はしがき

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2004年03月17日(水)14時48分
孤独と共存を天秤にかけて

 しばらく沈黙の後、工藤は口を開いた。
 それは他愛もない戯言の塊だったけれど、俺にはしっかりとそれを受け止めることができた。 きちんと話をする事よりも、ただ一緒に居て話を聞いてやることが、相手にとって助けになることの方が多い。 何より工藤の抱える問題は一枚岩でも、一筋縄でもない。複雑に絡み合った毛糸球だ。
 世の中は絶対に予定調和で進んでいる。工藤がその予定の中に組み込まれていないだけ。 俺は相談されている者特有の余裕を持って、相づちを機械的に繰り返す。
 戯言の後は、女と続けていく事の不安を愚痴り始める。
 もう酒瓶は空だ。肴はいらないよ工藤くん。
 たまに思いついたことを反論してやると、面白いように工藤は喋りだす。 想いを発することで、自分に言い聞かせながら崩れかけた己を組み立てなおす作業。 もう永遠4時間、工藤は俺に相談する前の形に戻りつつある。つまり、何も変わってない。
 いくら工藤の毛糸球は解けようが無かろうと、俺が紡いでいく人生に何の問題も無い。 それを伝えてやれない俺のお人良しさと残酷さを忘れるためにも、そろそろ寝なければなるまい。
 話が一段落下ところで俺が帰ることを告げると、
「村井、聞いてくれてありがとな。やっぱいい奴だなお前」
と、礼を言われた。
 話をできるなら誰でもいいくせに。と心で捻くれながら、俺でいいならいつでも呼べよと返事する。
 工藤の家から出ると、白み始めた空が目に痛い。 どんな悩み抱えてたって朝は来る。何も変わらない。変わるわけが無い。 工藤に俺が必要だったなんて自意識過剰もいいところ。 朝が来ないかもと脅えるくらいに、この世界は無意味なことだらけのはずだ。
 そのはずなんだ。
 軽い目眩を覚えながら俺は、始発までの時間をどう過ごすかを考えるために頭を使う。 他に何も考えたくなかった。

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2004年03月10日(水)19時14分
それでも、信じた道しかないから

「どこにでもある正義」
 戦争アニメが僕に教えてくれた皮肉。僕達の現実では、正義ゆえの戦い、そして復讐の連鎖は止まることを知らない。
 真実はいつも、一つとは限らない。
 無常のこの世の中で、正義という言葉はとても儚く、脆い。 だから信じることや物差しの基準は、一つだけというのは危険だと思う。
 けれども、僕らが持ちえる「正しい」標識は、それほど多くないみたいで、 相反する二つの気持ちがあると、僕らは耐えがたく苦しくなるようだ。
 どうして正義は一つでなければならないのだろう?
 どうして邪悪は悪になったのだろう?

 地球は、何本もの毛糸を丸めて出来たもので、 簡単にはほどけない。
 きっといつか、世界を「自分たち」と「それ以外」に分けることしか出来ない僕らの未熟さを、 正せるときが来るのだろうか。
 そもそも、正すことは本当に「正しい」のだろうか。
 世界の真相を暴くことが、この毛糸球をほどく事だとしたら、 全てほどいた時に、一体何が待っているのだろうか。

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2004年03月03日(水)14時50分
心の隙間が空いています

 僕は、挟まれて生きている。
 満員電車に乗っているとき。皆で談笑してるとき。 仕事への行き帰り。親と将来について話すとき。 目に見えない何かが僕を押しつぶそうとしている。 僕は小さくなってやり過ごそうとするけど、息苦しくてたまらなくなる。
 最近まで僕は、周りの人たちが僕を押しつぶそうとしているのだと思っていた。
 期待、役割、その他大勢、公共のもの。
 そういった外圧めいたものが、僕を小さい人間にしているのだと。

 だったら今、一人で風船みたいに膨らんでしまった僕に説明をつけれない。 ひょっとすると、僕自身が小さくなったり、大きくなったりしていたのではないのか。 分からない。判らない。頭が理解を拒否している。

