天乱の時を得、兵を挙げること三十余年・・・




天下をことごとくたいらげ・・・




銀河統一を目の前にしておきながら




自分の寿命すらどうにもできぬとは・・・




なんたる人生・・・




こうして鎧を着けると若かりし頃が思い浮かぶ・・・・




見よ、この星空を・・・




これがわしの生きた世界なのだ・・・




なんと広いことよ・・・・




この星空の極みの果てに何があろうか・・・・




わしは、そこへ行き着きたかったぞ・・・・・

             ―五丈国王比紀弾正―


その日、武王都の夜空に一つの星が流れた。

そして、一人の英雄が命の灯火を消した。

巨星落つ、比紀弾正・・・・享年七十四才

弾正死後、四天王は自らを元帥と称し、新たに元帥府を創設し軍部を統括した。

さらに四人の文官を太政大臣を筆頭とする諸大臣に任命し、四元帥は組織上彼らの統制下に入ったが

実力者呂斎亡き後の彼らの力では、四天王を抑える事が出来なかった。

大元帥 鳳鳴

驃騎元帥 玄偉

衛元帥 狼刃

車騎元帥 骸羅

この四人が五丈の国政を司る事となったのである。

軍閥四人の共同統治は南天の正宗という五丈の個々の臣では到底たちうち出来ない

脅威のおかげできしみながらも辛うじて成立していた。

だが、その薄氷の均衡は今、崩れようとしていたのである。






  腹心
       (一水)





「元帥、太政大臣閣下より評議会の召集がありましたが、これは・・・」

太政大臣よりの召集の知らせを受けた副将が上官にそれを知らせる。

「そうか、それならば、参内の準備をせねばな」

豪奢な彫り物がされている美しい机を前に書類の整理をしていた五丈最高権力者の一人は、副官の話を聞き立ち上がろうとする。

「元帥、姫様と秘密裏に連絡をとっていた骸羅元帥が南天国境より密かに武王都に向かったとの情報も入っております
 今、参代するのはあまりにも危険なのでは」

「その程度は、解っておる」

自分の事を心配する部下に苦笑を返しながら、部屋の主は言葉を続ける。

「おそらく骸羅の奴、麗羅様を抱きこんで実権を握る積りだろうな」

「ならば、なぜ?」

敬愛する上官の信じられない言葉に疑問の声を上げる。

「わしは、もう銀河に必要無い・・・・
 我ら法家は、上に立つ事は出来ぬ
 そして、わしは殿以外の人間に膝を屈するつもりは無い」

くぐもった声

「なぜです! 元帥はこれまで、弾正公の為に泥をかぶってこられた
 南征の時も、狼刃元帥の処罰の不満が弾正公へいかないように元帥が矢面に立たれた!
 なぜ・・・なぜ・・・・元帥だけが・・・・
 知っておられるのですか元帥、兵達が元帥の事をなんと噂しているか!
 血も涙も無い軍法至上主義者と、言っているのですよ」

副官が感極まった叫びをもらす。

主は椅子から立ち上がると副官の前に立つ。

「そう、それでいいのだ
 将兵の不満を殿に向けてはならんのだ
 全て、わしが吸収する
 それが我ら法家の役割であり、そしてわしが望んだ事なのだ
 殿による、天下の統一・・・・
 ただそれだけがわしの望みであったのだ・・
 その為にも殿の人望を落とすわけにはいかなかったのだ
 わしは望んで殿の泥被り役を引き受けてきた
 だが・・・その望みは絶たれた
 後、数年・・・殿に時間があれば・・・麗羅様と、あの狼刃の所の暴れ者が・・
 せめて・・・・・・呂斎殿が生きておれば・・・・
 いや・・それはいってもせん無き事だ
 わしの歴史での役割はもう終わったのだ
 殿の作られたこの五丈は崩壊する
 骸羅ごときでは、五丈の切り盛りなど出来はせん
 新たなる銀河帝国の足音がもうすぐ聞こえてくるだろうよ
 そして、そこにわしの居場所は無い」

