ドラゴンの右腕が、佐祐理めがけて振り下ろされる。


…もうダメ!


その瞬間、佐祐理の目の前に黒い影が踊り出る。


弾け飛んだのは、佐祐理の体ではなくドラゴンの右腕だった。


「…大丈夫?」


朦朧とした意識の中、その声だけははっきりと聞こえたような気がした。


「あなたは…誰…ですか…。」


そう言ったところで佐祐理の意識は途切れた。



プリンセスさゆりん
〜あははーなお姫様の諸国漫遊記〜

佐祐理編 ドランゴラ
竜を討つもの






























意識が途切れたはずだったが…。




















「あはは〜佐祐理は寝ていませんよ〜。」


「これはっ、これはっ、これはっ…

ひょっとして運命の出会いというやつでしょうか?

そうです。きっとそうです。

凶悪なモンスターに襲われ絶体絶命のピンチにおちいるお姫さまと、

どこからともなくさっそうと現れお姫さまを助ける、お・う・じ・さ・ま。」


「佐祐理さん…ひょっとして頭うった…?」


「そういえばグラドリエル女王陛下と聖騎士エドワードさまの出会いも

ここドラゴンズヘブンだったとか…。」


「佐祐理さーん。聞いてるー?」


もはやあゆのツッコミ程度では佐祐理の妄想(暴走?)を止めることはできない。

「ああ…なんて素敵な姿なのでしょう。

強い意思を感じさせる瞳、無表情を装いつつもやさしさを感じさせる唇、

流れるような長い黒髪、引き締まったウエスト、豊満なバスト…」

バスト………………………

バスト……………………

バスト…………………

バスト………………

バスト……………

バスト…………

バスト………

バスト……

バスト…

「バストぉ!?」 Σ( ̄□ ̄;)

