「イリー・・・手を出してみて?」
「えっ?・・・」
寝台に座っている美女は、目の前に立っている男を見た。
彼女の名前は、イレジーヌ。
親しい仲では、イリーと呼ばれている。
青銀色の髪と、青紫の瞳を持つ、かなりの美女だった。
彼女の前に立っているのは、濃い茶色の髪に、濃い緑の瞳を持つ男。
イリーの夫のラディウス、愛称『ラディ』である。
彼も、整った顔立ちをしている。
じっと、夫を見たままの妻の元に、ラディは近付き、妻の左手を取り、薬指に指輪を嵌め
た。
「これ・・・何の石?」
「コメートだよ。
錬金術で作る石らしい・・・」
「錬金術?」
「最近・・・コメートを婚約指輪にするのが、流行っているらしいよ。
そう言えば・・・結婚指輪、無かったからさ・・・」
イリーは、自分の左手に嵌められた指輪を、暫らく眺めていた。
そして、小さく呟いた。
「指輪っていうのは・・・良い考えね・・・」
「・・・良い考え?」
「ねぇ・・・ラディ?」
イリーは、ラディを見上げて、ニッコリと笑った。
「あと二つ・・・作って貰えないかしら・・・指輪・・・」
「どうして?」
いきなり、よく判らない事を言い出した妻に、ラディは尋ねた。
「私ね・・・子供達に・・・何か形が残る物を残したいって・・・ずっと思っていたの。
この指輪を見て・・・思い付いたの。
娘には、本人の物として、息子には、彼の選んだ女性の物として、指輪を残したらどうだ
ろうって・・・」
ラディとイリーとの間には、6歳の娘『アウラ』と、3歳の息子『フェザラート』が居た。
そして、イリーのお腹には、3人目の子供が宿っていた。
「あのなぁ・・・これは、お前に贈る指輪なんだぞ・・・。
結婚指輪だって、言っただろ?」
「・・・要らない・・・」
「へっ?」
「言った筈よ。
『指輪なんて、要らない。貴方が居れば十分よ』って。
だから、これは、アウラにあげる。
フェーザと、お腹の子供の分も、要るでしょう?
だから、あと2つ、作ってよ」
イリーは、物をねだる子供の様に、首を傾げて、ラディを見た。
暫らく、妻の顔を眺めていたラディは、大きくため息をついた。
本来の目的と違ったが、仕方が無いと思いながら言った。
「判った・・・あと2つ、錬金術師に依頼しておく・・・」
「本当?
ありがとう!」
イリーは立ち上がり、ラディに抱き付いた。
「大好きよ・・・ラディ・・・」
「・・・はい、はい・・・」
耳元で囁くイリーの甘い声に対して、呆れた口調で、ラディは答えた。
(全く・・・この女は・・・全然変わらないな・・・子供の頃から・・・)
ラディは、腕の中の妻をゆるく抱き締めながら思っていた。
時には、やんわりと、時には、強引に、自分の意志を通し抜いてきた女性。
それが、イリーだった。
ある事情で、誰とも結婚をしないと固く誓っていたラディを、かなり強引に口説き落とした
のが1番の偉業だと、友人達の間での統一の意見だった。
だが、イリーは、長生きできない運命を背負っていた。
心臓に欠陥が在り、20歳を超えられるかどうか判らなかった。
だからこそ、彼女は、愛する男性を手に入れるのに必死になった。
そして、そんな彼女に捕まったラディは、一緒に居られる時間が少ない事、彼女亡き後、
子供を1人で育てなければいけない事を承知の上で、結婚した。
そして・・・イリーは、現在26歳になっていた。
奇跡と言って良かった。
「・・・ラディ・・・」
「愛してる・・・イリー・・・」
ラディは、イリーの口元にそっと口付けをした。
(どうか・・・3人目の子供も無事産まれます様に・・・。
この奇跡が、もう少し続きます様に・・・)
ラディは、、妻の腰まで伸びた癖の無い青銀色の長い髪を指ですきながら、彼女を抱き
締めていた
イリーが起こした奇跡は、2年後・・・終わった。
ラディの元には、3人の子供と、3つの指輪が残された。
イリーが望んだ通り、指輪の1つは、娘の右手に嵌められる事となった。
2つめの指輪は、天涯孤独の少女の左手に嵌められ事になる。
そして、3つめの指輪は、ザールブルグで、様々な伝説を作った少女の左手に嵌められる
事になる。
すべては、イレジーヌと言う女性の望みのままに・・・
終わり
後書き
『1000番』をお取りになった『さんご』さんのリクエスト小説です。
「何でも好きな話を」と言って頂いたので、3つ候補を挙げて、選んで頂きました。
ラディ&イリーは、最近ちょっとマイブームなカップルです。
きっと、美男美女に違いないなぁ・・・とか。
実は、この話の最後に、3歳のフェーザ君が出てくるオチだったのですか、
『憧れの人』と同じ様な役割だったので、ボツにしました。
(ラブラブモードの両親に、水を差す息子ってオチで、3歳にして、お邪魔虫の素質
発揮?)
おかげで、暗〜い話になってしまいました。
それに、この話・・・アトリエ小説って言えるのかな・・・。
登場人物、オリキャラだけだし。
一応、この指輪を作ったのは、リリーさんって設定にしているのですけどね。