憧れの人〜エルテスタ ゾーン 後日談〜

 

    「・・・今から・・・実家に帰ってきます・・・」


    クライスが、思い詰めた様な顔で、あたしの工房に訪ねて来たのは、12月の初め
    だった。


    「そう・・・明日、アウラさんの結婚式だもんね。
     最後の夜は、家族が揃わないとね・・・」


    クライスは、黙ったままだった。


    「・・・あの・・・何で・・・あたしに、わざわざ言いに来たの?」
    別に、言いに来る必要って、無い気がしたので、聞いてみた。


    「・・・私は、貴女に話していない事があるのです。
     家族の事で・・・」
    重い口を開いてアイツが言った


    あたしには、思い当る事があった。
    「・・・お兄さんの・・・事?」


    「・・・知ってましたか・・・」


    あたしは、ゆっくり頷いた。
    「アンタの口から、聞きたかった・・・。
     おかげで、アンタの実家で大騒ぎしちゃったわよ・・・」


    チョット皮肉を込めて、言ってやった。
    言いたくない理由は、判るけど。


    あたしは、すべてを話した。
    まず、ロブソン村での事。
    そして、キュール家での事。


    アイツは、すまなそうな顔をして言った。
    「すいません・・・。
     言ったら・・・貴女の笑顔が消えると思ったので・・・」


    「どうして?」
    (何で、あたしの笑顔が消えるのよ・・・)


    「ルシェッタさんの話をした時、貴女は、泣きそうな顔をしていた。
     その上、彼女の相手が私の兄弟と知ったら、本格的に泣いてしまう気がしたのです」


    「だからって、黙っているなんて・・・。
     いずれ知る事なんだから・・・話して欲しかったよ・・・」


    あたしは、クライスに近付いた。
    そして、彼の身体に抱き付いた。


    「アンタは、きっと・・・お兄さんの事大好きなんだね・・・。
     だから・・・余計苦しかったんだよね・・・」
    家族を憎むのは、とても悲しい事・・・。
    あたしも、初恋が壊れる原因を作った両親と、伯父さん夫婦を、憎みそうになった。
    そして・・・そんな自分の心が悲しかった・・・。


    クライスは、あたしの身体をしっかりと抱き締めた。
    そして・・・語り出した。


    「子供の頃・・・兄は、私の憧れの存在でした。
     4年後には、こう成りたい。
     未来の自分の良い目標でした。
     しかし・・・私は、兄の様に成れなかった・・・。
     人当たりが良くて、陽気な、あの人の様には成れなかった・・・。
     そして、もう1人の憧れの存在だった女(ひと)は、兄を選んだ。
     思わない様にしても・・・思ってしまいました。
     『兄が居なければ、彼女は、私を選んでくれたのではないだろうか?』
     ・・・そんな事は、絶対に有り得ない。
     私と兄は、全く違う人間・・・。
     同じ両親から生まれたけれど、受け継いだモノが違う。
     兄には、父の外見と、母の性格が・・・。
     私には、母の外見と、父の性格が・・・」


    クライスは、恐い位に低い声で、呟いていた。
    少し恐かったけど・・・あたしは、しっかりと彼の身体にしがみ付いていた。
    心の闇の部分を、口に出す事によって、彼は救われる。
    そう思ったから・・・。


    「以前・・・貴女は、兄の事を、『恋人を、ずっと放って置くなんて、いい加減な男!』って
     言いましたよね?」
    「・・・それは・・・アンタのお兄さんだなんて・・・知らなかったから・・・」
    あたしが、焦って言い訳すると、クライスは、あたしの身体に廻していた腕を弛めた。
    そして、あたしの顔を覗き込んだ。


    「私は、無意識に、言っていました。
     『あの人は、そんないい加減な人ではありません!』と。
     その時、はっきり判りました。
     私は、兄を憎んでいない。
     2人を、祝福出来る様に為っていたのだと」
    そう言って、クライスは、穏やかな笑顔を浮かべた。


    あたしは、ほっとした。
    クライスが、フェーザさんの事を、あたしに話さなかったのは、彼を憎んでいる訳じゃ
    無かったからだ。
    コイツにとって、フェーザさんも、大事な存在の1つなのだろう・・・。
    今までも・・・これからも・・・。


    「でも・・・1つだけ心配な事があるのです・・・」
    「何?」
    「貴女まで、兄に惹かれてしまうのではないかと・・・」
    少し、情け無さそうな顔をして、クライスが言った


