立会人は大忙し♪

 

   「マリー・・・そこは・・・さっき説明した筈ですが・・・」
   クライスが、呆れたように呟く。
   「え?・・・だから・・・新婦の方に指輪を・・・」
   「・・・違います・・・」


   ここは、アルテナ教会。
   その中に、クライスと、マリーが居た。
   3日後の結婚式の予行演習をしているのである。
   ・・・ちなみに、式を挙げるのはこの2人ではない。


   「だって、新婦の方が先に指輪を嵌めるのでしょう?」
   「・・・自分で指輪を嵌める花嫁さんが、何処に居ます・・・」
   「あ・・・そうか・・・相手に嵌めてもらうんだぁ・・・」
   「・・・」


   3日後に結婚式を挙げるのは、エンバッハ家の御曹司とドナスターク家の
   令嬢。
   ドナスターク家の令嬢である『シア』は、親友であるマリーに『立会人』を
   依頼してきた。
   『立会人』という言葉から、式に出席するだけなのだろうと軽く考えた
   マリーは、二つ返事で引き受けた。


   立会人とは、教会で行われる結婚式にて、神父の補助をする役目で、新郎新
   婦の縁者の男女2人組で務めるのが習わしだった。
   そこで、シアはマリーに依頼してきたのだが、式の流れをすべて覚えなけれ
   ばならない為、マリーはかなり苦労しているのである。


   「・・・ここで、持ってくるのは誓約書です。
    聖書は、既に渡しているのでしょう?」
   「・・・あ・・・そうか・・・もっと前の段階で渡していたんだっけ・・・」
   「どうしますか?
    もう1度、最初からしましょうか?」
   「・・・う〜ん・・・」


   マリーの練習に付き合っているのは、もう1人の立会人であるクライス。
   新郎の縁者という事と、マリーと浅からぬ仲だという事で引き受けたので
   あった。


   「・・・随分しぼられているわね・・・マリー・・・」
   背後から、女性の声がした。
   そこに立っていたのは、ほぼ1年前にめでたく結婚したルシェッタだった。


   「・・・ルシェッタさん・・・どうして此処に?」
   「孤児院に顔を出してきたの。
    あそこは・・・実家みたいなものだから」
   ルシェッタは、8歳の時に両親を亡くし、教会の孤児院で育った。


   「ところで・・・マリー・・・大変でしょう?
    何と言っても、大貴族同士の結婚ですもの・・・」
   「そうなんですよ・・・
    もう・・・投げ出したい気分ですよ〜」
   「・・・じゃあ。辞めますか?」
   クライスが聞いてくる。
   マリーは、彼を振り返り言った。
   「辞めるなんて言ってない!
    シアの為だし・・・頑張る!」
   「では・・・続けましょうか?」
   再び、練習を始めた2人を、ルシェッタは静かに見ていた。


   「マリー・・・あなた・・・本当にやる気・・・あるのですか?」
   「・・・」
   何度も段取りを間違い、その度にクライスに指摘され、流石のマリーも
   すっかり落ち込んでしまった様だった。
   「・・・やる気は・・・ある・・・でも・・・式の流れを全部覚えるなん
    て・・・無理だよ・・・」
   「・・・私は覚えましたよ」
   「あんたは、出来が良いのよ・・・きっと・・・」
   「・・・解かりました・・・止めましょう」
   「えっ?・・・」
   マリーはクライスの顔を、じっと見た。
   完全に呆れている顔だった。
   「式の流れは、紙にでも書いておきましょう。
    それを見ながら、立会人をしましょう。
    少々・・・恥をかくだけですから・・・」
   「・・・意地悪・・・」
   マリーはそう呟くと、両手で顔を覆い、しゃがみこんだ。


   「ちょっと・・・クライス君・・・言い過ぎよ」
   2人の様子を見ていたルシェッタが、クライスに小声で耳打ちした。
   「幾ら、マリーが精神的にたくましい娘って言っても・・・
    女性なんだから・・・傷つき易いものなのよ」
   「・・・」
   クライスは、マリーの様子を窺っていた。
   (もしかして・・・泣いているのでしょうか?)
   流石に、言い過ぎたのかもしれないと思った彼は、マリーに話し掛けた。
   「すいません・・・言い過ぎました・・・」


   マリーの肩が震えていた。
   クライスは、マリーの側に歩み寄り、同じ様にしゃがみこんだ。
   「マリー・・・」
   マリーの肩に手を置こうとした時・・・
   「・・・ふっふっふ・・・引っ掛かった!」
   そう言って、マリーが顔をパッ!と上げた。
   「あたしが・・・そう簡単に泣く訳ないでしょ?」
   最高の笑顔でマリーは言った。


   「マリー・・・私は・・・本当に泣かせて仕舞ったと思って・・・」
   「ふふ・・・ゴメンネ」
   そう言って、首を傾げる。
   「全く・・・」
   気を取り直す為に、メガネを中指で押し上げる。
   「・・・ルシェッタさんも・・・判っていたのですね?」
   「まあね・・・騙されるあなたが、まだまだ青いって事よ」
   ルシェッタは、ニッコリ笑って、そう言った。
   「・・・で・・・どうするのですか?
    マリー・・・
    暗記する事は、諦めるのですか?」
   「諦めないよ。
    未だ、日数が有るから・・・頑張る!」
   「よろしい・・・では、最初から・・・」


   こうして、再び2人の練習が始まった。


   結婚式の当日、マリーは立派に立会人の役目を果たした。
   しかし、式の翌日から3日間、マリーは工房を休んだ。
   『慣れない事をした為の疲れ』とマリーは主張した。
   殆どの人々は、信じたが・・・一部の人間は信じなかった。


   式が行われた日の夜、チョットした事件が起きた為だったのだが・・・
   それは、別の話である。

終わり

 


後書き

 

      カウンター「50番」を踏んでくれました「sol」さんのリクエスト小説です。
      「シスコン気味のクライスが、マリーに意地悪してるつもりが、逆に振り
      回される話で、メガネを押し上げるシーンを入れて」というリクエストでし
      た。
      シスコン気味はクリア出来ませんでしたが、他はOKでしょうか?
      (振り回すのは、マリーとルシェッタさんですが)


      本当は、ルシェッタさんの旦那様も出したかったのですが・・・(彼も、か
      なりお茶目な人だから・・・)
      実は、この話、時期的に殆どのキャラがザールブルグに集まっているの
      です。
      シアの結婚式に出る為に、グランビル村からマリーの兄さん2人とアニー
      さんが来てるのです。
      もしかしたら、隠しで書くかも?

 

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