 僕は挟まれて生きている。
 この世界と、僕自身の間で。

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2004年02月25日(水)22時24分
片想い

「私のこと好き?」
 そうやって貴女は、一つの確信と、私の核心に触れようとするのだ。
 単純な言葉ほど、肝心な時には強い。
 毎日のように自分の言葉を捜しながらも、内から発せられる渾身の言葉には敵うべくもなく、 私は打ちのめされてばかりいる。
「君の嫌なところも含めて、全部好きだよ」
「……恋は盲目ね」
「それでもいい、見えなくても君の欠けらをつかんでいるつもりだし」
「嘘かもしれないよ?」
「だまされるのも嫌いじゃないな」
 本当は、君の全てを知り尽くすことは望んでいない。飽きるから。 一緒にいることに何かしらの発見を求めたがるのは、まだ若いというべきなのだろう。 だからこそ私は、全てを君に見せていない。そういう気でいる。
「私の、性格も好きなの?」
「好きじゃなけりゃ、一緒にいるのは辛いしね」
 そう言いながらも私は、君には治してもらいたいところが幾つもある。 それは君にしても同様だろう。 それに加えて私は、私を治して欲しいとも願っている。
 単純な言葉とは、言葉の裏に何もない。 ただ表面と深層が繋がった言葉だ。
「好き。ずっと一緒に居たい」
 それが虚心から産まれるようになるまでは、私は君を離さない。

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2004年02月19日(木)16時05分
薄闇の中で消えゆく定め

 近ごろ嫌な夢ばかり見る。
 親父に罵られる夢。親友に蔑まれる夢。嫌味な自分が現われる夢。
 これらがバラバラならばただ小さな悪夢で事は済んだのであろう。 だが3日続けてともなると話は違ってくる。
 夢などすぐ忘れてしまう私が、嫌な後味とともにしっかりと内容を覚えている。 その事実に脅えている。

 親父から電話があった。彼はいつも通りで変わったところは無かった。
 親友にメールをしてみた。文面から推し測れる彼女はきちんと大阪旅行を楽しんでいるようであり、 私を蔑んでいるようには思えなかった。
 全て私の夢の中の話なのだから、現実の彼らに変化があるはずは無い。 しかし、この胸に広がっている不信感は止めようがない。
 いったい、どうしたというのであろうか。
 いまや思い出せるのは、灰黒い夢の中の雰囲気と、刃のような夢の中の彼らの剣呑さだけである。
 夢に現われた嫌味な自分が、私自身をあざ笑っている。

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2004年02月07日(土)13時21分
牙の無い狼、牙を持った羊

 喜怒哀楽。人間の感情を表す上で、その根幹をなす気持ち。
 その場面によってあふれ出るであろう感情が出てこないということは、一般的な人と感性が違うか、 感情が欠落しているかのどちらかだ。

 怒るべきときに怒れないというのは、争いを避けてきた私なりの性質。 今私は「怒」に囚われるべきであり、またそうしたいとも想っているはずだが。
 完全に怒りに身を任せられないのは、過去の過ちゆえに臆病になっているのだろうか。
 大切なものが奪われようとしているときに、怒らずにいることは人間らしいと言えるのだろうか。
 静かに冷めている私の気持ちを弄びつつ、さらに音も無く崩壊が忍び寄る。
 年を経るごとに少しずつ人間的な感情を失っているような気がして、私はただ「やばいかなぁ」 などと他人事のように振舞っている。
 ただ大きな大きな哀しみへの予感だけが、私を取り巻いているような気がしてならない。

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2004年02月01日(日)14時12分
僕の言葉と君への気持ち

 自分が思っていた以上に、周りの人から我慢されているということを知った時は、 空気から圧殺されるような気持ちになるものだ。
 自分だけが完璧だとか思っていたわけじゃないけれど、 心のどこかでそうあろうと思っていたことは否定できない。 けれど本当に「より良く」あろうとしているのなら、 それを口に出すべきではないと僕は思う。
 理由はいくつかあるけれど、口に出せるうちは決心しておらず、自分に言い聞かせている節があるし、 口に出すことで気持ちが口から出て行ってしまうような気がするんだ。
 それは「好き嫌い」とか「面白さ」とかそういう気持ちを人に伝える時も同様で、 伝えると自分の中で薄れていってしまう気持ちもある。
 共有したくない、僕だけの気持ち。

