ホワイトデーにはパイを

 

   「こんにちは。マルローネさん」
   クライスがマリーの工房を訪れたのは、3月14日。
   世間では、2月14日に女性から贈り物をされた男性が、お返しの贈り物をする日だそう
   で、街は恋人達で、あふれていた。
   年頃の娘であるマリーといえば、『あたしは関係無し!』とばかりに、今日もセッセと依頼
   をこなしていた。
   「あれ?・・・クライス・・・あんたの依頼の期限って、まだじゃなかったっけ・・・」
   「今日は依頼の事ではなくて・・・コレを差し上げようかと思いまして・・・」
   クライスが持ってきたのは、お菓子の箱だった。
   中には、アップルパイが入っていた。
   「これ・・・くれるの?」
   「はい」
   何故、クライスがこんな物をくれるのか、マリーには理解できなかった。
   「姉が・・・何を勘違いしたのか作ってくれたのですよ」
   「はあ?・・・何をどう勘違いしたの?アウラさん」


   クライスの話によると、アカデミーでホンの数個ではあるが、クライスはチョコレートを貰っ
   たらしい。
   (もちろん彼は、全部義理チョコだと判断した。贈った女性達の本心は判らないが)
   その内の1つを見たアウラが、マリーからのチョコだと勘違いし、お返し用にこのパイを
   作ってくれたらしい。


   「何で勘違いしたのかしら・・・アウラさん・・・」
   「味は良かったのですが、イビツな形をしていたので・・・」
   「ん?・・・それで、あたしが作ったって?!」
   「みたいですね・・・」
   意味ありげにクライスは微笑んだ。
   「どうせ・・・あたしは・・・不器用ですよ・・・」
   「まあ・・・そういう事で・・・姉の誤解は解けたのですが・・・パイの処理に困りまして・・・」
   「その・・・例のチョコくれた娘にあげたらいいじゃない」
   「勘違いされたら困るので・・・お返しは誰にもしなかったのです。
    もちろん、そのチョコの彼女にも」
   「それで、あたしに?」
   「依頼の報酬って事でどうですか?
    好きでしょう?お菓子は」
   「まあねぇ・・・」
   マリーは考えた。
   確かに、アップルパイは好物だが・・・報酬の現金も欲しい。
   「じゃあ・・・報酬はチョット少なくしてあげる。
    台所事情が厳しくて・・・報酬も欲しいから。
    その代わり・・・アンタもここで食べてきなさい。
    お茶入れるから」
   こうして、2人のお茶会が始まった。


   「でもさあ・・・何でパイなの?
    お返しって、・・マシュマロじゃなかったけ?」
   パイをパクパク食べながらマリーは言った。
   「最近は違う様ですよ。クッキーが主流で、後は・・・お茶とか・・・」
   「へぇ・・・パイっていうのは、いつからなの?」
   「今年からですね。街のお菓子屋が言い出したそうです」
   それを聞いて、マリーはため息をついた。
   「何でもいいから、お菓子を売ろうって事かな・・・」
   そう呟くマリーを、クライスはじっと見ていた。
   「理由は・・・在るんですよ。
    もしかしたら・・・パイが主流になるかもしれない程の理由が」
   そう言って、クライスはニッコリと笑った。
   「何?」
   「当ててみてください」
   「はあ?」
   マリーは、素っ頓狂な声を出した。
   「理由を当てろって?
    当てたら・・・何かあるの?」
   「そうですね・・・報酬は最初の通りの料金支払いましょう」
   「よーし!えっーと・・・」
   マリーは、必死に考えた。
   でも、お手上げだった。
   「えーん・・・判んなーい!」
   両手を挙げて降参のポーズを取ったマリーを見て、クライスは嬉しそうに微笑んだ。
   「じゃあ、お教えしましょう。
    マルローネさん、円周率・・・知ってますよね?」
   「えーと・・・円の直径の約3.14倍が円周の長さって事?」
   「はい。知らなかったらどうしようかと思いましたが・・・知ってましたね」
   「それ位知ってるわよ!」
   「じゃあ、その円周率は何と呼ばれていますか?」
   「えーと・・・π(パイ)・・・えっ?パイ?」
   「そう・・・では・・・今日の日付は?」
   「3月14日・・・なるほどね・・・それでパイの日・・・」
   「はい・・・なかなか面白い理由でしょう?」
   「うん!思いついた人って凄い!」
   マリーは、実に嬉しそうに笑った。
   「でもさあ・・・今年・・・男性からのお返しでパイを貰って、首を傾げている女性・・・
    絶対いるわね・・・」
   「そうですね・・・」
   クライスも普段見せないような笑顔で言った。


   来年のこの日、2人がどうなっているかは誰にも判らない。
   もちろん、本人達にも判らない。

 

終わり♪


 

後書き

     

        あまりにも、クラマリを書いてないし、メインで書いてる話が暗いし、
        それと、「パイの日」の話を聞いて、急に思い浮かんだ話です。
        「3月14日にパイを贈ろう」って動きは本当にあったそうです。
        書いてて凄く楽しかった話です。

 

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