天使を探して

 

その2

 

   「天使の扮装をしたヤツ?
    ・・・ああ・・・居たなぁ・・・」
   『金の麦亭』の主人は、2人の少年に、そう答えた。


   「そうですか・・・。
    どんな人でしたか?」
   まだまだ、酒場に来るには早い年齢の少年であるラディだが、彼は、気後れする事無く
   主人に次々と、質問をした。


   「薄めの金髪に、水色の瞳をした男だったなぁ・・・。
    年は・・・17.8って所だな・・・」
   「身分は、判りませんか?
    貴族とか・・・農民とか・・・」
   「そうだなぁ・・・」
   主人は、そう呟いて、何かに気がついた様だった。


   「多分・・・騎士見習いだと思うぞ」
   「騎士見習い?」
   ラディは、クーゲルの方を見た。


   「あの・・・どうして、騎士見習いだって思ったんですか?」
   クーゲルは、主人に聞いた。


   「ああ・・・。
    剣の訓練があるとか、教養の授業があるとか、連れのヤツ達と話していたからな。
    剣とか、教養を学ぶと言えば、騎士だろ?」
   「そう・・・ですね・・・」
   クーゲルは、呟きつつ納得した。
   丁度、今の自分も、そんな日々を送っている。


   「随分探し易くなったな。
    騎士見習いで、17.8歳の男性なら、そんなに沢山居ないだろ?
    外見も、はっきり、判ったからな」
   騎士団の宿舎に向かいながら、ラディは、クーゲルに言った。


   「ああ・・・あの人・・・だったらな・・・」
   クーゲルには、たった1人だけ心当たりがあった。
   そこで2人は、その人物に、会いに行く事にした。


   騎士団の宿舎に着いた2人は、図書館に向かった。
   クーゲルの話によると、その人物は、本好きで、休日には、図書館に居る事が多いとの事
   だった。


   「ええと・・・あっ・・・居た。
    ギラッフェさん」
   クーゲルは、椅子に座って本を読んでいる男に話し掛けた。


   「・・・?ああ・・・クーゲル・・・何か・・・用?」
   本から顔を上げたのは、薄めの金髪に、水色の瞳をした青年だった。
   女性の様な優し気な顔立ちは、確かに『天使』を思わせた。


   「単刀直入に聞きますが、夏祭りの時、天使の扮装をしなかったですか?」
   ラデイの突然の質問に対して、青年は、
   「天使の扮装?
    ああ・・・夏祭りの時に、確かにしたけど・・・」
   と、アッサリと答えてくれた。


   「そうですか・・・。
    実は・・・」
   ラディは、夏祭りに起きた出来事を、話した。


   「つまり・・・その女の子が見たのは、天使の扮装をした僕だって事を、判らせてあげたら
    良いのだね?」
   「はい」
   「判った。
    その娘(こ)に、会いに行こう」



   「イリー・・・チョット、庭に出られないかな?」
   ラデイは、部屋の窓から外を見ている少女に声を掛けた。


   「・・・そうね・・・天気も良いしね・・・」
   少女イリーは、儚げな笑顔を浮かべて言った。


   「あっ!!」
   中庭に出たイリーは、花壇の側に立っている人物を見て、凍り付いた。
   そこには、クーゲルと金髪の青年が立っていた。
   その青年は、夏祭りに見た『天使』だった。
   イリーは、すぐ側に居るラディの腕にしがみ付いた。


   「・・・大丈夫・・・。
    お前を迎えに来た訳じゃないよ。
    あの人は・・・」
   ラディは、イリーに対して優しく笑い掛けた。
   そして、花壇の方向に歩き出した。
   イリーも、ラディにしがみ付いたまま歩き出した。


   「はじめまして・・・お嬢さん?」
   青年は、イリーに、ニッコリと笑いかけた。
   「・・・はじめまして・・・」
   イリーは、ゆっくりと顔を上げて、青年の顔をじっと見た。


   「イリー・・・その人・・・間違いなく人間だよ。
    それとも・・・やっぱり、天使に見える?」
   ラデイは、イリーの顔を覗き込んだ。


   「・・・人間の男の人・・・だよね・・・」
   イリーは、そう言ってラディの方を見た。
   「・・・探してくれたんだ・・・私の為に・・・」
   ニッコリと微笑んだイリーを見て、ラデイは、顔が赤くなるのを感じた。
   そんな顔を見られたくなくて、プイッと横を向く。


   「・・・腕・・・離してくれないか・・・」
   横を向いたまま、ラディは呟いた。
   「あっ・・・ごめんなさい・・・」
   イリーは、パッと腕を離した。
   そして、恥ずかしそうに下を向いた。


   「あの・・・僕は、お邪魔みたいだから、失礼するよ」
   青年は、気まずそうに言った。
   「・・・俺も、邪魔みたいだから帰るよ」
   クーゲルは、そう言って、ラディとイリーを見た。


   「詳しい事は、ラデイに聞きなよ・・・。
    コイツが、必死になって『天使様』を探し当てたんだからな。
    ギラッフェさん。
    騎士団に帰るのだったら、一緒に帰りましょうか?」
   「そうだね・・・。
    じゃあ、失礼するよ」
   そう言い残し、クーゲルと青年〜ギラッフェは、その場を立ち去った。


   「・・・ありがとう・・・」
   イリーは、そう言うと、ラディの首元に横から抱き付いた。
   そして、彼の頬にキスをした。


   「・・・イリー・・・」
   イリーの突然の行動に、ラデイは驚き、彼女を呆然と見詰めた。


   「ホンの御礼の印よ・・・。
    で・・・聞かせてくれないかしら?
    どうやって、『天使様』を探し当てたのか」
   そう言って、ラディをじっと見る彼女は、普段通りの気の強い少女だった。


   「ああ・・・チョット長い話になるから家の中で話すよ」
   そう言って、ラディは、屋敷向かって歩き出した。
   イリーも、彼に続いて歩き出した。



   それは、普段と変わらない夏の1日に過ぎなかった。
   だが、ラディにとっては、忘れられない日になった。
   1つは、幼馴染みの少女に対する恋心を自覚した日であった事。
   もう1つは、この日出会った青年が、ラディとイリーの2人の未来に大きく関係する人物であった事。


   もちろん、当時の彼等に、そんな事実は判る筈も無かった。
   

      

 

終わり

 


後書き

      またまた、突然降ってきた話です。
      何故か、親世代の話・・・。

      『天使様』のギラッフェさん、誰かお判りですよね?
      (「エアステ・リーベ」で名前だけ登場してます。)

      近い内に、彼の相方のお嬢さんも登場させたいと思っています。
      (彼女の方が、ラディ&イリーの運命に大きく関係する人物になる予定です)

 

 

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