キーンコーンカーンコーン

だいぶ蒸し暑くなってきた6月初頭

耳の中にHRの終了を知らせるチャイムの音が飛び込んでくる

うちのクラスは最後の授業の教師とうちの担任が同じだったこともあり早めに終わった

今はお気に入りの場所、屋上で軽く本を読んでいる

風が心地よいが、ケツがひんやり冷えるのはいただけない

「おお、やっぱりここだったか?」

「何か用か? 麦丸?」

千谷麦丸。それがこいつの名前

かなり明るい奴で、ムードメーカー的存在

中学時代からのつきあいで、所謂腐れ縁という奴だ

「んで、何やってんの? 唐沢?」

唐沢。オレの名字。名前は葉月

普段から家にいない両親につけられた物

「見て分からんか? 本を読んどるんや」

「ほほう、何という本かな?」

「『楽しい針治療』。読むか?」

本の表紙を麦丸に向けた

白い表紙にカラフルなフォントのタイトル

更にタイトルの下には針治療の写真が貼られている

「……お前そう言うの好きだな」

「趣味の一種や。悪いか?」

そう、それが俺の趣味だ

別に針治療が趣味というわけではなく、出来ないことをやろうとするのが趣味だ

理由としてはオレの中に眠る知的好奇心がそうさせるのだ

「そういや、お前がわざわざここまで来るなんて珍しいな。なんか用?」

「久々にカラオケでも行こうと思ってな。行けるか?」

「カラオケか…… しばらく行っとらんからなぁ。んじゃオレも行くわ」

「よっしゃ。唐沢も追加と」

麦丸は昔から歌が好きな奴である

上手い下手で区別する場合、どっちかと言うと下手だ

歌うことを趣味とし、ストレス発散とする

賑やかな麦丸らしい趣味だと再認識出来るな……





ヴヴヴヴヴッ!




