ジョスリン戦記(3)

 

<4年1月>

 イシュメリア最大の勢力となって迎えた初めての新年は、まさにそれを嘲笑うかの如き凶報で幕を開けた。 ペンザンスを委ねていたジュラスコが、突如ブランシェ家へと寝返ったのである。

 彼の地が後方のため戦力を持たぬ事は不幸中の幸いではあったが、それはその周囲も同様である。早急に、なんとしてもジュ ラスコが兵を整えるまでに始末をつけねば惨禍はさらに広がるであろう。
 わしはリンディニスのフュノーに守備隊の一部を急遽ドルノワリアに送る様命じると共に、ケルマイヤーを討伐軍の将に任じる事にした。

 此度の事件の為、家中にはフェリアス家の旧臣同士が結託するのでは、と疑いの目を向けるものもおり、そんな空気を察してか当の旧臣達にもいささか動揺が見える。 しかしそんな今だからこそ、ケルマイヤーに兵を預ける事でわしが彼らに譜代の臣と分け隔て無い気持ちを持っている事を示すべきだと信ずる。 この問題が後日、再び芽吹かぬ様に。

 しかし自覚しておったつもりだが、こんな形で我が家の権威がいかに弱いかを思い知らされる事になるとは…

<4年2月>

 なんとか先手を打つ事に成功し、ペンザンスの反乱劇は小火の内に消し止める事が出来た。 だが反乱の首魁ジュラスコは捕らえはしたものの、ブランシェ家より身代金支払いの申し出があった為に、止む無く釈放せざるを得なかった。 無念である…
 だがわしの意志が伝わったか、家中の動揺は次第に収まりつつある。 今はこれをもって良しとすべきであろう。


<4年6月>

 トリバンテスが洪水、ドルノワリアが疫病に見舞われる。 今年の我が家はどうも災厄続きである。 とりあえず今は、内政と家中融和に引き続き全力を注ぐ事にする。
 「国広くして軋轢多し」とは、はて誰の言葉であったろう。


<4年9月>

 年初の躓きが予想以上に尾を引いたが、ようやく体勢を整えたわしは、再び王家に対し攻勢をかけるべく729の軍をもってアングリアを襲った。
 彼の地を守るは黒宰相ゲオルグと200余の兵、そして… あの邪龍。
 カレティでの苦い思い出がわしの頭をよぎる。 しかし今度は同じ轍は踏みはせぬ。 わしはいつもの様に騎兵を率い北方から敵陣を扼す一方、第二・三・四部隊には待機を命じた。

 今度も悠然と、炎を吹き上げつつ我が陣を目指し進撃する邪龍。しかし奴は、 目の前に立ちはだかった青き壁に対し、怒りの咆哮を上げつつも停止を余儀なくされていた。
 そう、神の御使い水龍パスハ、それがわしの此度の切札であった。

 何もかも焼き尽くさんと紅蓮の炎を吹きかけるドラゴン。 そして全てを流しさろうと激流の如き水流を浴びせかけるパスハ。 伝説の龍同士の正面決戦は、まさに人知を超えた凄まじいものとなった。 しかし全体の勝敗は、わしの狙い通りその両者から離れた場所で人同士の間で決せられる事になった。
 一路本陣を目指し斬り込むわしと騎兵部隊に対し、ゲオルグは必死の抵抗を試みる。確かに奴の兵は、これまで戦ったどの王家の兵よりも強かった。
 しかし奴がいかに巧みに兵を動かそうとも、純粋な兵力差はそう簡単にひっくり返せるものでは無い。 あちらでパスハが邪龍の猛攻にまさに屈せんとする時、こちらでは奴は王都を目指し落ちていったのである…

 

<4年11月>

 ついにこの日が来た、といっても良いやも知れぬ。 わしは数度の激戦を経、遂にイシュメリアの華、全土を睥睨する王都ロンディウムに対し進撃を開始したのである。
 かつて訪れたわしを全てにおいて圧倒した都が、いまはわしの指呼の内にある。実に妙な気分だ。

 我が軍900を迎え撃つ敵は、狂王直属の近衛軍500弱。 わしは逸る心を押さえきれず、全軍に前進を命じた。
そして短いが激しい攻防が繰広げられ、戦意こそ高いものの統率が脆い敵軍は崩れ立ち、我が軍が常に主導権を握ったまま勝敗は決した。
 結局王こそ取り逃がしたものの、敵はガーゴイル隊も含め悉くが地に倒れるという、まさに我が軍の未曾有の圧勝で王都は陥ちたのである。

 


<4年12月>

 「王都を落とした」。 あらためてつぶやいてみるが、どうにもまるで現実感が湧いて来ない。 その一方でこのバルコニーから城下をみると、まるでこの世の全てを手に入れた様な妙な気分になる。 これも都の魔性とでも言うのであろうか。
 なんにせよ、くだらぬ事を考えていても仕方が無い。 わしは引き続き殆ど戦力を有していないブランカスタへと兵を進めた。

 しかしわしが進撃した時には、領主ケアウリンは既に物資と兵をまとめ逃げおおせた後であり、彼の地はものの見事にもぬけの殻… 噂通り、そつの無い男であるらしい。

 波乱の年も最後は無血の勝利で飾る事が出来、 王家領も残す所はあと三カ国。
 来年こそは決着をつけたいものだ…

 

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