ちょっと沈みかかった太陽を見つつ、青春を感じるのならこういう風な時なのだろうなと思いながら眼前の状況から目をそらす。
なんというかちらっと現実に戻ってみたのだが、13人ほどの人間が俺の方に向かって走ってくるのだ。
ついでに言うと俺の足元にはサッカーボール。これが目当てで走ってくるやつが5割を占めるだろう。
残りの5割は、そうだな。乱入した俺を殴りたいやつがタックルでもしにくるのが残りの5割と言ったところか。
「野郎を生かして返すな!!」
敵の一人が吼える。訂正ほぼ10割俺を殴りたいやつだろう。
何故このような状況かと言うと、試合開始直後ボールをキープしていたバルタン隊長からサイドに居た俺にパスが来たからである。
ちなみにボールをキープしているバルタン隊長はすごいものであった。
ひらっと敵を軽く避けてはボールをうまくコントロールしていた。
あれだけの敵に囲まれながらどうしてあそこまで上手く動けるのか、尊敬の一念だった。あの人なら一人で攻めることも可能だろう、例え18人相手でも。
(それなのに俺にパスしてきたってことは・・・・・・・俺を試してるってことか・・・・)
ふと一人目が近づき目の色を変える。
さっと足でボールに力を加えて避ける。
(上等!!しっかり見とけ、俺が仲間に値するかどうかってことをな!!)
妙な対抗意識を燃やしつつ、紫貴は走ってくる人間に向かって走り出す。
こちらから攻められるとは考えてなかったのか、不意を付かれたように一瞬の戸惑いを見せる敵の山。
紫貴はそこを見逃さない。最小限のボールコントロールでほぼ一直線の動きで敵の包囲網を突破する。
(人数が多いが・・・それだけだ!!これなら突破できる!!)
一区切りの包囲網を突破した後に次に審判される相手、近くにいた普通っ子にパスをまわす。
まあ、俺も他のメンバーの実力と言う者には興味があるため、バルタン隊長の方針に一応は従うことにした。
普通っ子は思ったとおり普通だった。
それは男並のプレイとして普通なのではなく、女子のプレイとしての普通だった。
一団となって襲ってくるそれに何もできることなくボールを奪われる。
(・・・・・・やっぱ普通だったか・・・・・)
そこに後ろから白衣をなびかせて爽快に現われて普通っ子が取られたボールを奪い返す白衣。
その後その一団を見事としか言いようの無い軽快なフットワークで流れるように抜ける白衣。
綺麗だ。ただ一つのプレイに心を踊らせ魅力された。
彼女もこの審判に気付いているのだろう。ほどよく抜いた後キャシャ坊にボールを渡す。
キャシャ坊はキャシャ坊で凄かった。ただ速いだけではなかった。普通ボールを持つと直で走れなくなるため速度が落ちるが、彼に至ってはそういう事は無かった。
速かった
(こりゃもしかしたら半数でも勝負になるかもしれねえな。)
その後続々と味方にパスが回る。一通り回ったところであらかたその人間の特性、行動範囲がわかった。あとは使えるか使えないかを。
まあ、見た限りでは普通っ子以外は最高級のプレイヤーと言っても過言ではない。
(つうかどうでもいいが、そんなやつらがだいぶ暇してんだな・・・・・小酒井、おめえは大会近いんだろうが・・・・・)
まあ、どうでもいい突込みをしつつ、バルタン隊長をベースに俺と白衣で攻め立てる。
「ジャンクロードヴァンダム最高!!!」
そんな意味不明のバルタン隊長の掛け声と共に俺達は一点を手に入れた。
チクショウ、この前のマキシマムリスク見忘れたよ、俺!!
