佐祐理たちから遅れること一日。栞もドランゴラに着いていた。







「暑いです…。」


全くなんなんですか! この街は!!

じっとしているだけでも汗が出てくるし、街中に香辛料の匂いが漂っているし

それに何より…


バニラアイスが売っていません!!






プリンセスさゆりん
〜あははーなお姫様の諸国漫遊記〜

栞編 ドランゴラ 「暑いのは嫌いです」





「え〜、こんなにするんですか!」


「最近はドラゴンも人前に出てこなくなってきたからねぇ。

今じゃ置いてある店だって少ないんだよ。お嬢ちゃん。」


いろんなお店を巡って、やっと見つけたドラゴンの肉は

とんでもなく高価なうえに、とり置きされていた冷凍ものだった。


栞のこづかいではとても手が届かないし、

そもそも、とり置きの冷凍ものなんて送ったりしたら突っ返されかねない。


「うちの家族ってみんなグルメなんですよねぇ…。

でも何とかしないとお母さんにおしおきされるだろうし…。」


これまでに母親にされた惨劇の数々が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

その瞬間、まるで自分が極寒の地に放り出されたかのような錯覚に陥る。

「それだけは…それだけはなんとしても避けないと…。」

栞は喉元につきつけられた死神の鎌を振り払おうと、必死になって首を左右に振る。

しかし、経験からくる恐怖に、思わずしゃがみこんで頭をかかえる。


栞は鬱だった。








…しかたありません。

お母さんの逆鱗に触れるくらいなら、ドラゴンとタイマンやったほうが遥かにマシってもんです。


逃げ場はないと悟ったのか、それとも腹をくくったのか、栞は静かに立ち上がった。

両の目に深い決意の色を込めて。


「出発は明日ですね。」


こうして、栞もまたドラゴンズヘブンに向かうことになった。







翌日、日の出とともに栞はドラゴンズヘブンに向けて出発した。


「喉が乾きましたー。暑いですー。帰りたいですー。」

栞は愚痴っていた。昨日の決意は海の向こうまで飛んでいったらしい。

「暑いですー。暑いですー。暑いですー。」

いったい何度このセリフを言っただろうか。

しかしここドラゴンズヘブンは竜族のなかでも火竜の生息地であり、その結果炎の精霊力がかなり強い。

氷の魔法を好んで使う栞には、暑さと炎の精霊力が二重苦となって襲いかかるのだ。

そんな場所をもう三時間も歩いているのだ。栞でなくても愚痴のひとつやふたつ言いたくなる。

もっとも、ストールを羽織るのをやめればもう少し快適に旅ができそうなものだが、栞曰く


「日焼けは乙女の敵です。」


自慢の雪のような白い肌が日焼けしてしまうのは、暑さ以上に耐えられないことのようだった。

しかし、日光を遮るだけならわざわざストールを羽織る必要もなかろうに、

そのことに気がつかないところが、栞の栞たる所以であった。


「心頭滅却すれば火もまた涼しです。」


心を平静に保とうと目を閉じ精神を集中させる栞だが、頬をつたう汗が鬱陶しいだけだった…。


ギラギラギラギラ…………(太陽の照りつける音)

ダラダラダラダラ…………(汗の流れる音)

イライライライラ…………(栞の…)














ブチッ


「こんな場所、大っ嫌いですー!!」


ついに栞がキレた。








テストの終了とともに集中力がどこかに飛んでいってしまったみたいです。