「うわぁ!!」

「がーん。

佐祐理の王子さまは女の子だったのですか…。」

「びっくりしたなぁ、もう。」

「ううっ。佐祐理の…佐祐理の運命の出会いがたったの十秒で…(T_T)」

「どうしたの佐祐理さん。どこか痛いの?」

「佐祐理のハートはズタズタですよ…」

「ハート? 胸? 胸が痛いの? まっててね。今回復の魔法かけるから…。」

「ありがとうあゆちゃん。でもこの胸の痛みは魔法じゃ治りませんから…。」

「…?」

「そういえばドラゴンはどうしたのでしょう?」

かみ合っているようでかみ合っていない会話がひとしきり続いた後、

佐祐理は思い出したようにドラゴンのほうを向くと、戦いはすでに終わっていた。

片目を失い、片腕を落とされたドラゴンは思わぬ敵の出現により

もはや自分に勝ち目がないことを悟り、逃げていったのだ。

「た、助かった〜。」

あゆは腰が抜けたのか、その場にヘナヘナと座りこむ。

「さすがに危ないところでした〜。」

佐祐理も今回ばかりは少々こたえたらしい。

と、二人が話しているところに、ドラゴンを追い払った少女がゆっくりと近づいてきた。

剣はすでにさやに収めてある。

「え〜と、このたびは、危ないところを助けていただきありがとうございました。」

佐祐理は立ち上がって礼を言ったが、返事はない。

女の子としてはかなり長身であろう、その静かな表情からはなかなか感情を読むことができない。

少女の身体はゆらりとゆれると、パタン、と静かな音を立ててその場に倒れた。








「…きゃあああああああああ!!」

多少のことでは動じない佐祐理だが、今回は珍しく驚いている。

「たっ、大変。あゆちゃん。早く回復の魔法を!」

「う、うん。」

そういって、あゆは回復の魔法をかけようと少女の身体に手を触れた瞬間、


ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ


「うぐ?」


「はぇ?」


「おなかすいた…。」


腹の虫が盛大に鳴り響いた。


「…あはは〜。」












辺りはすっかり暗くなってしまった。

佐祐理たちは少女とともに近くにあった洞穴で夜を過ごすことにした。

洞窟の中にはドラゴンの肉が焼けるいいにおいが広がっている。

「危ないところを助けていただきありがとうございました。

私、名前は倉田佐祐理っていいます。佐祐理と呼んでください。」

「ボクはあゆだよ。」

「…川澄舞。舞でいい。」

そう言うと舞は差し出された肉にかじりついた。

「ところで舞はこんなところで何をしてたのですか?」

「ままみまむむもむむももままま。」

「ほえ?」

「(ゴクン)私は竜を討つものだから。」

賞金稼ぎのようなものだろうか? 佐祐理は思った。

「佐祐理こそ…こんなところでなにをしている?」

舞が聞き返す。

「佐祐理は食材の調達ですよ〜。」

佐祐理が答える。

「ボクたちが食材にされるところだったよ…。」

あゆがつっこむとそれに続いて、

ピシッ

「ここは危ない。」

舞もツッコミを入れた。

「大丈夫ですよ〜。次こそは負けません。」

「だめ。」

「大丈夫ですって。」

「今のままじゃ、だめ。」

舞は強い口調で、やや怒気も入っているだろうか、はっきりと言った。

「だめ…ですか。」

「…でも、舞はあんなにも見事にドラゴンと戦っていたじゃないですか。」

佐祐理は少し落ちこんだ様子を見せたが、すぐに舞に聞き返した。

「…やみくもに斬りつけてもだめ。コツがいる。」

「だったら佐祐理にもそのコツを教えてください。」

「………わかった。」

舞はしばらく考えこんだあと、そのように返事を返した。

こうして、特別講師「川澄舞」による「ドラゴンとの戦い方」講座が始まった。
















翌日。

まだ早い時間だったが、舞は人知れず出発しようとしていた。

「舞、一人で出発するのですか?」

横になっていた佐祐理は、上体を起こして声をかける。

「佐祐理…、起こしてしまったか?」

「また合えるといいですね〜。ではお気をつけて。」

「それはこっちのセリフ。あんまり無茶してはいけない。」

「あはは〜。肝に命じておきます。」

「ごちそうさま。いってきます。」

「はい。いってらっしゃい。」

佐祐理が満面の笑みを浮かべて舞を送り出すと、舞は微笑を返した。

こうして、舞は一人旅立っていった。










「うぐ…おはよー佐祐理さん。あれ、舞さんは?」

しばらくの後、あゆも目を覚ました。 「もう出発していきましたよ〜。」

「そっか…。」

「さぁ、佐祐理たちも朝ご飯を食べたら出発しましょう。」

「うん。」







佐祐理たちがドランゴラに帰っていく途中、ドラゴンを見つけた。

今度は別の誰かと戦っている様子である。

「佐祐理さん。あれ、昨日のドラゴンじゃない?」

「あ、本当ですね〜♪」

今の佐祐理の表情を説明するならば、面白そうなおもちゃを見つけた子供、といったところだろうか。

「でも、切り落とされたはずの片腕が、もう生えているよ〜。」

「ゴキブリ並みの生命力ですね〜。」

「ゴキブリでも一晩で腕は生えないと思うけど…。」

「ドラゴンと戦っている魔法使いの方…、見覚えがありますね〜。」

「ナッツビルで悪さしていた人だよ。」

「あ〜偏食でつるぺたの栞ちゃんですね〜。」

佐祐理の恨みは相当深いらしい、と思うとあゆはため息をひとつついた。

「では…昨日の借りを返しに行きましょう。」

「佐祐理さん。昨日、死にかけたばっかなのに…。」

「舞に教えてもらいましたから大丈夫ですよ〜。」

言うが早いか、佐祐理はドラゴンのもとへ向かって走り出していた。

「まってよ〜。」










ドランゴラ、佐祐理編はひとまずここで終わります。

続きは栞編で。