『やきもち』


部屋の隅で、背中が丸まっている。いや、正確には人が背中を向けて丸まっている、と表現すべきなのだが、しかし…。
カズはその背中を眺めながら、声かけたくないなぁ、と心の中でため息をついた。とりあえず、自分のせいだという事は分かる。けれど、理由がつかめない。今日の行動や会話を思い出してみても、なにか落ち込むようなことをしたとは到底思えない。
それでも、自分のせいなのだ。おそらく。
再度、心の中でため息をつきつつ、明るい声で話しかける。
「あのさ、ほら、天気いいしさ、外でエアトレックとか、やらねぇ?」
無言。
「じゃあ、なんか飲む?それともなんか、食う?」
無言。
「…おーい」
やはりイッキからの返事はなく、ちいさくうなだれた。
理由が分からないのが困る。理由が明確になり、自分が悪いのであれば謝るつもりはあるが…しかし、理由も分からぬまま謝るのは、嫌だ。
さて、どうしたものかとあれこれ考えていると、部屋の隅から声がかかった。
「…お前さ」
「なに」
「オレが隣のクラスの女の子としゃべってた時なんて思った?」
「かわいい子と話してるなー、って」
「それだけ?」
「…あいかわらず、モテるなって」
「そんな当たり前の事しか思わなかったのか?!」
何を伝えようとしているのか分からず首をかしげると、何故か怒ったような顔をして詰め寄ってきた。その勢いに思わず後ろへ下がったが、目の前の人物はその分上体を突き出し、目の前で叫ぶかのように言葉を告げた。
「他にもっと、こう!」
「もっと…こう…?」
不思議そうな顔をしてみせると、目の前で唇を噛みしめられた。ちいさくうなっている。
「じゃあ、オレが、亜季人と一緒にいる時、どう思う」
「どうって…仲、いいなぁ…、とか」
目の前で顔が引きつっていくのを見て、思わず目を反らした。なんなんだ、一体。
「べったりくっつかれている時は」
「…別に…」
「別に?!別にだと?じゃあ、ちゅうされたのを見た時は!」
「…ごしゅうしょうさま?」
その瞬間の顔をどう表現すればいいのか。落胆と不幸が重なったかのような顔をしてがっくりとうなだれた。
「あのさ、オレになにを求めているわけ?」
「それは…その、あれだよ」
「なに」
「だからさ、あるだろ?!…お前さ、好きなんだろ?オレの事。だったら、あるじゃねぇか!好きな奴が他の奴と仲よさそうにしてたらさぁ!」
縋るようにしてこちらを見つめてくる目を、まっすぐで冷静な視線で受け止める。見つめあって暫く、気まずくなったのか、目を反らしながら、なにごとか呟いている。その様子にため息をついた。
「やきもち、やけって事?」
「いや、そこまではっきりとは…」
「そーいう事じゃん」
落ち込んでいるから何事かと思えばそんな事だったとは、心配する事はなかったなぁ、と肩を落とした。
「亜季人がお前にべったりなのも、女の子と話すのも、いつもの事じゃねぇか。なんでわざわざ妬かなきゃ…」
「心配じゃねぇのかよ。他の奴と、くっついたらとか」
「俺さ、お前と…つき合うとかってほとんどあきらめてたし、それでいいかなと思ってた…多分、今も思ってる。理由は言わなくても分かるだろ?まぁ、妬くこともあるけど…、イッキが他の奴にかまってるぐらいじゃやきもちなんて」
言葉を遮るように真剣な顔をして、どういう状況だったら妬くんだよ、と聞いてきた。その質問に困ったような顔をする。
「それは、お前が他の奴ばっかりで…かまってくれない、時…とか」
照れをごまかすために笑って、言葉を続けた。
「つぅか!イッキがモテるのは割と、平気だし!それどころか、…うれしい、気がする」
なんでこんな事を言わねばならないのか、恥ずかしさでまともに顔を見る事ができない。
「お、お前ってやつはぁ!」
叫ぶと同時に力いっぱい抱きすくめられた。痛い。
「なんかもう、咢と話してるのを見てむっとしてる俺って心せまいよな!いやぁ、俺があんぐらいでむっとするんだったらお前はもっとやきもちをやくだろうなぁなんて思っててさぁ。それなのに、そんな素振りまったくなしで、俺の方が惚れ込んでるみたいじゃん!あっちから好きだって言ってきたのに!俺の方がべた惚れかよ!それってなんかくやしいじゃねぇか!なんて思ってる俺ってなんか、なんか心せまいよな!」
落ち込みっぷりはどこへやら、随分と饒舌にまくしたてると、笑顔で、頬やら額やらに唇を押し付けてくる。なんて単純な男なのだと、なすがままになりながら、思った。






---2004/0514/イキカズ