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もーにんぐさあびす
カカシの身体メカニズムは、
目覚めと同時に全感覚が起動する。 アラートを発生させる最低限の感覚を残し、
意識をシャットアウトさせた深い睡眠から一気に覚醒する。 見慣れた天井に、毎度の二重写しのような視界。
馴染んだ寝床の存在。
あたりまえの朝の気配。
穏やかな日常を感じさせる一瞬に、小さく息を吐く。
同時に暖かな体温を知覚する。
カカシは静かに首だけを回し、温もりの発生源を確認する。
背中を丸め、頭をカカシの脇に擦りつけるように眠る
イルカは完全に無防備な状態である。 ふっ、と薄い笑みがカカシの口元を飾る。
いつのころからか、こうなっていた。
カカシに対し、償いきれない罪を背負ってしまったとする
思い込みだけで、カラダを開いたイルカ。 その純粋さが眩しくて、愛しくて、そして恨めしくて。
イルカを贖罪という虚構の契約で縛った。
心が伴わなくても、せめてカラダが欲しい。
よくある歪んだ執着である。
男同士の情交。
有体に言えば、カカシがイルカを犯すセックスである。
そんなイルカにもカカシにも惨めな関係が、心もカラダも
全部が互いのためへと昇格したのは、先月のこと。 それまでは強制的にベッドを共にしていても、イルカは
カカシに対して背を向けて眠っていた。 任務に赴いている間はどう休んでいたのかは識らない。
けれど、
『イルカせんせ、ココ自分で弄くらないでくださいね。
契約違反にナリマスヨ』 そう言って、調合した怪しいクスリを塗り込めるカカシに
律儀にも応えるイルカが数えた夜の長さ。 それを思うだけで、下半身に熱が集中する。
その間の記憶を語らせ、再現させることは簡単なカカシは
『いつか、マンネリになりかけたら施しますからね』
などと不穏な思考をとりあえず封印して、隣で微睡む男を
見る。 イルカの愛しい寝顔は、いつもカカシの方を向いている。
やはり、偽の契約で縛っていた時は、わざと反対側を向いて
いたのだ。 安心しきった、忍としては規格外の信頼全開の、イルカの
寝顔を間近に見られる幸せ。 こんな瞬間がひどく嬉しい。
カカシは静かに上半身を起こし、ベッドから抜け出す。
変わり身の材料はマクラ。
カカシが移動した分の空白に、素肌の肩が現われる。
すぐにイルカの肩へ、上掛けを被せる。
その刹那、
直接空気に晒されて寒いのか、イルカは無意識のまま
上掛けを引き寄せ、カカシの身代わりのマクラに擦り寄った。 ぎゅっと、上掛けの端を握りしめ、
子供のように無心に眠る姿。 自覚なしに満開の笑みを浮かばせるカカシ。
カカシがベッドを抜け出したのも、
イルカには見せなかったケガの手当てと、昨夜できなかった 任務完了の報告を済ませ、カカシが再び戻ったことなど 気がつきもせずに愛しい恋人は眠っていた。 「イルカせんせー(愛しちゃってますよ)」
カカシは、自分の幸せそのものであるイルカの名を
心の中で呼ぶ。 イルカの無邪気ともいえる寝顔は、どれほど見ていようとも
飽きる事はない。いつまでも、このままで。 ずっと、変わらずに。
カカシは己の持てる限りの細心の注意をはらい、
イルカの脇に手をつく。
それからゆっくり、ゆっくりと肘を曲げ、
イルカの前髪から鼻の上のキズへと口づける。 本当の目標である、少し厚めのイルカの唇は、
引き寄せている上掛けでガードされている。 「まったく、あなたって人は……」
カカシは苦笑する。
さて、いかにしてイルカを起こさず
再びベッドにもぐり込めるか。 その困難さは、暗部時代の比ではない。
「イテテ」
任務に就きたくてウズウズしている下半身に
『待機』の命令を施し、カカシは思案するのであった。
− ヲワリ − |