更なる被害は免れなんだ」
 鮮明に、脳裏に焼き付いて放れない場景がある。
 かつてこの手で、手にした白刃で、闇の凶鬼と呼ばれた生命の命を奪った。
 街の、多くの人々の、英雄となった。
 しかし、たった1人のための英雄にはなれなかった。
「解かってるさ。あれでよかった。あの時の俺には、ああするしかなかった…」
 布団の中で、力強く拳を握る。
「でもよ、悔しいんだ! あと、もう少し、もう少しだけ早ければ…」
「驕りじゃ。選択肢はなかった。主だけに申しておるわけではない。仮に我等が間に合っていたとしても、異なる結果があったと思うか?」
「俺は白刃を突き立てた。でもよ、本当は別の方法があったのかもしれない…!」
「何時まで痕曳くつもりじゃ?! 主がそれでは、本星のミーティア殿に申し訳が立たぬと思わぬか!?」
 ミーティアという名前に、サイは口を噤んだ。
「…主は、そのように弱き男ではなかろう?」
 一変して、物哀しげな表情をサイに向ける。
 その瞳は哀愁にも満ちていた。
 訴えるようなその顔から、思わず目を背ける。
 マハジャはため息をひとつつくと、腰を上げ出口である方へゆっくりと歩き出した。
「一刻も早く傷を癒せよ」
「…おい、マハジャ」
 サイの制止に素直に足を止め、無言でそちらに振り返る。
「何も聞かなくていいのか? 事件のこと…。犯人の姿を見たのは俺しかいねぇんだろ? お前はそれを聞き出すために、ここにいたんじゃねぇのか?」
「何か申したいことがあるのか?」
「………」
 逆に言葉を窮した。
 自分は事件の犯人を見ている。そして、その者を知っていた。
 しかし、だからこそ言い出せない。
 その者は、自分にとって掛け替えのない存在であるのだから…
 それ以上に…
「俺にはまだまだ刀を持つ資格はねぇのかもしれない…」
「慙愧か…?」
「守りたいものを守れない。何もかもを斬っていくだけ。刀身はいつも、血の色だ…」
「曇りありて斬ること叶わず…。幾度か主に聞かされた言葉じゃ。主には何か別に斬りたいものがあったのか」
「結局人殺ししかできねぇのか…。俺の守るってのは、いったいどういうことなんだろうな…」
「…本質に彷徨うでない…」
「じゃあお前は、大切に想う人を躊躇わず傷つけれるか?」
「どういうことじゃ?」
 大切なものを守るため、自分は刀を抜く。
 交わした約束を果たすため、刀を振るう。
 しかし、それは本当だろうか。
 サイの視線は遠くに向けられていた。
 妹の顔が頭に浮かぶ。
 それは、血のつながった兄妹ではない。
 サイはヒューマンであるが、妹はニューマンという種族。
 しかし、それでも揺るがない絆がある。
 孤児の2人で暗黒を彷徨い歩いた幼少の記憶。
 片時も離れることはなく、妹は何時もどんな時でも笑顔で自分を励ましてくれた。
 生きることに疲れ果てた自分を、幾度となく救ってくれた。
 弱い立場にありながら、自分よりも強く、逞しく、生き抜こうとする勇気を持っていた。あの優しい笑顔は決して忘れない。
 ならば、今の自分はどうなのだ。
 刀に妹に、そしてあの人に縋り、今は1人で立っているのだろうか。
 自問自答を繰り返し、そして今は妹の無事を祈るばかりか。
 無力だ…
 シャフトを装らなければいけない何かがあったのだろう。
 その彼女の力にさえなってやれない。
 今はベッドの上で己を見詰めなおし、ただ無力に妹を信じることしかできないのか。