「ひゃはー!!」
人造人間19号(あたり)と同じ掛け声をしながら兄貴と抱きつきながら喜ぶバルタン隊長。
ついでに俺も抱きつかれた。肋骨がミシミシ聞こえるのを聞きながら喜ぶのも一興だった。
もう一つついでに言っておくと、バルタン隊長と兄貴との抱きしめあいは見てるこっちが痛くなるほどミシミシと嫌な音を立てていた。
「この調子で行くぞー!!」
バルタン隊長の掛け声と共に活気ずく俺等。
敵の殺意が3割ほど増えたのも言うまでもないだろう。
終わったあとの逃げ道どうなってんだろう、と余計ながら大事なことを心の中で考えていた。
まあ、キャシャ坊がボールと共にゴールに突っ込みながら一点を追加したのはほどよく前半が半分ほど過ぎたあたりだった。
「結構できるものだよなー。」
「まあ、何だかんだいってうちらレベル高いよなあ。」
前半も終了。ほどよく平和に終わる。
ただ、嫌なことが起こりそうなのはいつだって後半だと言うことだ。
「じょにーのお兄さん、俺なんか嫌な予感してきたよ。」
「ああ、俺もなんか無事ですまないようなそんな気がしてきた。」
「気のせいじゃないよな。」
「気のせいじゃないな。」
ただなんとなく何かが起こりそうなそんな気分である。
むしろ紫貴にとってこんな騒ぎを起こすといつも半分ぐらいはうまくいくのだがもう半分はうまくいかないのが相場であった。じょにーにとっても以下同文であるが。
「後半始めます!」
スポーツ大会でのハーフタイムは短い。ものの一分で終わるからな。
一年の審判ももうヤケクソ気味であったが、まあ、俺らのせいじゃないよな。
「で、だ。後半は最近知事がなんかは知らんが出馬予定のアーノルドシュワルツェネッガーを称えてアグレッシブに行こうと思う。むしろお前等銃使っていいぞ!むしろアルミ弾を撃ち出すレールガンだって支給してやろうか?」
つうかこの人殺る気だよ。
「それはさすがにまずいだろ。」
おお、今まで後方に下がる頼れる兄貴が口を挟む。さすが兄貴だぜ。
「やるなら肉弾でやらねば。まあ、武士の情けとして遺言くらいは聞いてやるくらいの寛大な心を持ちつつな。」
・・・・・この人も何を考えてることやら。
そんなこんなで後半開始。
もうどうにでもなれだ。
開始線から始めるのは俺とじょにー。
じょにーが俺にパスを出してきた。
通常なら一旦後ろにパスをだし体勢を整えるのだろうけれど、裏をかき、パスと見せかけて一人で突っ込む。
バルタン隊長もそれを読んでいたのか、右サイドから走り込んできた。
逆サイドに小酒井一樹も走りこんできて、徹底して攻撃へと移る俺ら。
俺は一旦ドリブルをし、ちょうどいい位置まで来たならば、キラーパスの一つでもしようと思っていた。
のだが
カチッ
「?」
反応と環境は一瞬で変化した。
小気味よい音に耳を奪われ、あげく心まで奪われた、それはただの一瞬であったのだが、その一瞬がいけなかかった。
チュドーン
ただの一瞬のうちに俺は宙に飛んでいた。
「どぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」
わけもわからないまま宙を舞う。舞いながら味方の一人のテロラーがビッと親指を立てているのが見えた。
俺は綺麗な放物線を描いた後地面に顔から激突した。
「つうかマジでテロんのかよ、あんたは!!」
一瞬でがばっと顔だけ跳ね起きさせてテロラー先輩の方を見て一言物申す。
つうか前半あんまり活躍してなかったのはこれのためか・・・・・・
全員が呆気と取られた。そりゃそうだろう、いきなり地面が爆発して人一人が吹っ飛んだのだから。
ただ、一番まともというか気にせずプレイしたバルタン隊長はさすがと言うほかない。
「ふははははは、思い出すなあ、地雷原で殴りあったことを!」
つうかあんたどこの人間だよ。
さすがに体がまだ起き上がらないところをユリゲラーが肩を叩いてきた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。なんとか。だけどこれじゃ安心して走れねえ。」
「案ずるな。」
「いい案でもあるのか?」
「実は俺はユリゲラーの弟子なんだ。これぐらいの地雷の場所なら俺の超能力でわかる。」
・・・・・・さいですか。
もう声にもならない声を胸中でだけで呟いた。
「さあ、俺についてk・・・・」
かちっ ちゅどーん
俺を誘導しようとして一歩踏み出したユリゲラーが宙を舞った。
ていうか超能力は?
