『その後』




南樹、中学3年生、性別は男、この度恋人が出来ました。なぜか、胸も膨らんでない、あまつさえ同じ物を所有している、しかも10年来付き合いのある男、だったりするのです。なぜこんな事になったかと申しますと、話せば長く…


「…イッキ?」
怪訝そうな声で我にかえった。声の主は声と同じく怪訝そうな顔で尋ねた。
「なんで…壁に向かってしゃべってんの?」
「いや…別に、なんでも、ない」
ごまかすように笑ってみたり。
「そっか」
「うん、そう」

今、目の前にいるのがその、恋人だったりする訳で。
どっからどう見ても男にしか見えないし、正真正銘、性別は男。顔立ちが女っぽい訳でもないし、特になにか可愛いと思うような所はない、はずなのだが。

はずなのだが。


「あのさ、この間…ありがと、な」
「この間って?」
「…だから、その、イッキとこうやっていられんの、うれしーなぁって」
ふにゃ、と頬をピンク色に染め、はにかみながら、小首をちょこんと傾げての台詞。
一瞬、思考がどこか遠くに飛んでいった。
もしくは、巨大な矢が胸に突き刺さった、みたいな。
おいおいおいそれはいかんだろ、と我にかえった。なにがいけないのか、自分でもよく分からない。
つまり、可愛いと思ってしまったのだ。

今日だけではない。
つき合いだしてから、なぜか、今まで気付かなかった癖や仕草、何気ない動作に、なぜか、反応してしまう。さっきの笑い方だって、なににやけてんだ、と今までは言えたのだ。


それなのに、今、返せる言葉ときたら…


「おぅ…」
その一言だけ。
他の事を言おうすると、余計な事まで口走ってしまいそうで、つい口を噤んでしまう。
「あ、今さ、俺、変な顔で笑わなかった?」
ちょっとにやけたみたいな、と少し上目遣いで心配そうに聞いてきた。
思わず、可愛かった、と口走りそうになり慌てた。
「べ、別に…そうでも、なかった」
なんとか呟くように言葉を返すと、気付かれないように息を吐く。
「なら、良かった。…でもさ、本当にその、つき合うの、俺でいいの?」
「…お前なぁ、何度言わせるんだよ。いーの!お前で!」
「なんか…不安でさ!悪いな、何度も」
にっ、と笑う。
笑顔を目の当たりにして、心が疼いた。顔をほんの少し近付けると呟く。
「…あのさ、チューしていい?」
返事を待たずに唇を押し付けた。聞く意味ねぇじゃん、と自分で思う。
「こ、こんなとこでいきなり…っ、誰かに見られたらどーするんだよ…」
頬を極限まで赤くしながら、呟く。語尾がちいさくなっていくところがなんとなく、可愛い。



誰かに見られたら。
考えなくても恐ろしい事なのだが、何故だかそんなに気にした事はない。
目の前で可愛いと思うような仕草や動作をされると、他の事がどうでも良くなってしまう。
つき合い始めてから変だ、と自分でも思うのだが…。
実は心の奥の方では好きだったのだろうか、それともつき合い始めて恋愛対象として見ているからなのか。
何度か考えてみたが、元々物事を丁寧に考えるには向いていない頭。すぐに行き詰まってあきらめてしまう。

(つき合っていいと思った理由…)

カズには、お前にだったらキスできるから、なんて言ったが。
そのキスできると思った理由が、自分自身知りたいのだ。好きだと言われた時のことを思い出してみる。
頬を紅くして、泣き出しそうな声でちいさく、好きかもしれないと呟いた。
何を言われたのか理解できずに数秒、カズの顔を見つめた(うつむいていたため表情はわからなかったのだが。見えたのは帽子と鼻の頭と紅い頬、そして噛み締められた唇、そのぐらいだったと思う)。

友情とかじゃなくてそういう意味で?

その問いに、冗談だと言った。
見ているこちらが切なくなるような、痛々しい笑顔で。無理をしている事はすぐに分かった。


(どうにかしてやりたい、と思って…)


一時的な感情で返していい答えではない。
それに男を恋愛対象として見る、考えた事なんて一切ない。だからためらった。時間が必要だと思い、そう伝えた。


その夜、思い出していたのは、今までの思い出。それから、うつむいた顔、泣き出しそうな声、震えていた指。それらを思うと、何故かいたたまれない気持ちになった。


それと同時に、愛しい、と思った。そう、思ってしまったたのだ。


何故そう思ったのか、それが知りたい。けれど、明確な答えを出す事が出来ずに、頭を抱えた。
「…俺って頭、悪いなぁ…」
聞こえないように呟く。それから、カズの方を見た。
「なぁ、頼みがあるんだけど」
「なんだよ」
照れもなく、いつもの笑顔だ。じんわりと、いいなぁ、と思った。笑顔は、好きだ。好ましい。
「もう一度ちゃんと好きって言ってくれねぇ?」
回りくどい言い方じゃなくって、と付け加えた。その言葉に、分かりやすく頬が紅くなった。可愛いなぁ、と思う。…なんとなく。
「あー…、と。うん、…言う」
きちんと正座をして、真正面から見つめる。
「俺は、イッキの事が、…だ」
息を吸う。
「…大好き、です」
言うと、そのまま頭を地面にこすりつけた。照れているらしい。
ぐらり、と脳が揺れた。心臓がやたらうるさい。体温が上昇する。…何も言えなかった。
ぺちぺちと紅くなったのをごまかす為か、軽く頬を叩きながら、顔を上げて、ちょっとすねたようにカズが言う。
「なんだよ。人にもう一回告白させておいて…照れるなよ」
そこでようやく自分が照れている事を理解した。






---2004/0910/イキカズ