分岐点。互いの勝利を願いつつ、足を踏み出した。ところが、すこし足を進めるとぴたりと歩みを止めた。もうひとりも怪訝そうに立ち止まる。
「…あいつさ、言ったよな」
にやけていて気持ちの悪いイッキの顔を見ながら、誰だよと言う。
「俺に、勝てって」
人の話を聞け、といった言葉が耳の端にも届いていないらしく、ひとり笑い出してはにやけている。おいおいそんなんで大丈夫かよこのバカカラス、思ったが声には出さなかった。無意味だという事はわかっている。
「がんばるぜー!」
やる気はみなぎってるらしい。歩き出した後ろ姿を見て不安になった。
「…遊びに行くんじゃねぇんだぞ…」




ミューテが終わったら起こして、と言っておきながら、眠る事ができずひとり悶々と考え込んでいた。思い返してみよう、あの台詞を。

アイオーンの…

アギト流の悪口だという事も考えられるのではあるが、しかし、そう言われるのにも理由があるはず。普通のサラリーマンだと思ったのに(本当にサラリーマンかどうかは知らないが)まさかそんな属性があるとは思いもしなかった。
問題は、誰が戦うか。
考えても仕方のないことではあるが考えてしまう。ニギリや仏茶ならいい(いや、よくはないが)ホモといえども好みがあるだろうし、万が一、ニギリや仏茶のようなタイプが好みだとしても、笑い事で済ませられる(気がする)
けれど。
そこまで考えると、イッキはため息をついた。
誰と当たるかは運次第。その運次第が、困るのだ。
「…くじ運ないからなぁ…あいつ」
誰にも聞こえないように呟いた。


その数時間後。
「ちょーっと、待て」
「なんだよ」
呼び止められ、振り返る。真剣な顔をしたイッキと目があった。すこしたじろぐと、肩に手を置かれた。
「ズボンのベルトをしっかりしめて、フードのヒモをしっかり結べ」
真顔で言う事じゃないだろう、思ったが、あまりに真剣なので言えなかった。かわりに
「なんで?…さっき、咢にも同じような事言われたけど」
「安全対策」
「…なんの?」
「お前のだよ!そりゃあよーまだあの眼鏡とって決まったわけじゃねぇけどさぁ!」
「なんであの人だと安全対策が必要なんだよ」
「お前…聞いてなかったのかよ。ホモだぞ?」
「そういや言ってたな。けどバトルには関係ないだろ」
「…わかんねぇだろうが!それにバトル中は関係ないかもしれねぇけど、バトル後は?!」
わたわたと慌てるイッキの姿に思わず吹き出す。
「心配ねぇって。そんな事よりもどうやったら勝てるかって方が大事だろ?」
「それは…そうだけど、でも!俺だってまだなんにもしてないのに、先にあれやこれをやられたらどうしようかと!」
「イッキ…」
穏やかに微笑む。そして、拳を固く握り、振り上げると力を込めてイッキの頭の上に落とした。
「こんのバカ!結局それか!」
殴られた箇所を押さえ、半分泣き声になりながらも言いつのる。
「…だってよぅ、好きなやつに触りたいって思うの、当たり前だろ?なのにさぁ、ガード固いしさぁ」
唇を尖らせて、子供みたいな口調で呟かれ、肩を落とした。
「しょーがねぇだろ。まさか、お前とこういう事になるなんて、無理だって思ってたから…そーいう事、考えてなかったの!心の準備が出来てないんだよ」
「じゃあいつできるんだよ。一体、いつ、体をまさぐらせてくれると!」
「その言い方はやめろ!…そうだなぁ、試合、勝ったらな」
あっさりと出された言葉に、真顔になる。
「本当に?」
「本当に」
「嘘、つくんじゃねぇからな!」
「おう」
目にいきいきとした光を宿らせ、スキップせんばかりの勢いで歩く。
その横を歩きながら、心のなかで思う。
(この試合に勝ったら、とは言ってねぇけどな)

その事にまだ気付いていない。おそらく気付くのは、試合が終わった後だろう。








---2004/0514/イキカズ