 でも、思っているだけでは伝わらないんだよね何事も。

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2004年01月26日(月)00時18分
これからの君のために

 俺が頭動かしているのと同様に周りの人間だって何かしら考えてるわけだから、 そう期待しているから、頼むから失望させないでくれ。そんな言葉を口走るなんて、お前はどうかしている。
「俺の代わりに幸せにしてやってくれ」
 そう言いたかったんだろう? 下手な文章で覆い隠そうとしたって、そのくらいなら俺にも解かるよ。

 まったく、負け犬がなに言ってやがる。人の女に横恋慕した挙句がその台詞。 もうちょっと自分を大切にしてくれ。そんなに安く見られたいのか。ちょっとは黙ってられないのかよ。 頼むから、もうこれ以上はやめてくれ。
 昔の俺を見ているみたいで、辛いんだから。

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2004年01月18日(日)20時13分
ある会話

 うん、君の言いたいことは解かる。どうしても気持ちを伝えずにはいられなかった。そうだろ?  僕もそんな気持ちになったことがあるよ。だからそのときの失敗を教えよう。聞いて笑ってくれればいい。
 僕はある時、人間関係でどうしょうも無く腹がたってね。原因となった男に言ってやったんだ。思いの丈をぶつけてやったんだ。 それでどうなったと思う? すっきりしたかと言われれば、その時はちっとも気持ちは晴れなかった。 なんせ僕が何か言ったところで物事は解決しちゃくれないし、よけい事態を悪化させるばっかりだったんだ。
 実はね、時間が経って解かったことなんだが、僕が悪態をついた男ね、彼はこの問題については決して悪くなかったんだ。 いや、もっと正確に言うと、だれも悪く無かったし、皆が原因を抱えていたのさ。僕の怒ったことはまったくの筋違いだった。 とんだ道化だね。僕は自分の気持ちを伝える事だけしか考えてなかったんだ。それで満足していた。いや、満足すら出来なかった。

 どうだい、ちっとも面白くなかったかな? そうだろうね。なにせこれは君にもありえることだからね。 気をつけたほうがいい。相手の気持ちばかりを優先して、自分の言いたいことを言えなくなるのは馬鹿なことだけれど、 言われた方の気持ちも少しは考えてみるべきだ。それで相手の気持ちにたっても自分の気持ちの方が強いなら、それはそれでいいのさ。  どうだい、もう少しだけ考えてみてくれないか。

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2004年01月10日(土)17時33分
世界の鼓動が止まる前に

 ものにはすべて一定の波がある。流れとも呼ばれるし、波動とも、テンポやリズムとも呼ばれる。 それらは波長という上下運動があり、その調子が乱れるとき、物事は次第におかしな方向に流れ出す。
 自分の体のことは一定の変動の中でなら対応もできるが、その波長のふれ幅が大きくなりすぎると、 生物の体は変調をきたす。例えば鼓動が乱れれば下手をすると死んでしまうし、気分が沈みすぎるのは感情のふれ幅が下に行き過ぎているからだろう。
 社会的なものにもこの波は存在する。試合や世論などには流れというものがあるし、流行などという言葉はまさに読んで字のごとくであろう。 それらはまさに人が作り出したものであり、人を作り出すものであるから当然のことなのかもしれない。
 勘の鈍い人間でなければ、すでにかなり前からこの社会の流れというものの調子が悪いことは気がついているはずである。 波が変調をきたしていれば、我々一人一人が皆で治さなければならない。
 だがいったい、何をするべきなのだろう? 病院などはないのだろうか?  途方にくれるばかりである。

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2003年12月28日(日)03時09分
日常に非ず。

 毎年ごとに繰りかえされる思考実験。今年を振りかえり来年を待ち望むこの時期。 街に出れば誰も彼もが忙しなく動いているように見える。その速さたるや当社比1.2倍。
 年が明ければまるで年末の訓示など消えてしまったかのように、いつもの暮らしという縛りに戻るのだろう。 しめ縄を置くくせに、締まらない気持ちでいる。何だか面白い。ウキウキする年末祭り。

