<3年1月( 前 )>
新たな年の幕開け、そして我が新生トルディン家の初陣の月でもある。この年になってこれほど心が高ぶるとは、我ながらおかしな気分だ。
「父上。侵攻軍400の出撃準備、完了致しました」
フュノーの報告に肯くと、わしは馬上より号令を下した。
「これよりイリアスの本拠ベルガルムを衝く!
我が家の興るも滅ぶもこの一戦にかかっておる。全軍、わしに続けい!」
かくして我が軍は、怒涛の如くベルガルムに雪崩れ込んだ。
迎え撃つイリアス軍は兵165にオーク部隊。我が軍は数で勝るものの、敵はあやつの直属軍、油断は出来ぬ。 わしは着実に敵兵を倒しつつ、奴の本陣へと進撃していく。
「総員、斉射!」
傭兵隊長の重々しい声が、この戦場の喧燥を圧するかの様で、実に頼もしい。
号令と共に雨の如く降り注ぐ矢が、奴の頼みの綱のオーク共をなぎ倒していく。
そして、わしも負けじと騎兵と共に敵陣へと殺到した。
二日目、ついにイリアスめは夜の闇に紛れ撤退を開始、勝敗は決した・・・
<3年1月( 後 )>
勝利に沸く我が軍にさらなる朗報が届いた。
イリアス捕縛である。 奴は撤退中に突如落馬し、追撃部隊の捕らえる所となった模様である。
あのしたたかな奴にしてはあまりの結末に、ふとランフランク卿の助力か、などとあらぬ考えが浮かぶ。 仇敵を前にして、わしは感傷的になっているのやもしれん。
そして、わしの前に奴が引き出されてくる。 しかし… 何と言うべきか、いざとなると何も言葉が出てこぬものだ。
「イリアス…」
やっと絞り出すかのように出た言葉に、一瞬だがあの奴が脅えた様な表情を見せた。
その時のわしはどんな顔をしていたのだろうか…
結局、わしは奴をイシュメリアの作法に則り、船に乗せて流す事にした。
それが、一世の野心家フェリアス=イリアスの、あまりといえばあまりにあっけない最期であった…
<3年2月>
わしは遂に仇敵イリアスを倒し、ランフランク卿の仇に報いた。
しかし三カ国を有するフェリアス家が、依然強敵である事は言うまでもない。
無論奴の息子ライアスとも、いずれ決着をつけねばならぬであろう。
しかし、それも後の事。いまは国内の建て直しに全力を注ぐ事にする。
<3年7月( 前 )>
ようやく体制を整えたわしは、次に600の兵を持ってドルノワリアへと進撃を開始した。
コーラル家に仕えし時は、こんな日が来るとは想像もしなかったが…
敵将ケルマイヤーはマシェーティを擁し果敢に抵抗を図ったが、結局我が軍の4分の1に満たぬ兵力では抗う術も無く、本国ペンザンス目指して落ち延びていった。
しかしマシェーティの一撃は、我が軍の兵30余を一瞬で切り裂く程の威力を秘めていた。
改めて先の一戦が薄氷を踏むものであった事を思う。
我が故郷ドルノワリア。我が家の父祖の地はカレティだが、この地で生まれ育ったわしにしてみれば、やはりここにこそ郷愁を覚える。
しかし、なんにせよ今のわしに感傷に浸る暇はない。休む間も無く、ペンザンスに追撃をかける。
これまで二重の安全圏に守られていたペンザンスのライアス軍はわずか80余。パスハを擁していたのは意外であったが、巧みにこれを避けつつ敵本陣を攻略。
我が軍はライアスをも捕らえ、まさに完勝を納めたのであった。
<3年7月 ( 後 )>
父と同じ様にわしの前に引き出されるライアス。最期まで毅然としていた奴に比べ、どうも震えが止まらない様である。
顔もあまり似ておらんな、などとどうでもいい事が頭に浮かぶ。
奴の息子ではあるが、不思議とそれほど激しい憎しみは湧いてこなかった。
「ライアス、降伏するか?」
結局、その場でわしが発したのは一言、
「こ、降伏致します…」
