Erste Liebe〜エアステ リーベ〜


その1

 

   「ちょっと、ちょっとクライス」
   アカデミーのロビーを歩いていたクライスは、突然呼び止められた。
   彼を呼び止めたのは、アカデミーショップに勤めていた彼の姉、アウラ。
   先日、結婚話がまとまり、準備の為という事で、退職したのだが、後任者の様子が心配な
   のか、時々アカデミーにやってきていた。
   「何ですか。姉さん」
   「マリーが里帰りしたって本当なの?」
   「えっ?」
   先日、何とかアカデミー卒業試験に合格したマリーは、正真正銘の自分のアトリエを開く
   為の準備中で、その間ドナスターク家で居候してると聞いていたのだが・・・
   「その様子じゃ知らないみたいね」
   「いつからですか?」
   「さあ・・・イングリド先生によると、1週間前に先生の所に、しばらく里帰りしてきますって
    挨拶に来たらしいわ。すぐに、出発したかどうか解らないけど」
   その言葉を聞くや否や、クライスは駆け出していった。
   「えっ!・・・ちょっと、クライス・・・」
   残されたアウラは、いつもと違う弟の行動に少々驚いていたが、やがてため息をついて言
   った。
   「マリーたら・・・クライスには、何も言わずに行ったのね」


   アカデミーからドナスターク家までクライスは走りつづけていた。
   頭の中では「何故、自分には何も言ってくれなかったのか」という事で一杯だった。
   マリーはアカデミーに入学してから卒業までの9年間、故郷に帰っていない。
   だから、家族に会いたくなったのかもしれない。
   それでも、知り合いの人間に知らせてから、行くものではないのか。
   そんなに、自分は嫌われていたのだろうか?


   ドナスターク家に着いたクライスはドアをノックした。
   中から出てきたのは、メイドらしき女性だった。
   「あの、すいません。こちらにマルローネさんがいた筈なのですが・・・」
   「はあ・・・いたと言いますか・・・いらっしゃいますが?」
   「えっ?」
   意外な答えにクライスは拍子抜けした。
   「もうすぐ、だんな様と一緒にグランビルに向かいますが」
   「ああ・・・そうですか・・・」
   どうやら、ギリギリ間に合ったようだ。
   「あの・・・マリーさんに何か?」
   「いや・・・特に用事というのはないのですが・・・会えますか?今」
   「はい。まだ出発まで時間がありますから」


   「あれ?クライス・・・どうしたの?」
   すっかり旅支度を整えていたマリーは意外そうな顔をしていた。
   「どうしたって・・・どうしていきなり里帰りするなんて・・・しかも、私に一言も言わずに・・・」
   「あはは・・・ごめん・・・あんた研究で忙しいみたいだったし・・・」
   「気を遣って頂いてうれしいですが・・・で、何故、里帰りを?」
   「う〜ん・・・あのね・・・あたしの・・・1番上の兄が・・・結婚・・・するの」
   「お兄さんが?」
   マリーの兄弟については聞いた事が無い。
   「うん・・・彼の結婚式にどうしても出たくて・・・聞いたのが最近で・・・突然なんだけど」
   「そうですか・・・では、気を付けて行ってらっしゃい」
   「うん。ありがとう」


   その後、クライスはドナスターク家の主人(シアの父親)とマリーを街の門で見送った。
   馬車が行った後、クライスは一緒に見送りに来ていたシアに話し掛けた。
   「マルローネさんのお兄さんって、どんな人ですか?」
   「えっ?ビリーさんの事かしら?」
   「ビリーさんって言うのですか。今度結婚するお兄さんは」
   シアが首を傾げた。
   「ビリーさんが結婚するって話は聞いてないけど・・・」
   「ああ・・・1番上のお兄さんって言ったました」
   ますます、シアは不思議そうな顔をした。
   「マリーにお兄さんは一人しかいないけど・・・」
   「えっ?でも彼女は確かに・・・」
   「そう言い聞かせて・・・行ったのね。マリー・・・」
   シアはため息をついた。
   「どういうことですか?」
   「今度、結婚する人、ルークさんって言うのだけど、彼、マリーとは従兄弟で、初恋の相手
    なの」
   「あの人の初恋の相手・・・」
   いてもおかしくない。自分にだっていた。
   「でもね、あきらめるしかなかった。絶対結婚できない相手だから・・・」
   「どうして・・・従兄弟同士の結婚は避けるべきですが、禁止はされてない筈です」
   「できないわ・・・絶対・・・2人は・・・本当は兄妹だったのだから・・・

 

つづく


中書き

      「エアステ・リーベ」とは「初恋」の独語です。
      クライスとマリー、それぞれの初恋物語。
      最終的にクラマリになるので、しばらくお付き合いくださいね。

 

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