 今年最後の、来年最初の祭りが始まろうとしている。ただ酒が飲める。俺にはそれだけだ。
 どうせなんにも変わらないんだから。

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2003年12月22日(月)14時27分
戒め

 諦めたような気持ちで認めなければならない。気持ちを伝えるのに大切なのは言葉じゃなくて中身だということ。 だけど最後のさいご、本当に肝心な場面で必要なのはこの不完全な音であり、記号なのだということも理解している。
 どうして僕は自分の使う言葉を完全なものにしようとしているのだろう。日曜大工で使うためにプロの工具を捜し求めるようなもので、 それはまったくもって手段でしかないのに。
 どれだけ安っぽくとも、どれだけボロがあっても、目の前の人を振えさせれるのならばそれで良い。 そのために必要なのはただ一つ、曲がっていようが真っ直ぐだろうがそれはただ純粋な強さをもった心、 人格だということを僕は忘れてはならない。

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2003年12月18日(木)16時13分
奮い立つ

 命をかけて闘っていると声高に、自分だけが一生懸命だと息巻くように。 誰かに認めてもらいたいってのは俺にも解かることだけど、少し待て。
 前線豚どもだけが、秘密戦隊だけが、西部警察だけが命はってる訳じゃない。 命なんてものは、だいたいの人間が常に賭け札としてテーブルに置いている。 他者に誇るに足りうるとは到底思えないよ。

 命「なんて」と言ったが、不服かね? だがはっきりと言おう、生命ってのは賭け札としては何の価値も無い。 当たり前にみんな持っているからだ。魂を欲しがるのは古来より悪魔だけで、君が対峙しているものは一体何か?

 誰もが闘っているんだ、このカジノで。己の儚いカードに全てを賭けて。 皆に命をかけていることを誇るのも、皆に闘っていることを誇るのも愚かしい。
 己を揺さぶり立たせるものは何だ? 立ち上がる君を支える力はどこから来るのだ? 君の切り札、ジョーカーはその山札に詰まれている。それは間違いない。
 そう、それが根拠のない確信だとしてもだ。

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2003年12月15日(月)01時32分
代償

 自信というものがある。何かと重宝される言葉だ。 だが何事も程々が一番といわれる通り、自信を持ちすぎるということはろくなことではない。
 自信は肥大化して、エゴと呼ばれるものに変わる。

 この世の中に絶対の自信というものが必要なのは、格闘家とか、兵士とか、 自分だけを信じ目の前の相手を打ち倒す人たちだけ。
 自分を最低だと思いつづけるよりは、そんな根拠の無い自信があったほうが良いのかもしれない。
 けれど、それは人を踏み殺してまで必要なものなのか。
 僕は解からないでいる。

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2003年12月09日(火)02時32分
墓に入れ

 どうして何度も何度も何度も何度も何度も同じことの繰り返しなのだろう。 思えば俺が成功した例なんて無い。そうだ、ただの一度も無いのだ。 いつも失敗ばかりで栄光は誰かがかっさらっている。一体誰だ。運命ってやつなら俺にはそんなものは無い。 どうやって失敗したのか覚えてないから、明日もまた同じことの繰り返しなんだ。
 ぐるぐると同じ場所、同じ地域、同じ県、同じ町で過ごして、ぐるぐる回る変な球体の上で生きているからって、 俺の人生まで同じ所の堂々巡りは勘弁して欲しい。どうせ回るなら、俺の頭の回転もついでに戻してくれないもんか。 いや、お前なんかにいちいち教えて貰うこともないか。俺、空回りするのだけは上手いんだ。
 同じ場所で回りつづけて、やがて血も肉体を巡るのをやめ、変わらぬこの地でくたばって墓に入る。 輪廻ってもんもこの分だと本当にありそうだな。いらないものばかり増えやがる。 遠心力ってやつはどこに行ったんだ。あれだ。あれさえあれば、この回転する球体から、全て吹っ飛ばされて綺麗さっぱり。いいじゃないか。 俺に引かれる奴なんていないし、この星に未練のあるものなんて一つもない。だから飛べるはずだ。たしか鳥よりも速く。

