あたしは、目の前を歩いている男性の背中をじっと見ながら、歩いていた。
(背の高さは・・・大体同じくらいだなあ・・・)
とか、思いながら・・・・
指輪の話になって、すぐにあたしとシアは、キュール家を後にすることにした。
その時、フェーザさんが、
「今から、アカデミーに行くから途中まで送って行くよ」
と、言い出した。
断るのも、変だから、さっきまで3人で歩いていた。
3人で歩きながら、あたしがロブソン村を後にしてからの話を聞いた。
薬は成功品で、エリーちゃんは、すっかり元気になったらしい。
良かった・・・
シアとは、途中で別れて、フェーザさんと2人になったら、会話が途切れてしまった。
あたしは、聞きたい事が一杯あるのに、何から聞いて良いのか分らなかった。
「なあ・・・マリー?」
フェーザさんが振り返った。
「何ですか?」
「どこまで知ってるの?」
・・・どこまでって・・・
「君は、クライスに兄が居る事は知らなかったみたいだけど、アイツがルーシェに恋を
していた事は知っている。
クライスと、君は、単なる知り合いって関係では無いんだろ?」
「・・・一応・・・恋人・・・かな・・・」
あたしは、自信が無くなってきた。
アイツは、あたしに全てを話してくれなかった。
あたしは、全てを話したのに・・・
「あたしが、知っているのは、クライスが初恋を最初から諦らめようとしていた事。
ルシェッタさんの想い人を、悪く言わなかった事です」
「そう・・・」
フェーザさんは、ほっとした顔をした。
その顔は、アイツがたまに見せる穏やかな笑顔に似ている気がした・・・
「あの・・・『ルーシェ』って、ルシェッタさんの事ですよね?」
あたしは、間違いないと思うけど聞いてみた。
「そうだよ。俺だけが使う事が許された愛称・・・」
「許された?」
どういう事だろう・・・
「元々は、故郷の村に住んでいた頃の愛称だった。
両親からは勿論、近所の人々からそう呼ばれていた。
両親が亡くなって、村も無くなって、そう呼ぶ人が1人も居なくなった。
そして、あの娘(こ)は、その呼び名を封印した」
静かに、フェーザさんは話し始めた。
ルシェッタさんと出会ってすぐ、フェーザさんは彼女に愛称は無いのかと聞いた。
「あるけど、それは家族でないと使わせたくないの・・・」
そう言った彼女に強い意志を感じ、ずっと本名で呼び続けていたらしい。
でも、将来の約束をした時に、愛称で呼ぶ事を許されたという事だった。
「愛する人以外には、愛称を使わせないか・・・
そういう考えもあるかも知れませんねぇ・・・
あたしは、ある程度親しい人には『マリー』って呼んで欲しいけど」
(アイツは、本名でしか呼んでくれないけど・・・)
そう思いながら、あたしは言った。
「俺もそうだよ。
本名で呼ばれたら、落ち着かない・・・
ルーシェも、両親が健在だったら、そうだったと思うよ。
愛称は、すごく気に入っているみたいだから。
だからこそ、故郷と両親の思い出として、封印した」
ルシェッタさんは、8歳の時に両親を亡くしている。
その上、故郷も無くしている。
でも、彼女は、強く、明るく、前向きに生きている。
本当に、強い女性だなと思う。
「彼女には、両親の形見がほとんど無い。
だから、愛称を封印して、形見にしたんだ」
「そして、その封印は、フェーザさんに対してだけ解いた・・・」
「そういう事・・・」
中書き
まだ、暗いです・・・
次は、フェーザさんが弟について語る筈です。