エルテスタ ゾーン

 

その4

 

    もうすぐアカデミーに着く頃になって、再びフェーザさんが口を開いた。
    「俺、マリーに母親の話・・・したよね?」
    「えーと・・・フェーザさんが6歳の時に亡くなっていて・・・綺麗な青紫色の瞳をした女性
     だったって・・・」


    (エリキシル剤の色を思わせる青紫の瞳か・・・アイツの瞳は母親譲りなのね・・・)


    「そう・・・髪は青銀色で癖が無い髪だった。
     まるで月光の様な女性だったらしいよ。
     俺は、はっきり覚えていないけど。
     はっきり覚えているのは、彼女のお葬式の時の風景だな・・・」


    あたしは、何も言えなかった。
    幼い子供にとって、母親を亡くすというのは、どんなに淋しい事だろうと思って・・・


    「俺の膝の上には、2歳の弟が居た・・・。
     1番母親似なのに、1番影響を受けずに育つ事になった弟がね。
     その時、俺は、ぼんやりと思った。
     『この子には、無条件で守ってくれる存在が1つ無くなったんだ・・・』って。
     だから、俺がこの子を守らないといけないんだって」


    そう言ったフェーザさんの顔は、とても真剣で、強い意志が見えた。


    「・・・でも、俺には、もっと守りたい存在が出来た。
     9歳の時に会った、凄く強気な女の子・・・」


    ルシェッタさんの事を、言っているのがすぐに判った。


    「両親と家と故郷が無くなって、泣きたい筈なのに、周りの大人を心配させたくない
     から、無理して笑っていた。
     『私は、大丈夫だから・・・』って。
     だから、俺は言った。
     『泣きたい時は、泣いたら良いんだよ』って。
     それから、彼女は、俺にだけ本当の顔を見せてくれる様になった。
     この娘(こ)の笑顔を守りたいって思った。
     その為に、アイツの初恋を潰す事になったけど・・・」
    そう言って、フェーザさんは、淋しそうに笑った。


    (複雑な表情になると・・・似てるのね・・・この兄弟は・・・)
    あたしは、そう思った。


    「アイツは、俺を憎んでいるんだろうな・・・
     だから、俺の存在を隠していたのかなぁ・・・」
    そうフェーザさんが呟いた時、あたし達は、アカデミーの前に着いた。


    「じゃあね・・・マリー・・・」
    アカデミーに入って行くフェーザさんに向かって、あたしは思わず叫んだ。
    「違うと思います!」
    フェーザさんは、くるりと振り返った。


    「・・・クライスは、フェーザさんを憎んでいませんよ・・・きっと・・・。
     だって・・・ルシェッタさんの相手の事を、『彼は、ルシェッタさんを間違いなく幸せにして
     くれる人物です』って言ってたから」


    しばらくフェーザさんは、あたしを見ていた。
    そして、ニッコリと笑って言った。
    「・・・そうか・・・よかった・・・」
    その笑顔は、本当に嬉しそうだった。


    「神様は、ちゃんと居るんだね」
    「はあ?」
    フェーザさんが言った意外な言葉に、あたしは気の抜けた返事をしてしまった。


    「君みたいな娘を、アイツに巡り合わせてくれた。
     君が側に居れば、アイツは大丈夫だね・・・」


    そう言い残して、フェーザさんは、アカデミーの建物に入って行った。


    (今日は・・・本当に色々あったなぁ・・・)
    そう思いながら、あたしは工房への道を歩いていた。
    ずっと知りたかった事・・・思い付きもしなかった事実・・・
    まだ・・・頭が混乱している気がする・・・
    ただ1つ判ったのは、アイツがアッサリと初恋を諦める決心をした理由・・・
    アイツには、判っていたのだろう・・・
    ルシェッタさんが、フェーザさんを選んだ理由が・・・
    アイツは、頭が良いから・・・


    「でも・・・本当に・・・似てない兄弟だよね・・・」
    しみじみと呟いて、あたしは工房に帰って行った。

                             

おわり

           


後書き

      暗い・・・
      書いていて泣きそうでした。
      それに・・・ラブラブなシーンを書く訳にいかなかったからストレス溜りそうでした。
      (当たり前だ!)


      次は、キュール兄弟とマリーの話です。

 

 

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