▲な関係?
抑圧された理性が解放される瞬間、一人の男は一匹の獣となる。
髪を整え、眼鏡をかけ。
仮面を付ける事により、自分は変貌する。
「憧れのお兄ちゃん」ではなく、「蹂躪する男」として。
汚い罠にはめ、手に入れた存在。
純粋すぎる魂を汚す事に躊躇する自分は、もういない。
この姿は、かりそめのものであったはずなのに。
すでに、己の一部と化している。
記憶の中に残る偶像を壊したくなくて、卑怯な選択をした。
すべてを手に入れたい。
身体だけでは、我慢できない。
心まで、すべてを自分の物にしたい。
その選択の愚かさに気づく前に、取り込んでしまおう。
誰も近づかせず頼りにさせず、周囲から隔絶させる。
あいつのすべてが自分だけになるようにしてしまおう。
自分に屈しようとしない強気な顔も愛しい。
瞳に自分しか映さず、熱に浮かされたように求める姿も愛しい。
たとえ愛ではなくても。
その根底には憎悪が隠されていても。
もう、こいつを手放しはしない。
奪われた空白の時間、どれほど後悔したことか。
その時にこいつに関わった存在、すべてを消し去りたい。
こいつの心を捕らえてもいいのは、自分だけだ。
自分の隣で静かに眠る幼さが残る少年を、意外なほど優しい眼差しで眺めながら、くしゃりと頭を撫でる。
「……おまえは、歪んでいるな」
突然、その手を払いのけ相手がむくりと起き上がった。
まとう空気が、ぴんと張詰めたものへと変化する。
不敵な瞳が、挑むように水都を映す。
「夜……か」
少年、空が抱えるもう一つの人格・夜。
奪われた空白の時間、苦しさから逃れるために生み出された、もう一人の空。
「ふっ、安心しな。こいつは疲れてゆっくり眠ってるだけだ」
言葉に甘さを含ませ、自分の身体を優しく抱きしめる。
水都は苛立つ声に嫉妬を混じらせる。
「なら、なんでおまえが出てくる? 私の相手をしてくれるとでもいうのか?」
「それも楽しいかもな。だけど、俺は抱かれてやる趣味はないぜ」
慈しむかのように自分の髪に触れ、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「本当に、愚かだよな。肉体の拘束は所詮それだけに過ぎない。おまえのやり方では、心までは手に入れられないぜ? 相手を認め、受け入れてやる。それが一番の早道だ」
「ふっ……。今更、その道が残されていないことを知りながら、よくもほざくものだ。これが、私の愛し方だ」
「そこまで一途なのに、悲しいねぇ。……でも、安心しな。言おうかどうか迷ったが……。こいつは、そんなにおまえの事キライでもないぜ?」
「!? どういう意味だ?」
「あ〜あ。敵を励ましてどうするんだか。空はな、おまえを恐れていたよ。だけどな、一緒にいて考えが変わってきた。激しい執着は、愛情の現われだと受け入れようとしている」
「馬鹿な。あれだけひどい扱いをされていながら……」
「そう、馬鹿。甘ちゃんだけど、人の良さを探して受け入れるのもこいつの良いところ」
うろたえる水都をおもしろそうに眺めながら、言葉をつなぐ。
「周囲を傷つけると言うのは脅しとしては構わないけど、実際の行動だけは止めておけよ。それをやったら、絶対にこいつはおまえを許さない」
少しだけ真剣な顔をし、強い瞳で水都を見据える。
「……ずいぶん親切なんだな。私はライバルなんだろ?」
「おまえのためなんかじゃないさ。こいつの心、壊したくないから。少しでも軽くしてやりたい」
ひどく優しい表情で、自分の胸に手をあてる。
「一番近い場所で、ずっと一緒にいた。だけど誰よりも遠い存在だった。こいつの心がダイレクトで飛び込んでくるのに、俺はそれを聞いていることしかできなかった。何も、返してやることができなかった……。でも、今は違う。俺の存在を知り、受け入れてくれる。……本当なら、おまえなんかに指一本触れさせたくないんだぜ?」
いたずらっぽい表情で、水都の顔を下から覗き込む。
「でも、俺は知ってるからな。……も〜う、サービスだ。今日だけは特別。とっておきの情報を教えてやるよ」
「何だ?」
宝物のように空を語る夜に、どちらにともつかない嫉妬を感じる。
「空……こいつな。興味があったんだよ。気になって、だから付きまとって。結局、おまえの毒牙にかかっちゃったんだけどな」
「まさか……」
「心当たりぐらい、あるだろ? 本当にキライなら、周りをちょろちょろなんかしない。それなのに、会う機会が多かっただろ? 全部が偶然とおまえの計画のはず、ないじゃないか」
小馬鹿にしたように、夜は笑う。
「まあ、そんなわけだから。おまえを殺したりはしない。サド気質なのは天然だからしょうがないが、こいつを壊すような裏切りはするなよ。俺も支えてやることはできるけど、見かけほどこいつは強くないからな」
「……」
「……納得できないって顔、してるな。まぁ、どこか頭の片隅にでも覚えとけ。俺は、こいつを壊すような相手は決して許さない。空のためになら、おまえを殺す覚悟はあるし、その力もある。そのことをな。あぁ、ちきしょう。だいぶ眠りが浅くなってきた。それじゃ、水都。またな」
一方的にまくしたて、最後ににかっと笑顔を残して、張詰めたプレッシャーが霧散した。
その瞬間、起き上がっていた空の肉体は後方にと崩れ落ちそうになり、反射的に抱き留めていた。
温もりが、腕の中にすっぽりと収まる。
「んっ……ふにゃ? あれ、みな…と?」
信じられないほど優しく抱きしめられていて、どんな状況にいるのか寝起きの頭では理解不能な空は、近くにある顔をぼんやりと眺めている。
「あっ……これ、夢だな。水都がこんな優しいもん。へへっ、たまにはこんなのも良いな」
あどけない顔が、ひどく幸福そうに微笑む。
「優しい水都ってのも……なんか変だけど。あったかくって、好き……」
思いがけない言葉と共に、頭を擦り付けるように甘えてくる空に、水都は金縛り状態に陥った。
しばらく硬直しているうちに、空は再び本当の夢の世界へと戻っていった。
(ふぅ〜〜〜っ)
その場には、世にも珍しい赤面する水都の姿があった。
相次ぐ思いがけない事態に動揺しまくりの水都先生は、それでもいつも以上に優しく抱き上げると、細心の注意をもってソファに横たえ、空が着ていた制服をその裸体の上にかけた。もちろん当然、いつもそんなことはしたことない。
(私も……何を期待しているのだか)
やってしまいました〜(笑) 好きしょです。もう、2本目の夜の存在が大好きで、
少し前に勢いで書いたものを今回アップいたしました。
ご都合主義のかたまりなので、水都先生別人ですね。
まるで、ダメパパ=水都、過保護ママ=夜、激プリな子供=空、みたいな関係が好きです(おいっ)