    「そんな、心配していたの?
     大丈夫!
     あたしも、アンタと同じ位、しつこい性格なの。
     簡単に、心変わりなんかしないわよ!」
    あたしは、最高の笑顔で言った。


    あたしの笑顔に答える様に、クライスも笑顔になった。
    そして・・・
    どちらからともなく顔が近付き・・・唇が重なった。
    はじめは軽く・・・でも・・・やがて、相手の全てを奪う様な、深く、甘い口付けになった。
    少しずつ、アイツの口付けの位置が下がってくる・・・。


    (もしかして・・・このまま・・・最後まで・・・いっちゃうのかな・・・)
    それでも・・・良いと思った。


    アイツの手が、あたしの服に掛かった時、玄関の扉が開く音がした。
    あたし達は、ビクッとして、玄関を見た。


    そこには・・・


    「・・・悪い・・・邪魔だったかな?」


    さっき話題になっていたフェーザさんだった。


    「・・・兄さん・・・貴方は・・・女性の家を訪ねる時、ノックもしないで、扉を開けるの
     ですか?」
    あたしを腕に抱いたまま、クライスは、フェーザさんを軽く睨みながら言った。


    「ノックはしたよ。
     お前達が、お楽しみ中で、聞こえなかったのだろ?」


    (お・・・お・・・お楽しみ中って・・・)
    あたしは、顔が真っ赤になるのが、自分でも判った。


    (そりゃあ・・・そうかも・・・しれないけど・・・)


    クライスも、あたしと同じ様に、動揺して、返す言葉も無いらしい・・・。
    そんなあたし達を、フェーザさんは、嬉しそうに見ていた。


    「本当は、このまま消えてやりたい所だけど・・・」
    フェーザさんは、そう言った後、クライスを、指差した。
    「ソイツを、実家に連れて帰らなきゃいけないんだよ。
     父親の絶対命令でね。
     悪いけど、マリー。
     俺の弟を、連れて帰ってもいいかな?」
    そう言って、ニッコリと笑う。


    「あ・・・そうよ!・・・クライス!
     アンタ・・・実家に帰るって言ったのに・・・何してんのよ!
     どうぞ、連れて帰って下さい!」
    あたしは、恥ずかしさをふっ飛ばす為に、元気良く言った。


    「恋人の許可も下りた事だし・・・」
    フェーザさんは、あたし達2人に歩み寄った。
    そして、クライスの腕を掴んだ。
    「帰るぞ・・・実家に・・・」


    「・・・1つ聞きたいのですが・・・」
    クライスは、フェーザさんと、あたしの顔を、交互に見て言った。
    「兄さんは、マルローネさんの事を、『マリー』と呼びましたよね?」
    「ああ・・・呼んだよ」
    「何故ですか?」
    クライスは、少し不機嫌な表情だった。


    「何故って・・・本人がそう呼んで欲しいって言ったからだよ。
     なあ・・・マリー?」
    「はい・・・」
    あたしは、フェーザさんに初めて会った時、確かにそう言った。
    ある程度親しい人には、愛称で呼ばれたいから・・・。


    「それなら・・・良いです・・・。
     マルローネさん・・・どうも、お邪魔しました。
     では・・・」
    そう言って、クライスは、フェーザさんと一緒に帰って行った。


    (残念と云うか・・・ほっとしたと云うか・・・)


    あたしは、フェーザさんが現れる直前の出来事を思い出し、顔が紅くなった。
    そして、フェーザさんとクライスの会話の様子も、思い出した。


    何となく、小さい頃の情景も想像できた。
    おおらかなお兄さんと、ちょっと生意気な弟。
    そして、正反対の弟達を見守る優しいお姉さん。


    (アイツ・・・兄弟には恵まれているんじゃない・・・)
    そう思ったら、心が暖かくなった。
    仲の悪い兄弟なんて・・・見たくないものね。


    あたしは、はっきり言って、その時、気が付いていなかった。
    キュール家のエルテスタ・ゾーン(長男)が、なかなか食えない人物である事に。
       

 

終わり♪

           


後書き

       「エルテスタ ゾーン」後日談です。


       今回、ラブシーン頑張ってみたのですけど・・・
       (フェーザ兄さんのせいで、未遂ですが・・・)


       フェーザさん、本当に良い所で、邪魔しましたね(^_^;)
       わざとでは無いはずなので・・・許してあげて下さい・・・。

 

 

小説リストに戻る