 薄明かり。
 部屋の中心に、端末の画面と睨めっこする女性の姿があった。
 3日前、連夜に亘って起こった政府高官襲撃事件。
 全くの足を残さずに犯行を行った犯人の所在は、当然のように未だ掴めず、無駄に時間だけが過ぎていた。
 どのような目的で、どのような経緯を辿って事件を起こしたのか。
 『自然』と言える、不自然な現場を残す犯人。余りに見事な芸当に、関心さえも抱く。
 何者なのか…?
 その必ず突き当たる疑問の迷路で、微かに射した光があった。
 理性を失った高官が呟いた、聞き覚えのない言葉。
 『闇の凶鬼=シャフト』………
 本星コーラルにて、パイオニア2が惑星ラグオルに飛び立つ以前に起こったとされる、人民100余名が犠牲になった大規模なバイオハザード。
 発生元凶は軍部ラボとされ、その生物兵器の名は『シャフト』
 元体は不明。容姿は人型だが、四つん這いであったことから、猿科の霊長類だったと予想される。
 禍々しく黒光りする身体は、闇よりも深い漆黒。異常な長さに突き出た腕は多関節に亘り、指先には鋭い針のような爪。そしてその怪腕は移動と殺戮に使用された。
 顔面は、人の顔の皮を剥ぎ取ったような、はたまた髑髏にも似た様相だったとある。
 単体にて、悲劇を撒き散らしたその怪物は、当時まだ軍属でもなかったサイが撃破していた。
 と、シークレットとして扱われていた情報を高官の一言とマハジャから聞いた証言を元に、軍部のメインコンピュータに潜り込んだミイニは、そこまでのデータを入手していた。
「こんな事件があっただなんて…」
 惨劇に眉を顰めながらも、新たに揃った資料を手元にミイニは独自で再び事件の推考を立てていく。
 恐怖に震えた高官の言葉一言一句思い出す。
『…復讐にきたんだ…!』
 復讐とはどういうことだろう…?
 彼等政府高官が、シャフト開発に携わっていたのか。
 ミイニはすぐさまキーに指を走らせた。
 今回襲撃にあった高官は4名…
 その者達とバイオハザードとの繋がりを洗っていく。
「ちょっと深いところまで入り込むことになるけれど…」
 これまでのデータは、浅い階層で手に入れたものだ。
 しかしこれらはあくまで体裁的なものでしかない。
 真実を知りたければ、もっと深い場所へ潜るしかない。
 ミイニは再び指を動かし始める。
 目指すはコンピュータの深層部。
 幾多に及ぶパスワードを全て破錠し、張り巡らされたファイヤーウォールを抜け、手際よく且着実に真実への扉へと近づいていく。
 コンピュータをマスターしたミイニならでは芸当だ。
 しかし、流石に軍部のメインコンピュータだけあり、セキュリティも一筋縄ではない。
 一歩ずつ着実に前に進んでいっているものの、油断は禁物だ。
 決して失敗は許されない。
 足跡(ログ)でも残そうものならば、たちまちハッキングはバレ、自分の元へと辿り着くだろう。そうなれば、正真正銘首が飛ぶ。
 冷静に確実に。
 彼女の指は休むことなく、動き続ける。

 それも間もなく決着がつく。

「…見つけた」
 データを急いで自分の端末に落とし、足跡を残さないよう速やかに脱出に掛かる。
 このデータに何が記されているのか。パンドラの箱とでも言うべきか。
 焦燥に駆られながらも、正確にログアウトを成功させ、改めてデータと向き合う。
 緊張で額と掌に汗をかいているのがわかる。
 しかし勇気を持って、奥底に幽閉されていた記憶を今ここに開いた。

「これは…なに…?」
 データの中身に、ミイニの動きが止まった。
 それは期待と不安を、全て呑み込む悪心。
 この事実はなんなのか。
 これが真実ならば、彼の事件は必然だったのではないか…
 根底を揺さぶる記述。
「シャフトの元体は…人間…?」
 そこには闇の凶鬼の正体と、それらを繋ぐ存在の姿。
 襲われた4人を含む高官の名。研究施設の名。
 そして…目を放したくとも放せないそれは…
 英雄を喰らい、脅威を晒した闇淵の神を示す
 “”の文字…

「“”を使って、何をやろうとしていたの…?」
 酷い悪寒に身を竦め。
 禁忌だったのかもしれない。
 真実から、またひとつの闇が生まれ…

 事件の先は未だ見えない……




 茶けた大地に、天井は球を描くドーム型。
 空間は広く、植物等は何もない。
 その荒涼としたこの地に、圧迫感を与える巨大な影。
 爪は岩を裂き、翼は爆風を生み出し、尾は地面を抉り、牙の生えた口から火炎を吐き出す。
 ドラゴン。
 猛々たる獣の逆瞼の下に光る眼光。それは、剥き出しの闘争本能をそのままに代弁している。

 大口を開き、朱色に染まる口内。吐き出される人の頭よりも大きな炎。
 飛来する炎球が襲うは、小さな人影。
 直撃すればバラバラに。掠っただけでも、その熱と衝撃により死は免れまい。