不意に、制服のポケットの中に入ってる携帯が揺れだした

そっか。マナーモードにしてたんやった

うちの学校は携帯持ち込み禁止なので当然と言えば当然だ

「ちょっと待て。電話鳴った」

屋上から立ち去ろうとする住崎を呼び止め、携帯を取り出す

着信は…… 小さいオッサンと示されている

折り畳まれた携帯を開き、受話ボタンを押す

「ん」

『やあ、葉月くん。1ヶ月ぶりくらいですね?」

「ああ、まあそんなところやな」

電話の向こうにいる人…… 

本名忘れた…… ちなみに俺は小さいオッサンと呼んでいる

「で、今日はどんな厄介事を押しつける気や?」

『まあ、そう身構えないでくださいよ』

「この前身構えずに対応したら大量の事務を押しつけられたんですけど!」

少々嫌みったらしく言ってみる

『忘れてください。僕だって大変なんです』

そう、このオッサンは大変なんだ。色々と

だからといってオレに手伝わせるのはどうにかして欲しい

『で、本題です』

声がいきなり真剣になり、電話越しに緊張感が伝わってくる気がする

だが、GWの時、同じパターンで海外に飛ばされてしまった

おかげでGWが台無しになった。予定無かったけど

『ある人に会って欲しいんです』

「は? 会って欲しい?」

『そう、会うだけです』

「一体誰に?」

『それは会ってからのお楽しみです』

「会って……どうするん?」

『まずその人の話を聞いて下さい。そこから判断してください』

会って判断しろ……と

ツーか、得体の知れない人物に会う気など起きるだろうか? いや、起きない

しかも紹介人は厄介事を押しつけてくるオッサン

行く気が相乗効果で削がれていく

「めんどくさいから会わん」

『今月給料無しでいいですか?』

「で、何時会えばいいんや?」

所詮はオレも人の子

銭と泣く赤ん坊と冬瓜には弱いのだ

『ありがとうございます。で、待ち合わせ時間ですけど』

「ああ、ちっと待って」

携帯を耳から離し、マイクの部分に親指を当てる

「なあ、カラオケって何時までやるん?」

屋上の出口の扉にもたれかかっている墨崎に訪ねる

「ん? 歌い放題コースでみっちり4時間」

4時間か…… それなら満足できるまで歌えるな

再び携帯を耳に当てる

「んなら待ち合わせは9時で」

『ちょ、ちょっと待ってください。もうそっちに向かってるんですよ!』

何と計画的な……

こういう用意周到さ、相も変わらず流石だと感心してしまう

「じゃあ9時にホイホイの公園で」

『ああ、ちょっとま……』

よし、これでホイホイの公園に9時に行くだけだ

「誰から電話だ?」

「ん、間違い電話や」

「ずいぶんと豪快な間違い電話だな……」

「んなことより早くカラオケ行くぞ!」

自分の灰色の髪を掻き上げつつ、屋上を後にした












万人に『魔界が存在する』と言ったらどれだけの人間が信じるだろうか

いや、おそらくその手の人間以外は信じないだろう

しかし確かに魔界は存在する

だがそれを一般市民が認知していないのは

正式名称、超能者退魔協会。通称協会が背後で動いている所為だ

協会の仕事は魔界から迷い込んだ魔物を強制送還、または退治

他には悪魔払いくらいだ

魔物は魔界と人間界の間に生じた亀裂に迷い込んで来る場合が多い

ちなみに人間界から魔界に行くケースは少ない

人間界には亀裂の原因となる魔力の収縮が少ないからである













只今時間は8時半

かなりエキサイティングなカラオケだったな

「さて、そろそろ迎えに行っか」

目標はホイホイの公園

住宅街からやや離れたところにある大きめの公園だ

正式にはホイホイの公園という名前ではない

その公園には一般人には分からないような結界が貼られている

魔物はその結界に惹かれ、その中で過ごす

つまり魔物をおびき寄せるゴキブリホイホイのような公園なのである

なんて考えているうちに公園はもう目の前だった

だが、公園に近づくに連れてこの肌に刺さるような感覚……

間違いない。誰かが魔法を使っている

しかもかなり強力な物。これほどの魔力を消費しなければならない相手……

ヤバイ予感がする…… 急ごう!






予感的中

一匹の魔物と一人の少女が対峙している

魔力はあの少女から感じる物だった

かなり強力な防御呪文を使って盾を構築している

魔物の方は犬型で体長は2メートル程度

しかし、あの程度の奴でここまで強力な魔法を使わなくても良いだろう

「おーい、とりあえず大丈夫か?」

少々やる気のない声で盾を構築している少女に話しかけてみる

「この状況見て、大丈夫といえますか!?」

大声での反論。どうやら大丈夫のようだ

しかし、相手の技量をはかれていないところを見ると実戦慣れはしていないらしい

……さっさと助けるか

「今から助けたるからもう少し踏ん張れよ!」

「わ、かりました!」

背負っていた鞄を降ろし中から一本の短刀を取り出した

水晶を削り、聖水で浄化した特注品だ。作ったのはオレだが……

さて、戦闘開始と行くか!

相手が犬型。ほとんど行動パターンが同じなのが特徴

故に戦略を立てやすい

と言うことで狙うは瞼の上! 出血さて、血を眼まで流し視界を奪う

跳躍。全力で地面を蹴る

目標との距離は20メートル。一蹴りで約8メートル、約3歩で目標まで到達

一歩目! 目標はまだ目の前の少女に気を取られている

二歩目! 踏み込んだ時点で水晶刀を逆手に持ち直す

三歩目! 既に目標は目と鼻の先

そしてすれ違いざまに…… サクッと……

両瞼の上を斬った……

「クガァァァァ!!?」

背後に立つ魔物から発される苦痛を訴える咆吼 そして狙い通り出血

軽く斬っただけやのに、大袈裟な……

まあ、魔物がどうであれ隙が出来たわけだ

「今のうちに離れとけ!」

「は、はいぃぃ!」

急いで魔物の前から離れる少女

そうや、それでいい。これで……

「思いっきり魔法がぶっ放せる!」

水晶刀を地面に置き、空いた両手で印を切る

他に類を見ないオレだけの魔法陣

その描いた掌ほどの魔法陣を一気に握り、腕を前に差し出し掌を一気に開く

魔法の発動である

「千本縛鎖……」

ボソッと、呟く

眼を己の血によって潰された魔物の下に、目標より大きな魔法陣が形成される

何回、何十回…… いや、もしかしたら何百回と見てきたかもしれない光景

その魔法陣の上に立った者の殆どは……

「ァァァァァアアア!?」

無数の青白い鎖によって束縛される

藻掻き、抗う獣

その鎖は純粋な魔力によって構成されている。力では断ち切れるわけがない

「さて、そろそろ決めるたるか……」

また印を切る

今度は一つではなく10本の指で器用に10の魔法陣を描く

指先に魔力が籠もり、ジンジンと熱を感じる

それと同時に胸の奥から熱いモノがこみ上げてくる

戦闘になると気持ちが高騰してしまう…… 悪い癖だと自嘲する自分

「……やけどそれでもええと思う」

腕を前に差し出す

指先の魔法陣が消え、束縛された目標の周りに10の魔法陣が形成される

「この瞬間も満たされてると感じるからや!」

拳を握り、何かを引っ張るように自分の方へ引き寄せる

刹那

10の魔法陣から現れる幾十もの青白い魔力の剣と槍

それが一斉に的に向かって突き刺さる

「ッッッッッカァ!!?」

声にならない苦痛の叫び

全て急所を外してあり、一気に死にきれない分痛みが蓄積するのだろう

「今、楽にしてやる……」

ポケットから取り出したのは一つの玉

中には魔力、しかも空間転移の高等魔法が封印されている

空間転移は協会の中でもごく一部しか扱えない物

基本的に人間界に迷い込んだだけの魔物は魔界に帰すのが道理

だが、殆どの人間が空間転移魔法を使えない

だからこうやって媒体に頼り、魔法を行使する

その玉を傷付きまくった魔物の方へ投げる

玉は弾け、魔法陣が形勢。

そして、魔物は光と共に消えていった