学校帰り。
春休みはついこの間終わったばかり。
時間があるし、と家に帰る事もせずに公園でエアトレックの練習。

その途中、休憩でもしようかと鞄を置いたベンチに向かった。

そして固まる事、数秒。
そして声をかけられて座る事、数分。

「…いつから」
いたのだろう。自分が気がつかなかっただけなのだろうが、戦っている最中に背中をとられた、そんな感じがした。
「先程です」
にこやかに答える。
はぁ、そうですか、と小さく呟いて俯き、隣でにこにこと満面の笑みを浮かべる人物から、距離をとった。
なんでこの人、いるんだろう。
質問として音にした場合、思わず逃げてたくなるような答えが返ってきそうで、口に出さなかったのだが、何故か、心の声を読み取ったかのようにその人物は言葉を発した。…それは予想通りの答えで。
「君に会いに来たんです」
さらりと、落ち着きのある心地よい低さの声でそのような事を言われたなら、思わず舞い上がってしまうだろう、女性ならば。
その整った顔立ちに、柔らかい微笑みをのせ、眼鏡の奥から(ダテではありますが)優し気に見つめられたら、思わずときめいてしまうだろう、…女性ならば。
けれど、その人物の横に座っているのは、柔らかい色をした髪を帽子の下に隠し、不安と困惑が入り交じった顔をして、ため息をつく学生服を着た男子中学生なのだ。繰り返すが、男子中学生。
困る男子中学生をよそに、その人物は微笑んで顔を覗き込んだ。
いつのまにか、肩がふれそうな程近くに座っている。
「大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
曖昧な笑みを浮かべ、大丈夫です…、と消え入りそうな声で呟いた。
「かわいい顔が台なしです」
なんでこんな事が真顔で言えるのだと、耳を塞ぎたくなった。バトル中に聞くのと、こうやって改めて言われるのとでは大いに違う。バトル中なら相手を混乱させる為にとか惑わす為にとか理由をつけられるのだが…。
「…俺よりかわいい、子っていますよ…」
声を絞り出した。声が上ずったうえにいつもの口調をすっかり忘れている。
「ほら、咢、とか…」
「あの眼帯をした子ですか?」
力なくうなずく。
「顔も、美形だし…その、趣味のこと、戦う前から、知ってたし、だから…」
咢に聞かれたら怒られるどころか殺されるかもしれない、けれどこの状況の方がずっと恐かった。
「そうですね…確かに彼は顔も整っていますし、悪くはないと思います」
けれど、と言葉を続ける。
「僕の好みからは少しはずれているようです、嫌いではありませんが。まぁ、彼を口説いたところで…、大変でしょうね。それに君の方がずっと…可愛いですよ」
最後の言葉を聞かなかった事にして、少し考えてみた。…さすがに死人は出ないだろうが、怪我人が出ることは間違いないだろう。
間違ってもその現場にだけはいたくないなぁ、と思った。
その様子を見つめながら、左はぽつりと呟く。
「…なんにせよ、相性は最悪でしょうから」
それと、とやや大きい声を出した。
「僕の趣味の事を知っていたのは、まぁ、戦った君なら分かりますよね。モニター中継もされていますし。それに、彼ほどのライダーならばそのぐらいの情報は知っていると思いますよ」
そうだ、そうだった。可愛い顔をしているね、と同性のあごをすくいあげる人のどこがホモっぽくないと言うのか。咢なら、それが不確定だとしても、ホモと言うだろう。
「…じゃあ、同じチームの人とか…てっとりばやいし…」
てっとりばやいってなんだ、と自分でも思ったが、言ってしまったものは仕方がない。心の中ですみませんと謝っておいた。
「宇童くんにはエアトレックのバトルで負けてしまいましたし、リーダーですから。板東くんは…エアトレックでは勝ちましたが、その後の接近戦で。あの腕力ですから」
ああ、そうだ、イッキより力があるんだっけか、とぼんやり考えた。その後の接近戦とか、なんだは考えないようにした。考えるのが恐かった。
…きかなきゃよかった。
心からそう思うと同時にふたりに同情する。が、いまはそれどころではない。いつの間にか、左手に手を重ねられている。左手を引きつつ
「えっと、じゃあ…あとは」
「黙りなさい」
笑顔のままそう言うと、指を軽く唇に押し当てられた。逃げようにも、いつの間にやら左手をがっちりと押さえつけられている。
これは、ピンチ?いやいや、なにもこんな外で、こんな時間に、なにかしようというわけではないだろうが、ないのだろうが…。
「今、僕は君以外の人には興味がありません」
あってくださって結構です、と言いたかったが、なにか言葉を発すると己の身になにか、恐ろしい事が降り掛かりそうで、声にならなかった。
「だから、こうやって珍しくも、なにもせずに話をしようとしています。分かりますか?」
そう言うとにっこり笑って、唇に押し当てていた指をはなした。
珍しくも?なにもせずに?その言葉にひっかかりを感じながら弱々しく頷いた。






---2004/0514/左カズ