「まあ、こういうこともあるが俺が師匠から受け継いだ能力によりかすり傷もない。」
ふんっ、とよくボディビルダーがするようなポーズを取る。
そりゃ能力ってかただ頑丈なだけじゃねえか・・・・・・さすが陸上部、変人揃いだぜ・・・
また、走り出すユリゲラー。さすがは陸上部、足は結構速かった。
かちっ ちゅどーん
そして爆弾で飛ぶまでの速さも速かった。
あ、敵のかたまりも一気に吹っ飛んだ。
「つうかサッカーじゃねえな、これ。」
ただそれだけを思いながら立ち上がり、周りに地雷がないかどうかを見回す。
そして嫌味を含めながらもう一度テロラーの方を向く。
それに気付くともう一度ビッと親指を立ててきた。
そして手話を送ってくるテロラー。
「なになに、 あんしんしろ・・・・とらっぷは・・まだ・・いろいろとあるから
本気であの人ぶっ飛ばしたくなってきたなあ。」
そうしてる間にもバルタン隊長がゴール前まで攻め立てる。
さすがに十数名がほとんどゴール前で死守していればさすがのバルタン隊長でも苦戦していた。
まあ、ゴール前にいる連中はただ地雷が怖くて動きたくないというのが本音なのだろうけれど。
しょうがないから俺も援護しにゴール前を目標に走り出す。
せいぜい一介の高校のグラウンドである。ちょこっと走ればすぐにゴール前である。
「バルタン隊長!」
何とか動かない敵軍の隙を見つけた俺はそこを通してシュートをいれようと思い、バルタン隊長からパスを要求する。
「よしっ、任せたぞタイガー君!!」
ビタミンタイガー!とか掛け声をだしながらパスを出してくるバルタン隊長。一度この人の頭を覗いて見たいものだ。
それを軽くトラップし、ボールをほどよく自分の頭上あたりまで上げ、左足を軸としてボレーシュートをしようとした時。
詳しく言うならば、軸にしようと一歩踏み込んだ左足が地面に付いた時、またあの嫌な音を聞くことになった。
かちっ
地獄へ行き決定・・・・ただ心の中でそう呟いた。
何が起こるのかと覚悟を決めていたとき、ふいに浮遊感に襲われる。
今度は覚悟を決めていたため、そう不意打ちでもないため冷静、とは言い難いが前よりは何とか冷静を保ちながらそのトラップがなんなのかを見極める。
(クソッ!今度は落とし穴かよっ!!)
深さはそうないんだろうけれど、問題はそこではなかった。
俺はボレーシュートをしようと右足はもうシュート体勢になっていたのであった。
どういうことかと説明すると、俺の右足はもう体の軸と垂直、地面と水平になっていたのだ。
その状態からそう広くもない、おそらく半径30cmくらいの穴に落ちたのである。無論股を地面にぶつけた。
だいたい穴の広さを測った後ボレーシュートを実践してくれればよくわかるだろう。
そして納得してもらえるだろう。
ああ、こりゃ股打つな、と。
「(;゚Д゚)・・・・・!!!!」
本当に今度は声にならない声で悲鳴を上げる俺。
さすがのバルタン隊長も近づいてきてちょっと心配しながら肩を叩いてくれた。
無論、こぼれたボールで俺が通そうと思っていた隙を付いてシュートし、一点追加した後にだが。
曰く「まあ、戦場だし。目的達成が第一だろう。」とのこと。
敵がボールを開始線まで持っていく。
本来俺が敵陣のコートにいてはいけないのだが、さすがの敵チーム(全部男子)も俺の痛みを汲んでくれたのか、何も言わず試合を再開した。
微妙に人間の人情に触れました。
股を打ったため何故か痛む腹を抑えながら俺はとぼとぼと味方コートに帰っていった。