「げ、元帥」

主の言葉に副官は驚きの声をあげた

「わしが死ねば骸羅のやつも枕を高くして寝ることが出来るだろうよ」

それに対する主のそっけない答え。

「なにも、元帥が命を捨てる事も無いでしょう
 一時、身を隠されては?
 骸羅の政権が長続きするとは思えません」

「馬鹿をいうな・・・そのような事をしては玄偉に気付かれる
 用心深いやつの事だ、わしが参内しなければなにかきな臭いものを感じて参内を取りやめてしまうだろうよ
 わしはいかねばならぬ
 今回の事はやつを処分する絶好の機会なのだ
 あの男は危険すぎる。
 殿ならば使いこなせようがそれ以外のだれでも奴を御する事は不可能だ
 わしも何度かあの男を処分しようとしたが、些細な軍法違反も犯さん
 尋常な手段ではあの男を処分するのは不可能だ。
 だが今回の政変で骸羅は目の上のタンコブであるわしと玄偉を殺すだろうからな
 いくら、身辺に気をつかっても剥き出しの暴力の前には無意味だ
 これで銀河を安定させる為の不確定要素をなくす事が出来るのであればわしの命などおしくはない」

仮面の下からのくぐもった主の言葉に副官は声を無くす

「そうだ、お前はすぐに武王都を出るがよい
 おそらく骸羅は第一軍と第二軍の幹部の粛清をおこなうはずだ
 今のうちに、情報をもって身を隠しておけ
 骸羅に対する反乱がおきるまでそう時間はかからん
 おそらく、討伐軍が起きるのは南天との国境地帯だ
 そして、骸羅討伐の軍がおきたらそれに参加するがよかろう
 以前、わしが因果を含めて退役させておいた項鳶の所に身を寄せておけ
 お前の才覚と情報を渡せば討伐軍を指揮しておる者がだれであっても重用されるはずだ
 まぁ、おそらくはあの男であろうがな・・・」

元帥は軍事情報の書かれた書類の束を副官に渡そうとする

だが・・・・

副官は首を横に振った

「元帥・・・
 元帥にその覚悟があるのであれば・・・
 副官として、最後までお供させていただきます。」

敬愛する上官に透き通った笑顔を向ける

「そうか・・・すまぬな・・・
 死出への道、共に行くとしよう」

元帥は束を火鉢の中に投げ込む

書類は赤くそまり・・・そして灰となった

「ではいってくる
 三途の川のほとりでまっておるぞ」

「はっ」

参内する元帥に副官が頭を下げる

「これで、ここも見納めか」

元帥は長年、暮してきた屋敷を出る

そして、二度と帰って来る事はなかった。

「いってらっしゃいませ、元帥・・・・」

上官を見送る副官の目から溢れる涙が去っていく元帥の姿をにじませていた。













































「元帥・・


 元帥を待たせはしません
 

 先に三途の河原でお待ちしております」












副官はすらりと懐剣を抜くとそれを自らの首筋に当てた。








そして・・・・・・・








懐剣の剣身に赤いものが流れる

















評議会において麗羅の支持を受けた骸羅は鳳鳴、玄偉の二元帥を殺害、五丈の実権を握った




そして鳳鳴、玄偉と繋がりのある文官、武官を全て捕らえ処刑した。





その最中、鳳鳴の屋敷に向かった骸羅の弟、骸山は真っ赤に染まった部屋と


一人の死体、そして灰になった第一軍の軍資料を見つける事となった



後書き

一水です。
どうもわけのわからないものを押し付けて申し訳ありません
ライの第四巻の幕間劇ですがなんとも変なものになってしまいました
しかし弾正公の五丈の人材の充実度は大変なすごいものです。
雷を上回る武勇をもつ骸羅、謀才に優れた玄偉、艦隊戦の名将狼刃、厳正な軍法家鳳鳴
それらをおさえる事が出来る政治家呂斎、有能なる軍師にして道士李張
雷の五丈に確実にまさる充実度です。
弾正公の寿命が残念でなりません。
まぁ、この一代の巨人が銀河から退場したからこそ雷に出番があったのですが・・・・
ちなみに題名の「腹心」は弾正の腹心鳳鳴とその鳳鳴の腹心たる副官の二人の事です。
この副官に名前が無いのは本編には存在していない人物ですので勝手に名前をつけるわけに
いかなかったからです。別になくても支障は無いはずですし
なお一部漢字が表示出来なかった為似た文字で誤魔化しています←全てユニコードが悪い

  


 文和賛

 かつては弾正公、そして最後はまだ見ぬ新帝国の為に、自ら望んで「影」としての生涯を全うする事を選んだ大元帥鳳鳴。
 そして彼を敬愛し、腹心として最期まで上官に殉る事を選んだその副官…
 共に見事な、乱世の武人達の生き様でした。


 この作品は当堂の頂いた記念すべき最初のSSになるのですが、一水さん、実に見事なものをありがとうございました。
 弾正公に鳳鳴氏。私の敬愛する二人の傑物の息吹が感じられるこのSSは、なによりの馳走です。

 

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