未だ痛む下腹部を抑えながら俺はとぼとぼとグラウンドを後にすることにした・・・
バルタン隊長がもう戦力外だろうと思ったのか、ただ優しさから休ませてくれるのか、そんな重大なこともふっとぶほど俺は腹が痛かった。

一応付き添いに白衣が着いてきた。
医療担当らしい。
妙な違和感を感じるのは気のせいだとし、今は気のせいではない腹の痛みを重要視することにした。

とりあえずもっと重要視するべき部分は俺と白衣は妙な被り物をしながらそれを人目に晒しながら歩いていることだったと言うことだ。もっともそんなことにはその時全く気付いてはいなかったのだが。

保健室についた俺はベッドに寝ることにした。
医療担当と言ってもこの症状には特に対処すべきことはないのだろう。

ふと顔に手がかかる気がしたと思うと、俺は自分が付けていたマスクを軽く白衣によって取られていた。

「紫貴、もういいでしょ、私の前でそんなものをつけたところで無駄よ。」

目の前に立っていたのは夜霞だった。相変わらず白衣は着たままだった。

「・・・なんで夜霞がここにいるんだ?」

本当にわけがわからない俺は痛むこともあいまって奇妙な顔をした。

「鈍感もここまで来ると病気よね。白衣の正体は私。アンダースタン?」

妙に綺麗な発音で言ってきた夜霞の言葉に俺は納得をするしかできなかった。

「でも、この状況ってあれよね。とっても私に有利な状況よね。」

「と、言うと?」

ガムテープを持った夜霞を怪しげに見ながら俺は言葉を返す。

「ほら紫貴は動けないんだし、私の思い通りってことじゃない。そこはほら、いろいろとできるチャンスじゃない。」

「今は素で止めてほしいんだが・・・」

「むー、つまんない。」

しょうがないなと夜霞は思いながらガムテープを元の場所に閉まってきていた。

紫貴の疑問として何故この保健室にはいっつも人がいないのかと言うところが気になっていた。

「暇なんだったら鞄持ってきてくれないか?」

「いいわよ、何も詰めなくていいんでしょ?」

「ああ、スポーツ大会だからな、何も持ってきてないからな。」

夜霞はすぐさま保健室を出て行った。
腹はもう結構良くなっていた。
動けないこともないだろう。
こんなことでここまで大げさになるとは・・・恥ずかしい限りだ。

夜霞はものの数分で帰って来た。
おそらくここから教室までを一直線に道を引いてそこを猛ダッシュしても到底この時間には帰って来れないだろうと言うタイムである。

「ただいまー。」

息切れもなければ軽快そのままだった。こやつの恐ろしさを垣間見た気がする。

俺はベッドから起きて腰掛ける。

「もういいの?」

「ああ、動けることは動ける。帰る程度には支障はないさ。」

「そうよねー、これで動けないとかになったら恥ずかしい限りだもんね。まあ、家までおんぶして帰ってもいいんだけどね〜、私としては。」

こいつは本気で俺をいろんな意味で社会抹殺したいらしい。

とりあえずグランドを一度見に行ってから帰ろうと言う事になった。

「おーおー、まだがんばってるなあ、あいつら・・・・」

とりあえず観客を装いながら近くまで見に行くことにした。

するとちょうど俺らのサイド側に普通っ子がいた。

「相変わらずあの子才能ないわね。」

「そういやあいつ誰なんだ?」

「秘密にするのが女性は好きなものなのよ。」

さよか・・・と心で呟きながら試合を見ることにした。

するとちょうど俺らから10mも離れていないようなところで普通っ子が地雷に引っかかっていた。

まだ仕掛け残ってたんかよ。

ちょうど普通っ子が倒れた時敵のクリアーボールが普通っ子目掛けて飛んで行った。
クリアーボールは水平に猛スピードで駆ける。おそらくサッカー部が蹴ったのかもしれない。
鋭い凶器化したボールであった。

地雷の後遺症のせいか、未だに普通っ子はそのボールに気付いていない。

なんていいタイミングなんだろうか。そう思うが実際この現象は黙って見ていられるほど軽いものではなかった。

「危ない!澄香!!」

夜霞が叫ぶ。
だか、俺はそれより速くコート内に侵入する。

(あいつを抱いて飛ぶことができるか!?いや、ギリギリ無理か・・・・しょうがねえ、体を張るか。)

即座に判断すると俺は走りながらボールの軌道上へと移動する。
ギリギリでボールの軌道上に辿り付けそうだった。

足を普段よりも速く動かす。もう別の生物みたいに自分の感覚ではなくなっていた。

ボールのすれすれまで移動した。
どこでトラップするのか一瞬迷った。俺は想像上ではジャンプして腹で取ることをイメージした。
ボールが思ったよりも高かったこともあったのだが、さっきあそこを打って腹を痛くしたことを無意識的に思い出したのだろうか、俺の体は自分の意識に反して俺は自覚と覚悟を持たないままに顔面でブロックしてしまった。

