工房の扉がノックされたのは、夜が明けてすぐだった。
「は〜い・・・どなたですか?」
扉を開けると、ルシェッタさんが立っていた。
「あら?・・・元に戻ったのね」
「はい・・・」
ルシェッタさんは、バスケットを持っていた。
「あの・・・もしかして、解毒剤を・・・」
「違うのよ。これは。
解毒剤のレシピは出来たけど、もしかしたら元に戻ってるかもって、思ってね」
そう言って、彼女は中に入り、作業台の上にバスケットを置いた。
「様子を見に来るついでに、朝食一緒にどうかなって・・・」
バスケットの中身は料理だった。
「二人分・・・ですね・・・」
「ええ。一緒に食べようと思ったのだけど・・・
もう、食事、作っちゃったの?」
「いえ・・・その・・・」
その時、階段を降りてくる音がした。
・・・アイツ・・・起きてきたんだ・・・
「あら?・・・誰か・・・居たの?」
ルシェッタさんが階段の方を見る。
そして、アイツの顔を見て驚いた様だった。
「・・・貴方達・・・いつの間にこんな事に?」
「ち・・・違います!」
そう言ったあたしを、アイツはいきなり背後から抱き寄せた。
「・・・想像にお任せします・・・」
そして、ルシェッタさんに笑い掛ける。
「そう?・・・じゃあ・・・追及はしないで置くわね」
ルシェッタさんは、朝食の用意を始めた。
・・・どう解釈したのかなぁ・・・彼女・・・
「どうして・・・『違う』って言わないのよ」
小声で、あたしは言った。
アイツは、あたしを抱き締めたまま、耳元で囁いた。
「そういう事にして置けば、貴女が浮気しないでしょう?」
「・・・する訳ないでしょ・・・もう・・・」
あたしの言葉を聞くと、アイツはあたしの頬に軽くキスをして、あたしの身体に回して
いた腕を離した。
「じゃあ・・・帰ります」
「えっ?・・・あの・・・朝食は?」
食卓も兼ねている作業台にはルシェッタさんが持って来てくれた料理が並んでいる。
「折角だから・・・食べて行きなさいよ・・・ねぇ・・・ルシェッタさん?」
「そうよ・・・チョット量が少なく成るだけなんだから・・・」
「いえ・・・今からだと、寮の食事に間に合いますから・・・」
「でも・・・」
「もう危ないからって理由は、通じませんよ」
そう言って、ニッコリ笑う。
「では、失礼します」
今度こそアイツは、帰って行った。
「本当は・・・何も無かったのでしょう?」
「・・・想像にお任せします」
朝食を食べた後、ルシェッタさんはあたしに昨夜の事を聞いてきた。
アイツにも子供の姿を、見られたという事は話した。
それ以上は、『想像に任せます』でトボケた。
彼女は、深く追及しなかったけど。
「でも・・・戻ったから言うのだけど、子供の姿のマリーって可愛いかったわよ」
「・・・かなりのじゃじゃ馬娘でしたよー。あたし」
「まあ・・・私もかなり・・・だったわよ?」
信じられない。
「信じられないかしら?」
「う〜ん・・・本好きな少女って感じなんですけど・・・」
「全然!木登りなんか、得意中の得意だったわよ」
・・・想像できない。
「マリーは、きっと両親に可愛がられて育ったのでしょうね・・・」
「まあ・・・父親は・・・甘かったかな?」
「私の父親も甘かったわね・・・私も父親の膝に乗るのが大好きでね・・・」
・・・ルシェッタさんの目は、遠い日々を思い出している様だった。
彼女の両親は、亡くなっているらしい。
彼女に比べると、あたしは幸せな人生を送っている。
両親は故郷で元気で居るし・・・
「マリーも・・・父親の膝に乗ったりした?」
「あっ・・・え〜と・・・」
いきなり話し掛けられて、ビックリした。
あたしの父親も、あたしをよく膝に乗せてはくれたけど・・・
「・・・あたしは・・・何時も競争だったので・・・」
「競争って・・・ああ・・・兄弟が居たとか?」
「はい・・・兄貴と取り合いしてましたねぇ・・・」
全く・・・あの兄貴のお蔭で、随分ガサツになった気がする・・・
「マリーのお兄さんて・・・年が近いの?」
「はい。2歳違いですね」
「あら?じゃあ・・・今26歳?」
「え〜と・・・そうですね」
ルシェッタさんは嬉しそうな顔をしている。
どうしてだろう?
「彼と・・・同じ歳ね」
「彼って・・・ルシェッタさんの恋人ですか?」
「ええ」
本当に・・・その人が好きなんだなあ・・・彼女。
「良い人・・・みたいですね。その人」
「クライス君から・・・聞いたの?」
「詳しくは、聞いてないけど・・・一目置いているって感じで・・・」
あたしの言葉を聞いて彼女は首を傾げる。
「う〜ん・・・一目置くって言うより・・・頭が上がらないってトコかしら・・・」
「はい?」
「彼とクライス君って、4歳違いなのよ。
子供の頃の4歳って、大きいわよ」
年上って事だけで、アイツには勝てないと思う。
多分・・・その人、口が立つ人に違いない。
「ルシェッタさんの恋人って・・・本当に近々帰って来るんですか?」
「絶対帰って来るわ。1ヶ月以内にね」
力強く、彼女は言い切る。
この自信は、何処から来るのだろう?
「どうして、1ヶ月以内って?」
「だって、彼のお姉さんが結婚するから。
その式は、1ヶ月後なの。
絶対間に合わせる筈よ。
あの姉弟達の絆は、強いから・・・。
少し・・・妬けちゃう位ね」
「そうですか・・・」
あたしはこの時、ある事実を全く知らなかった。
ルシェッタさんは、あたしがその事実を知っていると思って話しをしていたのだけれど。
その事実は、1週間後、ルシェッタさんの恋人に意外な所で会った時に判明した
でも、それは、また別の話。
終わり♪
後書き
MIMI様のページに飾って頂いている作品です。
(そっちの方が、壁紙付きで綺麗です・・・)
最初は、「その2」で終わる筈だったのですが、ルシェッタさんが薬を作っている事を
思い出して、「その3」を創作しました。
この話の1週間後の話が「エルテスタ ゾーン」です。