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2003年12月03日(水)03時07分
特別な存在、友というもの。

 何気なく友人に言われた言葉というのがずっとずっと引っかかっている事が良くある。 それは往々にして私自身を評価なり表すなりした言葉で、それらは本当に何気ない会話の中から産まれたものであった。
 だが私はそれからずっとその言葉たちに付きまとわれているし、付きまとっている。
 誰かに評価されたいという点においては、実は周りの誰よりもその欲求が強いのが私である。 そこへ来て今回、私を一言で表すのは難しいといわれた。それは当たり前のようでいて、少し珍しい事かもしれない。
 私は今、優越感に浸っている。それこそがまさに、私の望んでいたことだからだ。
 そして私はただ君を、「面白い奴」だとしか思わない。

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2003年11月29日(土)18時29分
夜の帳の隙間から

 何かが足りないと感じるのは己の行いゆえだと、判っているようで解かっていない。 湧き上がる自らの疑問に対して、テキトウな答えを見つけて思考を止め、自分を封印している。 真実はそんな浅いところにはなく、また難解なものでもない。 自分への嫌悪感や存在への疑問は、もっと深くて混沌とした「自分」からの警告なのだろう。 全て自分の行いゆえではないとしても、警告には確かに意味がある。

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2003年11月24日(月)15時03分
解放記念日、もしくはある愛の歌

 どうして何も言ってくれないのか。どうしてそんな顔をするのか。 何も言わなくても解かり合えることが大切だなんて、 そんなこと言っても君はただ、言葉を発して自分が傷つくことを避けたいだけなのだろう。
「私の内側にはどす黒いものがあるのよ、それを見せたくないの」
 だったらずっと黙っていればいいのに、どうしてそんなに誇らしげな顔をしているんだ。 君が忌み嫌うその内側こそが、君を支えつづけているものなんじゃないのか。 吐き出してよ、ぶちまけてみせろよ、俺を染めて見せてくれ。 それとも本当は、なんにも考えてないだけなんじゃないのか。

 言葉だけが大切じゃない、でも君はものが言える。だったら俺にだけは言ってくれないか。 それでこのわだかまりもスッキリするんだ。だからはっきりと、言ってくれないか。 心の底から。全てを飲み込むような感情を、発してくれ。
「あなたが嫌いだ」、と。


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2003年11月17日(月)01時48分
愛が死語に変わるとき

 真面目に統計を取ってみれば、きっと心が動いている時なんて人生の10分の1にも満たないのだろう。 それほどに僕らは無感動な生き物、ではなく今は心を動かすのにものすごいエネルギーを必要とするからではないだろうか。
 恋人や友人とのやりとりを「等価交換」といった原則で縛ろうとするのは、結局、騙したり裏切られたりしたときの予防線に他ならない。 みんな「愛」とか「平和」とかの言葉がもつ力が消えていることを感づいて、それで別の「信じれる」何かを探そうとしている。 「信じるもの」がないと何をするのにも余分な力がかかるから、何かにすがって生きるほうが楽なのだ。それが昔は神様だった。 ちょっと前までは科学技術だった。今も昔もお金が大事って人も居る。愛だってまだ皆が素晴らしさを歌っている。
 でもやがて、その言葉が意味を失うときが来る。 言葉が死んでも、気持ちは生きていけるのだろうか。

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2003年11月12日(水)00時41分
いっそ君になれたら

 人は幸せには慣れやすく、不幸せには敏感だ。実経験からもそう感じる。
 今に満足しろと言いたいわけじゃない。ただ、いま包まれている羊水を味見してみてくれないか。 甘ければ、心地良いが長居は危険だ。はやく何とかするべきだろう。辛ければ、味見せずともわかるだろう。 今すぐ新たな世界に飛び出すべきだ。不味ければ、なおさらだ。
 ただ味見してみても、美味しいとはなかなか感じないものなのだ。旨さを感じても、常に舌は新しい味を求めてしまう。 すぐ忘れてしまう。幸せとは、そういった料理にも似たものだ。
 不完全な自分の味覚に、いつも振り回されてばかり。自分すらも思い通りにならないのだから、 君を思い通りにすることなんて出来るわけもない。

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