Erste Liebe〜エアステ リーベ〜


その4

 

   「お帰りなさい・・・マリー・・・」
   グランビル村に里帰りしていたマリーが、ザールブルグに帰ってきたのは、もうすぐ11月
   になろうとする秋の終わりの頃だった。
   「ただいま・・・シア。
    予定よりチョット遅くなっちゃったけど」
   明るくマリーは答えた。
   マリーとドナスターク氏は、当初の予定より、街に帰って来る日が遅くなった。
   何かあったのかと心配していたシアは、ほっと胸をなで下ろした。


   「・・・村の様子は・・・どうだった?」
   「うん。ちっとも、変わってないよ。
    あたし達の幼馴染み達が、すっかり大人になった位・・・かな?
    変わった事と言えば」
   あっけらかんと答えるマリーを、シアは心配そうに見ていた。
   「・・・結婚式は?」
   「うん!ちゃーんと出てきたよ!」
   「・・・大丈夫だった?」
   「まあ・・・大丈夫・・・だったよ」
   ちょっと歯切れが悪いマリーを見て、シアは、一段と心配そうな顔をした。
   「ごめんね・・・心配かけて・・・大丈夫だから・・・あたし・・・」
   「・・・マリー自身がそう言うなら・・・」

   シアは、こう言うしか無かった。


   「ねぇ・・・マリー?」
   「なあに?」
   「・・・クライス君に・・・全部・・・話したから」
   「えっ?・・・全部って・・・何を?」
   マリーには、何か判っていたが、あえて聞いた。
   「ルークさんの事・・・」


   「そう・・・アイツ・・・全部知っちゃったんだ・・・」
   「ごめんね・・・だって・・・マリーがややこしい言い方をしたから・・・」
   「あの・・・『1番上の兄』って事?」
   「そう・・・だから・・・私・・・『マリーのお兄さんは、1人しか居ない』って言って・・・」
   「それで・・・全部・・・話したんだ・・・」
   「ええ・・・」
   2人とも黙り込んでしまった。


   「・・・仕方ないよ。
    あたしだって今でも実感が湧かないもん。
    ルークが・・・お兄さんだなんて・・・」
   「あのね・・・多分・・・心配してると思うのよ・・・彼・・・」
   「そうねぇ・・・割とアイツ・・・お人好しだからなあ・・・」


   「解かった!・・・今から行ってくるわ!・・・アイツの所に」
   「そう?」
   マリーは玄関に向かって歩き出した。
   「あっ!マリー?」
   「ん?・・・何?」
   「今日・・・ココに・・・帰って来る?」
   マリーは首を傾げた。
   「帰って来るに決まってるじゃない。
    今の所、ココがあたしの家なんだから」
   「そういう事じゃなくて・・・判らないなら・・・いいわ・・・行ってらっしゃい・・・」
   意味ありげなシアの言葉に、引っ掛かりながら、マリーはアカデミーの特別寮に
   向かった。


   特別寮のクライスの部屋の前にマリーは立っていた。
   「アイツ・・・居るかなあ・・・」
   軽く扉をノックする。
   中から返事がした。
   「はーい。どちら様ですか?」
   「・・・・マリー・・・だよ・・・」
   「えっ?マルローネさん?」
   扉がバタンと開いた。
   中から出てきた男に、マリーは最高の笑顔を作って言った。
   「ただいま!」


   「あんたの所って・・・本当に本が一杯あんのね・・・」
    ここにある本・・・全部・・・読んだの?」
   「ええ、ほとんど読みましたね。
    途中の本もありますが・・・」
   「へぇ〜・・・ほんっ〜と本が好きなのね・・・あんた」
   そう言いつつ、マリーは1冊の本を本棚から出した。
   「これって・・・図鑑?
    絵が一杯載ってるけど・・・」
   「ああ・・・それは・・・」
   マリーが持ってる本を見て、クライスはニッコリと笑った。
   「子供用の百科事典ですよ。
    小さい頃・・・一番好きだった本です」
   「・・・あんたの小さい頃の愛読書って・・・百科事典な訳?
    変な子供・・・」
   「そうですか?私にとって絵本みたいな感覚だったのですが・・・」
   「絵本ねぇ・・・確かに絵はいっぱい載ってるけど・・・」
   「いくら、あなたでも、子供の頃、絵本位・・・読んだでしょう?
    あるいは、親に読んでもらうとか・・・」
   クライスの問いには答えないまま、マリーは持っていた本をバタンと閉じた。
   そして、本の表紙をじっと見ていた。


   「マルローネさん?」
   黙り込んだマリーの様子を見て、恐る恐るクライスは呼びかけた。
   何か気に障る事を言ったのだろうかと。


   「本は・・・あまり好きじゃなかったなあ・・・
    それより、外で遊ぶ方が好きだったから・・・」
   「そうだろうと思いました・・・」
   「でもね・・・本をよく読んでくれる人が居て・・・その人が薦めてくれる本は・・・頑張って
    読んでた・・・」
   「・・・『ルクス・グランディ』・・・愛称『ルーク』・・・」
   マリーはクライスの言葉に無言で頷いた。


   「・・・あれ?・・・どうしたのかなぁ・・・涙が・・・」
   マリーの両目には、涙が溢れ出していた。
   「どうして・・・まだ・・・駄目なの?」
   そう呟くと、マリーはその場にしゃがみ込んだ。
   頬を伝った涙は、床に、ポトリ、ポトリと落ちていた。


   しばらくして、マリーは何かにフワリと包まれた。
   すぐに、それが人の腕だと気が付いた。
   この部屋に居るのは、マリー以外ではただ1人。
   この部屋の住人だった。
   彼、クライスのローブを掴み、マリーは声を上げて泣き始めた。
   クライスは、そんなマリーの背中を、まるで子供をあやす様に、優しく叩いていた。

 

つづく

 


    中書き

      やったー!
      やっとクラマリだー!
      まだ続きますが・・・
      ちなみに、子供用百科事典が愛読書だった人は、実在します。

 

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