そしてライアスの返答も… 一言であった。
かくしてわしはリンディニスと300余の兵、ジェラスコ・ケルマイヤーという旧フェリアス家臣、そして宝石マシェーティを一時に手に入れたのである。
これがイシュメリア南方の雄フェリアス家の、あまりといえばあまりにあっけない滅亡であった…
<3年8月>
念願叶い、フェリアス家を潰したわしの前に今立ちはだかっているのは、スレテート家とランカシア王家である。
どちらが強敵であるかは言うまでもないが、わしはあえて王家に戦いを挑む事にする。所詮あの王がいる限り、共存など出来はしないのだから。
だが、何にせよまずは国内の建て直しをせねばならぬ。
強引な連戦により、新領土の統治も不十分極まりない事であるし…
<3年10月>
リンディニスに主力を集めたわしは、まず手始めに550の兵をもってセルシーへと進軍を開始した。
敵将シアボルドはまるでわしがイリアスの代わりでもあるかの様に執拗に抵抗したが、頼みのガーゴイル隊が壊滅し、本陣も危うくなると王都を目指し落ちていった。
マシェーティも期待通りの働きを示してくれ、まずは快勝、といった所である。
<3年11月 ( 前 )>
安全圏となったベルガルムから守備兵を呼び寄せたわしは、703の大軍をもってカレティ奪還の軍を起こした。
事前の諜報によれば敵はヒューバードと260余の兵に過ぎず、
わしは勝利を確信していた。
「な、なんだあれは?」
順調に進撃を続けるわしの耳に、突如兵達の叫び声が飛び込んで来る。
ふと目を転じてみれば、そこには我が軍の本陣を目指しひたすら突き進む、異形の怪物の姿があった。
王冠ドラゴン! 初めて見た王家の切札は、見ただけでも想像を絶する凶凶しさを発していたが… その力も又、やはり想像を絶したものであった…。
「第二部隊、損害56名! 前衛は壊滅状態です!」
「第三部隊、損害68名! 急ぎ再編中!」
魔龍の攻撃。それはほんの二撃で、我が軍精鋭の二部隊に三分の一強の損害を与えたのである。
あまりの事にわしは一瞬呆然としたが、敵が本陣を目指している以上、損害に構ってはいられない。わしは二・三・四部隊に本陣の死守を命じると共に、一刻も早く敵陣を陥すべく、騎兵隊を駆り立てて進撃した。
…からくもドラゴンを撃退したのは本陣の一歩前の事であり、ヒューバードはそれを見届けると抵抗を断念、撤退を開始した。
<3年11月( 後 )>
故地奪還、その代償は300近い精鋭達の屍。余りにも苦い勝利…。
わしは連戦連勝のあまり、いささかおごっていた様である。王家を、王冠を決して侮ってはならぬ。あらためて気を引き締めて戦いに望まねばなるまい。
わしは此度の戦没者に黙祷を捧げつつ、あらためてそう思った。
そしてわしは休む間も無く、さらに全軍を駆り立て北上する。
よほどカレティの守りに自信があったものか、北方トリバンテスの守りはアグレイアと60余の兵でしかなかった為である。
そしてアグレイアは戦わずして撤退、わしは悠々とその地に無血入城を果たした。
<3年12月>
激動の一年が終わろうとしている。 各地での連戦はこの老体には応えるが、弱音を吐いてはいられぬ。今はただ、進むのみ。
ふと大陸全土三十カ国の様子を振りかえると、ブランシェ家・ライル家・ランカシア王家がそれぞれ六カ国、スレテート家が四カ国、そして我がトルディン家が八カ国…
いつの間にやら我が家が数の上では最大国となりおおせていた。
無論、内実を見れば人材面でも特殊部隊の面でも、我が家の力などまだまだである。
しかし、この状態を決して一夜の夢に終わらせはすまい…
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