普通っ子が無事なのを横目に、もうちょっと横を見ると手を振りながら清々しく笑っていた夜霞が妙に目にとまりながら俺の意識はそこで途絶えた。

次に俺が目を覚ましたのは今日三度目の保健室であった。
やはり付き添いは夜霞だった。
俺が寝てるベッドに夜霞は一緒に入って寝ていた。

時間の感覚がなかった。
恐らく数時間しか経っていないのだろうけれど、正確な時間はわからなかった。

「おはよう、紫貴。今日は厄日かしらね。」

俺が起きたことに気付いたのだろう。夜霞も目を開けて話し掛けてきた。

「ああ、今日はいろいろと起こる日だ。」

俺はベッドから起きて、柱にかかっている時計を見ることにした。

もう8時前だった。もう少しすれば教師が見回りに来て戸締りをする時間だった。

「ちょっと寝すぎたようだ。さっさと学校から出ないと怒られちまうな。」

「動ける?」

「ああ、大丈夫だ。」

俺は鞄を持ち上げて、肩にかけた。

夜霞も自分の鞄を手に持った。帰る準備オウケイである。

俺達は靴に変えてさっさと学校を後にした。

学校のスカイラインと呼ばれる長い坂道に差し掛かった。
ここには民家も近くない、とりあえず見渡すと林が広がっている。
かくれんぼするには持って来いだった。

とりあえず俺は夜霞にこう告げた。

「・・・・一人で帰ってくれ。」

「何言ってんのよ。病人一人にできるわけ・・・・」

「・・・頼む。」

「わかったわよ。何か知らないけど無茶しないのよ。」

俺が真剣なのを察したのだろうか、夜霞はしぶしぶと了承してくれた。
別れ際のキスをほっぺにして夜霞は一人で坂道を降りていった。

「すまんな、夜霞・・・一人で帰らすのは男の道に反するんだが、事情がちょっと違う。」

俺は林の方に目を向けた。

「さっさと出てきたらどうなんだ?デートに誘いように一人になってやったんだぜ。」

「これはこれはお手数をおかけしてすまないね、紫貴君。」

林の中からうっすらと出てきたのは頬が少し痩せ細って、髪をオールバックにした中年一歩手前ぐらいの年齢の男だった。

「昼間のあれはあんただな?」

「おや、もう見破られてましたか。」

「理由を説明してくれてもいいよな?」

「我々は手柄を必要していています。そのためのトラップにあなたが引っかかった、簡単に言えばそう言うことですよ。」

「俺は詳しく知りたいんだ。」

「ならば私がお話しようかね、紫貴。」

背後から新しい姿。
全く気配を感じなかった。
ただ、ゾクリとした。背中に冷や汗をかいているかもしれない。

俺は後ろを見てその姿を確認する。

それは老人だった。ただ見た感じそうだった。
白のかかった少しウェーブした紙、着ている物と言えば中世ヨーロッパを舞台にした映画を見たときに見たような服装だった。ただ貴族風、今はこれぐらいのコメントしか思いつかない。
他に言う事があれば、無尽蔵に放たれる殺気だった。

「へぇ・・・あんたが首謀者かよ?」

「そうだ。私の名はエイダミリッツ=ガーバーン。以後見知っていてもらおうか。」

「あんたなら詳しく説明してくれるんだよな?一から。」

「簡単な説明しかお主には必要ないだろう?」

「・・・・なんでだ?」

ぴりぴりと空気が静電気を持ったように感じる。
何を言いたいのか言う前にわかってきた。
だから俺は腰を落として身構える。

「君は今ここで死ぬからだ。」

瞬きはしなかった、ほんの一瞬すら見逃さなかった・・・
なのにそいつはもう俺の目の前にいた。

次に感じたのは浮遊感と吐き気だった。

(・・・なんだ!?俺は一瞬すら見逃さなかったぞ・・・)

相手が俺の腹に掌手で攻撃したということを気付いた時は俺はもう地面に膝を付いて倒れ込みながら咳き込んでいた時だった。

「鈍いな。所詮人間ということか。じゃあ、もう死ね。」

膝をついた状態から上を見上げるとするどい凶器のような手で俺を刺し殺そうとしているやつが目の前にいた。

「・・・ちくしょう・・・」

皮肉交じりに俺はただそう言う事しかできずに死を予感した。
その時だった、木の葉が一つ落ちてきた。

俺はそれを天の使いだと信じながらもう一つ上を見上げた。
そこには一人の天使が舞い降りるところだった。

そう、祖父からいつも聞いていた、あの姿とだぶる。
そして俺は祖父の話を思い出した。


あいつは限りなく綺麗な女性だった。
だが心は幼く幼児と一緒で純粋そのものだった。
俺が生きてる中であいつと過ごす時間だけが俺は本当の人間として感情を持つことができた。
あいつには感謝してる、そう、あの

――純白の吸血鬼――

「・・・アルクェイド=ブリュンスタッド・・・」

まるで夢の中にいるようだった。ただ虚ろであった。

だが、目の前の殺気が妙に遠くに感じた。
実際俺を殺そうした相手が後ろに下がったようだった。
それは気配で確認した。

俺の目は目の前の女性に釘付けだった。

そう純白の吸血鬼に。

「久しぶりね、エイダミリッツ。まさかこんなところにいるとは思わなかったわ。シャードも一緒とはね。」

「これはこれは姫君、お久しぶりですな。」

答えたのはエイダミリッツだった。

「私とここでやり合う?賢い選択とは思えないけど。」

「まだまだ君には敵わない、また数日後に改めさしてもらいましょう。そう、あなたを殺せるようになる時まで。」

「ふん、いつだって返り討ちよ。」

そう言って二人分の気配が消える。
そう俺を殺そうとする者は消えた、だが俺の気持ちは高潮したままだった。

「さて、問題はあなたね。」

そう言って吸血鬼は俺の方を見る。

「何故私の名前を知っているのかしら?」

「簡単に言えば、俺が遠野志貴の孫だからだ。そう言えばわかるだろう?あんたには」

一度顔を引きつかせた後に、満面かどうかは置いておいて、笑顔を浮かべた。

「へぇ、因果なものね。どう?私の家に来る?お茶くらいなら出してあげるわよ。」

そう言って俺は手を引かれるままに純白の吸血鬼の家へと行くことになった。