 だがしかし、小さな対峙者は悠然と立つ。
 手にした巨大な得物。突き出す直と曲を具えた鉄塊。
 一見して剣。しかし、対称に直と曲を具えたそれは、鉄塊と呼ぶほうが相応しく思える。
 やがて迫り来る朱色に、鉄塊は真っ向から衝突した。
 質量対質量。
 巨大な炎球を打ち返すつもりだったのか。巨大な炎球を前に、誰の目にも無謀と思える行為。
 勝敗は容易く、一瞬で決まった。
 予想する者がいたのであれば、それは完全に裏切られた結果だろう。
 砕け散り、霧散霧消していく朱色の粉。それらの存在をも許さんと、朱色はたちまち蒼色を宿した鉄塊に呑み掻き消された。
「ヴァルキリー・ストライク…!」
 蒼が形成するは、鉄塊を芯とした巨大な突撃槍。
 それを脇下に固定すると、大地を深く蹴り込み、残像を残しながら蒼が奔る。
 捉えたのは獣の足。蒼い水平の線が、空気を裂き、空間を貫く。
 間もなく足元から血しぶきが上がり、けたたましい悲鳴と共にドラゴンの巨躯が横転した。
 間髪は置かれない。
「ヴァルキリー・レイド…!」
 鉄塊を覆う蒼が形成するは、剣。
 不恰好な鉄塊は蒼色を得て、初めて完全な剣へと形成された。
 そして蒼剣は強大な質量を付加され、ドラゴンの頭部へと叩き下ろされた。
 皮を。肉を。骨を。脳を。
 全てを一繋ぎに一閃。
 脳漿をぶちまけて、 頭部を破壊されたドラゴンはやがて果てた。

「167秒か…」
 小さく呟き、ゆっくりと剣を背中へ戻す。
 蒼はいつの間にか消えており、剣は鉄塊へと戻っていた。
 その足下では、無残に散ったドラゴンの死骸が光に包まれ、青緑のキューブ型に分解されたかと思うと、それもまた光となって昇天した。
 それに合わせ、ドーム内壁、地面、飛び散った獣の血液も光となって消え、後には灰一色の無機質な空間が現れる。
 見上げても、そこには窮屈な天井が存在しているだけだった。

 VR――訓練室に設けられたヴァーチャルシュミレーションルーム。
 コンピュータにより仮想空間を作り出し、制御の下、原体に限りなく近い状態の有体を映し出す。
 完成された架空世界は、実戦と同じ状況下での訓練を可能にしている。
 先程バルバスが沈めたドラゴンも、ヴァーチャルによって作り出されたものだった。

「慣れるまで、暫く時間を要するな…」
 バルバスは己の右腕を見詰める。
 換装されたばかりの腕が、彼に輝いて見せた。

 3日前。
 緊急の任務により降下した地表で発見したものは、ハンターズと思われる者達の無残な死体だった。
 それは人為的なものではない。
 人と区別がつかなくなるほどの、あまりに無茶苦茶な。
 そして、そこに現れたグレンと名乗る炎のアンドロイド。
 奇妙な死体については、過去にも同じような報告があった。
 軍部の分隊が地表の洞窟に派遣され、未知のエネミーに懺滅を負った事件。
 その時は2人組のハンターズが退けたという。

 そして、アンドロイド、<灼熱インフェルノ>のグレン…
 近年になって陰で名を聞くようになってきた、獄炎の剣を携えた深紅のハンターズ。
 詳細不詳。神出鬼没にして、請負う依頼は全て惨滅等の生命を殺めるものばかりであり、そしてその実力は、ハイ・マスタークラスに達しているという。
 現にバルバスも右腕を奪われている。 

 これらは過去の事件との関係が、関連があるのだろうか…

 グレンの放った謎めいた発言をメモリーから取り出す。
『事態だけに、対応も早いとみえる』
『イレイザー(始末係)とでも言うのか…』
『後始末を任された』
 思考に掛かる不可解な言葉。
 どういう意味だろうか。あの者は事件の何を知っているのだろう。
 事態・イレイザー・後始末…
 憶測、推測に過ぎないが、バルバスに向けて放った言葉は称して軍部のことを指していたように思える。
「この軍部内でも、何か起こっているのか…」
 ふと、思考回路に割って入ってくる高官襲撃事件。
 二夜連続に亘って起きた、これもまた不可解な事件だ。
 犯人は未だ発見されておらず。
 目撃者は皆無。唯一の目撃者とされる高官等も、精神的ショック、及び機密事項保持の為か、面会できない状態にある。
 船内と船外で2つの衝撃。
 単なる偶然だろうか…

 不意にバルバスの通信機が鳴った。
 回線を開くと、ホロモニタに隊員の顔が映し出される。
『隊長ッ! また例の死体が上がってきましたっ!』
 隊員の慌てた声に、バルバスはゆっくりと頷いた。
「すぐにいく」
 回線を切り、部屋の出口に向かう。
 解決に向かう手掛かりは掴めるだろうか…
 その時ふと、背中に違和感を覚えた。
 得物を引き抜く。主人の命によってしか起動しないはずのヴァルキリーの刀身が、薄っすらと蒼いフォトンを帯びていた。
 付き合いは長いが、今までにこのような現象は一度たりとも例がない。
「…何か知っているのか? ヴァルキリー…」
 バルバスの問いかけに、ヴァルキリーは答えることなく静かに光を落とした。
 暫く刀身を見詰めるバルバスだったが、再び背中に戻し歩き出す。
「無限の廻廊はない。帰納させよう。背負った業と供に…」
 強い決心を抱いて。




続きへ  草書